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ありえない

遅れて申し訳ありません。来週テストなんでまた遅れます…

「てめぇ、こっち来いやぁ!」


そう怒鳴られれば、俺は従わざるを得なかった。だから怒鳴り散らす母親の所に行った。泣いてても普通にしてても、何をしてても怒られるんだから、もう適当にしてた。


「ほんっと、トロくせぇガキだなぁ、奈緒子、お前の教育がなってねぇからだぞ!」

「ふざけないで!私はちゃんとやってるわよ!そのガキが悪いのよ!」


物心つく前から、俺は殴って蹴られて罵倒されての毎日を過ごしてた。もちろん学校には行ってたけど、外っ面だけはいいから、俺にされている事なんて誰も知らなかった。
















「…っ、…ぃ!…ぉい!おいっ!」

「っ!?」


揺り動かされて目が覚めた。見上げれば誠太と初瀬の顔があった。どっちも焦った顔してる。何でだ?と思っていると、頬に冷たいのが幾筋も伝った。


なんで…泣いてんだ…?


「古雅ちん大丈夫?すっごいうなされてたけど」


誠太は多分、理由を知ってる。俺がうなされてた理由。

呆然としてる俺はすごいアホみたいな面してんだ。だって初瀬が呆れてる。初瀬が呆れてる時って、大概俺がアホな時か馬鹿な時だ。不意に初瀬が誠太より前に来た。俺に近づいたって事。


「馬鹿っ」

「…っ、ってぇ!!!!」


初瀬はいつもなら出さない大声で馬鹿っつーと俺にビンタした。


「んだよいきなり!!!」

「ずっと目を開けたまま寝てるからよ!」

「はぁっ!?」


ヒリヒリしてどーしよーもない頬を押さえながら反論する。容赦ねぇんだよこれが。鏡見たらぜってー赤く腫れてる。おたふく風邪みてぇに、なってる、ぜってーなってるって確証があるくらい、痛い。

でも、その痛みで正気に戻ったのは事実なんだ。


「なに柄にもなくずっと思いつめた表情してんのよ馬鹿!…あぁ、馬鹿だったわ。落ち込むなら勝手にどこか他所でやって頂戴、私のそばでは御免こうむるわ」

「…………ありがと」


なんで、ここで礼を言うのかはちょっと俺にも分かんなかった。

でも、言わなきゃいけない気がした。初瀬も面食らったのか目をパチクリさせてる。元々デカイ目がもっとデカイ。


「まぁ大丈夫だからよ、教室戻ろうぜ」


俺はなんとか、そう言って立ち上がった。若干目眩がするけど、大丈夫だろう。


「ま、帰るっつっても家に、だけどね〜」

「は?」

「古雅ちん、午後の授業見事に全部すっぽかしたね〜」


まじかよ、誰か起こしに来なかったのかよ、つか保険の先生どこ行った。


「先生なら私が起きた時にちょうど帰ってきてまたどこかに行ったわ。貴方だって高校生が男女で保健室って言ったら大方予想はつくでしょ。あの先生、だから保健室にほとんどいないのよ」


おい、それでいいのかよ。仮にもセンコーだろうが。いいのか。男子諸君にとっては最高だろう、ちなみに今の生徒会長は珍しい事に女なのでテンプレ展開は当分ない。

取り敢えず、荷物を取りに教室まで戻った。途中ですれ違った越前にかなり文句を言われたが初瀬のおかげで数分で終わった。初瀬がいなかったら多分十倍の時間はそこに盗られてた。


