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気持ち悪りぃ

俺は人を愛したくない。恋したくない。

理由はもちろんある。あるけど、話したくない。俺の周りでそれを知っているのは誠太だけだ。


「あ、センセ来たー」


間延びした声で俺は我に帰る。見れば胡散臭いアホ教師が戸口に立って飴を口の中で転がしてた。

ダルそうな声で朝のホームルームを始める。

いつもならもっと早くに、こういう感覚から立ち直ってるはずなんだけど…

今日はなんか、気分が落ちたまんまだ。






「どうしたよー、樹ー。おかしいぜ?」


昼休み。屋上で飯食ってると信条新しんじょうあらたがそんな声をかけてきた。信条もまた見事に髪を染めてる。オレンジに。目立つんで街歩く時は極力離れてた。俺は髪を染めてない。真っ黒なまんま。なんでって、よく聞かれるけど、気分だ。いまいち染める気になんない。

多分、同じになるからだ。


「あー!初瀬さんだ!」


信条がいきなり大声を出した。俺はまた我に帰って信条が見てる方を見る。


「あら、今朝のおバカさん。こんな所で奇遇ね」


やっぱり初瀬は可愛いとかよりも綺麗の方が似合っている。同じ15歳だとは思えない。スーツ着たら社長秘書に見えるくらいに、大人びていて異次元だ。


「初瀬さーん、お一人ですかぁっ!?」

「ええ。ああ、でも一人で食べるわ。気にしないで」

「つれないなぁ、一緒に食べましょうっ?」


信条が振り向かないとわかっているくせに、バカみたいに初瀬を誘ってる。あー、なんか、ウザい。教室戻ろ。いつもは昼休みが終わるギリギリまでここにいるくせにさっさと帰ろうとした俺に、信条が「あ!」と声をあげる。


「俺先に帰ってるからー」


そんだけ言って階段をテンポよく降りた。

降りて教室に入ろうとすると一人の女子に止められた。


「何」

「ちょっとだけ待ちなさぁい、今オモシロイコトやってんのよ」


真野杏まのあんがそう言って閉め切ってる窓を少しだけ開ける。見れば廊下にクラスの奴ら全員出されていた。一人の女子と一人の男子を除いて。


「まさかとは思うけどよー、公開告白って奴?」


いやーな予感は見事に的中。わっりー顔した真野が頷いた。ため息ついて薄く開いた窓から中を見る。ビビった。中にいたのはクラスで今んとこ1番人気の女子、遠藤由奈えんどうゆなと誠太だったからだ。

あいつ、初瀬がどーたらこーたらとか言ってなかったか?

耳をすませば遠藤が誠太に告ってた。誠太は笑顔でうなずいてた。どうやらOKしたようだ。

それを見た真野はガラっ、と勢いよく教室のドアを開けた。


「おめでとーーーー!!!ほら、あんたたちも!」

「「「おめっとーーー!!!!!」」」


クラスの奴ら全員で誠太&遠藤カップル成立祝賀ムードに包まれた。遠藤と誠太は嬉しそうな顔で礼を言ってる。

みんな、二人が両思いになれた事を嬉しそうに祝ってる。


気持ち悪りぃ


俺は急いでトイレに駆け込んだ。


「おぇっ…ゲホッ、おぇぇぇっっ…!!」


昼に食ったもんも、それ以外も、とにかく腹んな中に入ってるもん全部出したかった。気持ち悪りぃ、今はそんだけだ。チャイムが鳴ってるけどんなもん関係ねぇ。しばらくあの教室には戻りたくない。


俺は告白とか見るのが世界で一番嫌いだ。

吐き気がする。まぁ、現に吐いてんだけど。俺は何よりも、愛情が一番嫌いだ。


だから


手を口で押さえてトイレから出る。


俺は


ちらっと鏡に映った俺を見た。ひでぇ顔だった。


愛せない。










教室には戻りたくない。じゃあ他にどこに行くんだ、ってなったんで屋上に行った。あそこは風が気持ちいい。今の俺には一番いい場所だろう。

数十分前に通った道を戻って鉄のドアを開けた。


「あら、古雅くんもサボり?」


そこに初瀬が残ってるなんて思いもしなかった。


「なんでいんだよ……」

「私の自由よ。授業、つまらないんですもの」


おいおい、んな事言っていいのかよ。俺とか誠太みたいに既にサボりの常連と化してるような奴じゃねぇだろ、お前。


「目つき…直したらいいのに。結構かっこいいってうちのクラスの娘たち、言ってたわよ?」


目つきねぇ、生まれつきなんだからしょうがないだろ。これでも改善された方なんだよ!そう言うと笑われた。んだよちくしょう。

特に俺と初瀬はその後何も話さなかった。初瀬は本読んでるし、俺は拾ってもらったスマホいじった。最近ハマってる音ゲーをやり始め、最高ランクを叩き出した所で初瀬が話しかけてきた。


「古雅くんって、何故ピアスもやらない、髪も染めないの?校則違反にはならないでしょう?」


俺は一瞬返答に迷った。

だけどここで変に隠して後々面倒い事になるんだったら、言ったほうがいい。俺はそう判断して少しだけ話した。


「ダブるからだよ、親と」


その、周りにいた奴らとも。

これは言わなかった。なんとなく、こっちは言わない方がいいと思った。嘘はついてないから、大丈夫だと思う。


「そう、じゃあ、ご両親が嫌いなのね」


初瀬はそう言っただけだった。

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