練習という名の地獄
毎度毎度遅くてすみません…
例えば。
睡蓮
例えば。
薔薇
例えば。
鶴
例えば。
鷹
どれも綺麗でどれも強い。どれも好きだけれどそのどれにも私はなれなかった。
「どうしてできないの?ここをこうすれば、ほら、できるでしょ?」
近くの市営体育館のステージ上。私は古雅に物理を教えてた。学校が終わって数時間後、朝言った通りに市営体育館に練習をしに来た。昼休みに物理が壊滅的にできないという事が判明したので、練習ついでに教える事にした。中学の基礎もできてないから正直びびった。なんでオームの法則を覚えてないのかしら。
「できねーって!なんでそーなんだよ!」
染めてない綺麗な黒髪をわしゃわしゃかき回す。子供か。
古雅は髪を染めたりピアスしたりしない。学校のほとんどの男子がしてるのに、ネックレスもつけない。唯一、左の手首に水色と青の石のブレスレットをしてるだけ。だから、ケータイを届けた時に驚いた。もっと派手な男子…それこそ古雅の隣にいたような奴とかかが持ち主だと思ってた。まぁ、そんな古雅も多少は服を着崩してたりしたからなんか安心した。なんの安心だよ、と自分でツッコミ入れたけど。
「おい初瀬、聞いてんのか」
「えっ!?あぁ、なに?」
自分らしくない。一人の男子に対してここまで考え込むとか。
「…珍しいわね。合ってるわ。じゃあ、次はこれね」
と応用問題を出す。あからさまに古雅の顔が歪む。ほんっと、いちいち反応がガキね。
「だーーーーっ!!!出来た!」
「やっと?まぁそれの答え合わせは後にしましょ。時間を食い過ぎだわ。そこのトランクとって」
応用問題を出してから十分後、やっと顔をあげた古雅にため息をつきながら、道具の入ったトランクを受け取る。
「なぁ、本当に俺でもできんのかよ」
「よっぽど運動神経が悪くなければできるわよ。第一、私だって始めて五時間でカスケードはできるようになったんだから」
そういうのを才能って言うんだよ!と隣で聞こえた気がするけど、無視。ボールを三つ持ってステージを降りる。見た事がないらしいから、まずは見せなきゃ。
「右手でも左手でもどっちでもいいけど、ボールを片手に二つ、もう片方の手に一つ。二つ持った方の一つを、体の中心に頂点が来るように投げて、キャッチ。ボールが頂点に来た瞬間に反対の手のボールを投げる。そのボールが頂点に来た時に、二個持ってた方で残ってるボールを投げるの。分かった?」
「ぜんっぜんわかんねぇ」
「……まぁいいわ。まずは一つから始めましょ」
期待はしてなかったけどあそこまではっきりと分からない表情して即答するとは…古雅を見誤ってたかしらね。取り敢えず、ボールを持たせてやらしてみる。投げてキャッチ、という一連の動作を体に染み込ませる。
「っと、これでいいのか?」
中々綺麗な投げ方をした古雅はどことなく不安そうに見てくる。
「最初はこんなものよ。じゃあ、右手から投げて、一回も落とさずに二百回連続で投げなさい。それが終わったら反対の手からも。それも終わったら次は二個でいくわよ」
「二百っ!?」
「そうよ?言ったでしょう?基礎基本が大事なの。最初はこんなものよ」
テニスや卓球、野球もサッカーも、最初は素振りやキャッチボールなんかで始める。最初っから十で始めてできるのは、それこそ天才だ。そんな人は万人に一人いればいい方。だからまずは基礎基本からだ。
古雅は、文句を言いながらもボールを投げてた。私はその間に演出を考える。折角だから、いつもストリートとかでやるのとは違う見せ方にしたい。
あーでもないこーでもない、と考えていると、なんとなく、古雅が気になった。ちらり、と見てみると、意外とかっこよかった。
古雅は目つきこそ悪いけど顔は整ってる方だ。目は大きいし、鼻筋は通ってるし、肌だって女子よりも滑らかで白いかもしれない、背も高いし、私はどっちかっていうと神崎誠太よりも古雅の方が好みだ。ガキっぽいけど、意外と熱心だし、取り敢えず文句も言わずに付き合ってくれる。元々優しい性格をしてるんだろう。ころころ表情が変わるのも見てて面白かった。でも、最近、見てて分かった事がある。確かに百面相みたいに表情は変わるけど、笑ってる顔が極端に少ない。なんでだろ、と気になってた。
「初瀬ー、ちょっといいか?」
「なに?」
古雅の事をまた考えすぎてて、手が止まってた。ノートはほとんど真っ白だ。
「俺さ、ボール以外にもなんかやる事ってあるか?あのー、ほら、あれとか」
「あれってなによ」
「あー、あれだよ、なんたらコマっていう奴」
「ああ、中国コマ?ディアボロ、これの事?」
道具の入ったトランクを開けて中から紫色のディアボロを取り出す。それそれ、と古雅が指差して頷く。確かにやるんだったらコレもやってほしい。
「……やってもいいけど、どうして?」
「どうしてって…やれた方が楽しいし、役に立つだろ」
役に立つって……まぁ、折角やってくれるっていうなら、やってもらおうかしら。私は古雅にそう言って、ボールをもう二つ渡した。え?という顔をしたけど、仕方がない、時間がないんだもの。
「じゃあ、ディアボロもやる事になったし、時間がいくらあっても足りないわ。二つの過程をすっ飛ばして三つの練習に入るわよっ、スタルパでも気にしないでね?」
古雅の顔が真っ青なったのは、言うまでもないわね。
「ちっくしょぉぉぉ、初瀬ぇぇぇ」
練習から一夜開けて朝の教室。俺は首と足腰の筋肉痛に悲鳴をあげてた。あいつまじでスパルタな!初心者だっつーのにいきなり三つ回せとか、鬼畜だな!結局家に帰ったのは十二時過ぎてたよ、体育館も閉まるってんで最後は公園だったからな練習場所!
「まぁまぁ、取り敢えず殺されるからそれ以上初瀬ちんの名前出さない方がいいと思うよ?」
「ダブルで殺されんのかよ俺は!」
初瀬と初瀬ファンクラブの面々にか!?ふざけんなっ!
俺は決意した。もう二度と気まぐれとか起こさない、間違っても初瀬とかなんと付き合ってやるかボケぇぇ!!
って、決意したはずなのになんで俺の目の前に初瀬がいんだよっ!
ステータスコーナー
古雅樹 15歳
誕生日→9月14日
身長→179㎝
体重→54Kg
好きなもの→菓子、ゲーム、漫画、桜
嫌いなもの→初瀬、恋人、恋愛、両親、夏
性格→優しい時は優しいけど、嫌いなものや人に対してはとことん冷酷&非情。基本面倒くさがり。考えなしのところがある。何気英語が得意で、そこそこ喋れる。
誠太とは幼馴染みで小中高と同じ学校になったのが嬉しいような嬉しくないような…。