「あ、初瀬、わりぃけど今日練習はいけねぇ」

「バイトでしょ?分かったわ、明日の練習を二倍にすればいいだけの問題だから」


何ちゃっかり恐ろしい事言ってくれちゃってんの初瀬さん。楽しいからいいけどよ、ちょっと休みくれねぇかな。俺いい加減ぶっ倒れるぞ。


「誠太ぁ!もう、どこ行ってたの!」


はぁ、とため息をついたところに由奈が来た。時計を見れば帰りのHRが終わって四十分くらい経ってた。その間ずっと待ってたんだろうか。


「ごめんね〜、今行くよ〜」

「また古雅くん?」

「まぁね、じゃ、お先〜」

「おぅ、またな」


初瀬も俺も手を振る。初瀬が手を振ったのに対して由奈は少し不満そうだったが、すぐに誠太にべったりくっついた。


「じゃ、俺らも帰るか」


鞄に適当に教科書を詰めて肩にかけた。だけど初瀬は動いてない。


「どした?」


そう声をかけても俯いて、顔を上げない。

後ろの窓から夕暮時特有の日差しが入ってくる。それがいやに目に焼き付いた。


「お…」

「古雅は、私といて何も思わないの?」
















ガチャンッッッ

って、音がめっちゃ玄関に響くくらいに強く閉めた。息も心臓の音も、思考も、全部荒い。ずるっとへたりこんでぼーっとする。汗が背中を伝ってて気持ち悪い。

「やべぇ……」


やっちまった…初瀬、ぜってぇ不信に思ってるはずだ…。


『古雅は、私といて何も思わないの?』


その質問をした、初瀬は、何かを望んでるような目をしていた。そう、それこそ、愛情とか。

考えただけで吐き気がする。俺にそんな目を向けないでくれ、そんな目を。


どんくらい玄関にいたのか、分かんなかった。スマホに電話がかかってきて初めて時間を見た。六時過ぎてた。


「もしもし…」

『古雅ち〜ん?俺だけど〜』


電話は誠太だった。


『今日から俺っち親いないんだよ、めんどいから1週間居候させて』


誠太の親は両方ともどっかデカイ会社のお偉いさんだ。だから一週間とか二週間とか家にいないなんてザラだ。そういう時は決まって誠太は俺んとこに来てた。誠太の親はそうさせたくないみたいだけど。


「いいぜ、服と金とスマホの充電器持って来い。あと歯ブラシ、それ以外は貸してやる」

『相変わらず細かいねぇ…なんで充電器』

「俺が使えなくなる」

『あーね、じゃあ今から行くね〜』


電話を切ってほんとすぐ、5分くらいで誠太は来た。俺はそれまでに玄関から引き上げて制服から私服に着替えた。


「おじゃま〜、古雅ちん、大丈夫〜?また首に傷できてるけど…原因は初瀬ちん?」


俺はどうやら癖で首を引っ掻くらしい。だから赤い筋が何日も消えなかった事とかよくある。その癖が出るのは専らそういう事を考えてる時だ。


「まぁ…そんなもんだ」


適当に飯食って風呂入って、誠太にババアが使ってたベッドを貸して、十時くらいには寝てた。寝るとき、また初瀬の言葉が脳裏をよぎった。


それがすごく嫌だった。





















父親はほとんど家にいない。金は振り込まれてたらしい。年に二三回帰ってくれば、いい方だった。だから母さんは好き勝手に男連れ込んでた。キャバ嬢だかソープ嬢だかなんだかやってたから、そこら辺…金にも男にも困んなかった。


中学に入って背は高くなった。ガタイも良くなってきた。


だからか、母さんの 、連れてきた男らの中にいた、バイの野郎に、犯された。


顔がそこそこよかったからなのか、それともくそガキだからなのか、とにかく、犯された。そいつらは毎回、俺に「これは愛情表現だよ」つってきた。

今度はそいつが女連れてきて母さんとそいつ、そいつの女と俺。そういうのがどんどんエスカレートしてって、元々半分くらい人間不信とかそんなんだったのが、もう、全部、ダメになって。



だから俺は人をどう愛せばいいのか分からない。

ああいうのが愛情表現なら俺は愛情とか大嫌いだ。

だから、俺は、人を、他人を、自分を、愛せない。

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