6 とある女官の独り言①
こんにちは!
私の名前は、ミリアって言います。
王宮で働き始めて1ヶ月の新米です。
憧れの王宮での仕事はとっても大変です。
私が配属されたのは、洗濯場。洗濯場は…名前の通り、洗濯する部署です。
ここで働き始めて、手荒れがひどいです!
皮がむけて、水がすっごく浸みる!!正直痛いです!!
でも、頑張っています!お給料がいいんで…
私の実家は、ちょっと大きな商家で、この仕事は花嫁修業の一環なんです。
花嫁修業なのに、こんなに手を荒らしていいんでしょうか?
王宮に来て、1ヶ月ですが、やっぱりこんな端っこの部署ですし、王族の方にお会いしたことは一回もありません。
ちょっと期待していたんですが、やっぱり遠い世界の方々ですし、近くで見ようだなんて甘いですよね。
人気なのは、4人の王子さまと末の王女さまです。
王子さま王女さまは、とっても綺麗なお顔をしているんです。
王都のお土産もの屋さんで似顔絵を売っていたりするんですが、きらっきらのお顔です。
でも、洗濯場の先輩方が言うには、中身はちょっと…かなり残念な方が多いのだそうです。
まず、長男のワイデルトさま。
今、軍に所属していらっしゃるので、結構がっしりした体型で、弓も剣もすごい実力なんだとか。
キラキラの金髪を短く刈り上げ、男らしく、勇ましい姿にうっとりする方も多いそうです。
でも、この方、とにかく無口。全く?ほとんど?喋らないそうです。
挨拶をしても返さない。話しかけても無言。
本当は喋れないんじゃないか、と思われるくらい話さない方のようです。
なんでも、側仕えの女官が初めて声を聞いたのは、働き始めて一年した頃、しかも弟君が話しかけたことに返事をした時だったとか…
それもどうなの??
そして、次男ニキケイラさま。
この方は、すごい魔法使いです。2系統の魔法を使えれば、国家魔法使いになれると言われるくらい、他の系統を使うのは難しいそうなのですが、この方は3系統使えるらしいのです。
ワイデルトさまよりも薄い金髪に、あまり背は高い方ではないのですが、きりっとしたお顔は凛々しく美しいそうです。
でも、この方は、びっくり発言?失言?がとにかく多い。
例えば、太ってきたことを気にし始めた女官に「最近太ったな。それ以上増えたら、見るに堪えれんぞ」とか。
人間関係に悩んでいた侍女に「そんなに暗い顔をしているから、虐められるんだ」とか。
本当に、素で、悪意なく、本心から、そんな発言を繰り返すものだから、傷口に塩をすり込まれたくない人はあまり近付かないんだとか…。
私も近付きたくないわ!!
そして、四男ヨルムンドさま。
この方は、とにかく頭がいいようです。どんなことでも、一度学べば、決して忘れない。それに、まだ若いながらも剣の方でも魔法の方でも頭角を表しはじめたとか…
いつもにこにこと笑っていて、優しげな表情と、柔らかい仕草、子どもが憧れる王子さまそのものなのだそうです。
でも、この方は…少し、変なのだそうです。
双子の実の兄に異常なまでに執着していて、明らかに常軌を逸しているとか…。
なんでも、「ミッド日記」なるものを書いていて、その日の兄の行動をつぶさに観察して日記を書いているのだとか。
…正直、聞いたときは鳥肌が立ちました。
そして、末の王女アリサキスさま。
この方は、まだ10歳なんですが、将来が楽しみなくらいの美少女です。間違いなく傾国の美女になる予感です!少しウェーブのかかった金の髪。大きな瞳。赤い唇。かわいらしく笑う様は、花が咲くようだとか。
でも、この方、性格も笑顔も、全部計算しているんだとか…。
自分がどうすれば、かわいくみえるか、守ってもらえるか、すべてを計算しての性格なのだそうです。
10歳、怖えです。
そして、たった今、目の前にいて、私が現在、胸倉(は届かなかったんだけど)を掴んでいるのが、三男ミドラドルさま。
やばい!!
私はさっきなんて言って、胸倉を掴みましたっけ?
『なにぼさっと突っ立ってやがるんですか!なんてことしてくれやがったんです!』
ああ、一言一句違わずに思い出しました…。
なんてことをしてくれやがったのは、私ですよ!!
相手が呆気にとられているうちに逃げるしかありません!!
そっと掴んでいた手を外して…。
よし!!
勢いよく振り返って、走り出そうとします。
が!!腕を掴まれました!!
うわ~ん!!不敬罪?不敬罪ですか、私!?
「…忘れ物だ」
え?
「逃げてもいいが、このまま放り出すと怒られるんじゃないか?」
「…」
そう言って、洗濯物を指さします。
そして、謝罪した私に、洗濯を手伝うと言って、さっさと汚れた洗濯物を集めていきます。
「俺のせいでもう一度洗う事になったのに…。
それ以上お前の手が荒れるのを俺が見たくないだけだ。
気にしなくていい」
そう言われて、私はちょっとドキドキしました。
うわ、この方は本当にウワサ通り、心臓に悪い…。
重い洗濯籠を片手で持って、さっそうと歩きだす背中を追いながら、私はしみじみと思いました。
――――ああ、この方が、「期待されていないが、人気のある王子」か…と。