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7 とある女官の独り言②

 三男ミドラドルさまは、『期待されていない王子』として有名です。


 と言うのも、この国では、5歳になる子どもは全員が自分の『守護精霊』の系統を調べるのですが、ミドラドルさまは、その系統がなかったそうなのです。『守護精霊』がいなくては魔法は使えません。


 系統と言うのは、火、水、風、土、それからちょっと特殊な、光、闇です。

 ちなみに私は水です。


 系統は生まれながらのものです。普通はそれにしたがって魔法を習います。

 2系統以上使えるのは『守護精霊』以外にも、他系統の精霊に愛されている、ということなのです。

 でも、そんなのは稀です。


 特殊な系統の光は、『人間』の大陸に多いそうで、こちらの大陸には使える者は少ないです。

 他にも、闇は、魔王陛下に近い魔族たちに多いそうです。


 全く系統のない、ミドラドルさまのような方は、今までにいなかったそうなのです。


 系統を調べる水晶があるのですが、それは系統によって色別に光輝くものです。

 それが、何色にもならないなんて、前代未聞です。


 ミドラドルさまは、先王さまや大臣たちや多くの方から、全く相手にされなくなったそうです。


 そんな中で、『期待されていない王子』さまは、次第にグレてしまったとか…。

 そりゃそうですよ!私でも、嫌になりますよ。


 花街をうろついたり、ケンカも日常茶飯事、お酒を飲み過ぎてのいざこざ、本当に問題が多すぎる王子さまです。


 それでも、民からしてみれば、下町に降りてきたり、民とお酒を飲んだり、こちらの軽い口調にも腹をたてない、最も民に近い方で気さくな感じで人気があるのだそうです。


 そして、女性には、とてつもなく優しい方…。

 甘い口調と、キレイな顔…それだけで、クラクラさせられます。


 お陰で勘違いする方は後をたたないそうです。


 ちょっと気持ちがわかります。


 だって、一生懸命に洗濯物を洗う顔さえもキレイなんです。

 女性よりキレイなんて、ズルいです…。


 じっと見ていることに気付いたのか、こちらに視線を向けて、首を傾げます。


「どうした?ミリア」


 う!名前を呼ばれると、ドキドキします。


「いえ、何でもありません」


「くっ」


 !!笑われた!私は何かしましたか?


「さっきの勢いはどこに行ったんだ?


 そんなに気負わなくとも、最初の話し方で構わないよ」


 いや、そんな訳にはいかないでしょう。


「しかし、大変だな、ミリア。毎日これか…」


 今日は少ない方です。とは言いません。


 しかし、王子…。あなたは何者ですか?

 手際が良すぎです!

 洗濯お上手です!!


 あっという間に終わってしまいました。

 干すのも私より上手です。


 ミドラドルさま…あなたはすごいです!




 後日、私が見かけた王子さまは、庭師見習のところで、泥だらけになって肥料作りを手伝っていました。

 …泥です!すごい臭いがしたとはいいません!

 あの見習い…真っ青を通り越して白い顔で王子を見ていました。

 なぜ寄りにもよって、あの仕事なのでしょう?

 

 ちなみに、また別の日は窓ふきをしていました。

 ただの窓ふきではありません。塔の上の開かない窓を足場もないのに、外から拭いていました。

 紐で吊られているとはいえ、危険です!

 とても王子さまがするような仕事ではありません。


 また別の日は、お城の外堀のゴミ拾いをしていました。

 膝まで水に浸かりながら、いえ、ヘドロにまみれながらのゴミ拾いです。

 あれは…臭いが取れるのでしょうか?



 そして、今日、またミドラドルさまが、私を手伝いにやってきました。

 臭いは…しません!すごい!!王子さまマジック?!

 さわやかな匂いがします!

 どうやら、私が知っている以外の仕事もしていたようです。


 厨房でいも100個やお皿と格闘したり、地下水路でネズミや黒い悪魔と格闘したり…


 なぜそんな仕事ばかりなんでしょう?

 

 確かに、今回の問題行動で、罰として仕事をするように言われたことは、みんなが知っています。


 だから、各部署の上のほうの方々は、王子に聞かれたとき、していただく(たぶんあまりキツくない)お仕事を考えていらっしゃるそうなのに…

 

 まさかそんなにすぐに働き始めると思っていなかったから、初日にまだ話が伝わっておらず断ったのが良くなかったのでしょうか?

 王子さまは自らいろんな部署の下っ端に声をかけて、下っ端ならではのキツイ仕事を率先してやり始めたのです。


 上の方々は焦っています。

 まさか、王子がやるような仕事じゃないのだもの。


「どうしてそんなに大変な仕事を選ぶんですか?」


「大変って…お前たちはしているじゃないか?」


 あれ?笑われました。

 確かにそうなんですが。


「何でもしておいた方がいいだろう?

 

 いつなにがあってもいいように…」


 はっとしました。


 この方は…自分がいつか『王子』じゃなくなる時が来ると思っているのでしょうか?


 さみしそうにそんなことを言わないでください!

 胸が痛くて、熱くなります。


「そうだ!これ…」


「なんですか?」


手渡された小さな小瓶に首を傾げます。


「薬だよ。寝る前に手に塗るといい。


 手荒れがひどいから、気になってたんだ」



 ああ!本当にこの方は…!!


 あまりのことに、ジンとしてしまい泣いてしまった私を心配そうに…

 大丈夫か?と静かに頭を撫でてくれる。



 先王さま、この方は魔法も剣も弓も…使えないかもしれません!


 でも、やさしい方なんです!!


 何も持たない『期待されていない王子』さまは…とってもやさしい方なんです!!


 それに、どうか気づいてください!!



 本当に、本当に、優しくて…さみしいお方なんです。



 気づいてください!


 でないとこの方はきっと…




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