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仕事を見つけると言っても、これは大変だな。
取りあえず、侍女に声をかけてみたが、俺が王子と分かっているので、滅相もない、とか言って逃げられてしまう。
いや、侍女だけじゃない、女官も厨房も下働きも衛兵も、王子に仕事をくれるわけがない。
そりゃそうだろう!
どこの世界に王族に仕事をさせる庶民がいるんだ。
仲がいい(と思っていた)女官や兵まで「ミドラドル様は何もしなくていいんですよ」とか言って、温かい眼で見てくる。
…なんだ?祖父さまの呪いか何かか?
それとも俺には何もできないと思っているからか?
実際、何ができるかはわからないが…
ああ、くじけそうだ。
「ハ○ーワークはないのか…」
まったく無駄な独り言だ。
くそ!この世界の奴はどうやって仕事を見つけるんだ?
半日、声をかけまくったが、ダメだ。
王子どうこうよりも、噂のせいか、明らかに避けられてしまう。
人って…日頃の行いがものを言うんですね…
ため息まじりにトボトボ廊下を歩く。
くじけそうだが、諦めてなるものか!!
そうだ!!前世の職場の先輩が言ってたじゃないか!
仕事とはもらうものじゃない!見つけるものだ!!
とりあえず、広い王宮を歩き回る。
廊下を歩いて、部屋を出たり、入ったり、中庭に行ってみたり、温室に入ったり、馬屋に行ってみたり…
本当に、大勢の人が働いている。
…俺は、この世界では、みんなに生かされているんだな。
ぼんやりと歩いていると、廊下の角で、どん!!と誰かにぶつかった。
「ぎゃっっつ!!!?」
俺は倒れなかったが、ぶつかった拍子に相手は叫びながら後ろに転がる。
しかも、手に持っていた洗濯物の籠も一緒に転がる。
洗濯物が辺りに散らばる。
――――マンガか!!!?
やばい!!曲がり角でパンをくわえた女子高生…じゃないが…。
何かが始まるのか?フラグの予感か!?
「悪い。大丈夫か?」
とりあえず、手を差し出し声をかける。
女官は、洗濯物を見て座り込んだまま唖然としている。
やばい眼が潤んできた!泣きそうか?この娘…
「なにぼさっと突っ立ってやがるんですか!なんてことしてくれやがったんです!」
彼女は俺の胸ぐらを(届かないから、少し下だけど)掴んで、大声で叫んだ。
うん…
曲がり角でぶつかった女の子と恋に落ちるのは、マンガの中だけでした。
というか、「ぎゃっ」って…。
まるで、噛みついてきそうだ。
お母さん…(どっちのだ?)
この子ちょっと怖いです…
「申し訳ございません!!」
ぶつかった女官は、土下座をしそうな勢いで謝罪してきた。
土下座しそうな勢いって言うか…土下座だ。
頭が地面にのめり込みそうだ。
あの後、しばらく胸ぐらを掴んだまま睨み付けていたが、俺が誰かを気付いたのか、みるみる青い顔になっていった。
そして、そっと掴んだ指を外して、洗濯物を置いて、逃げようとした。
そんな彼女を捕まえて…
今に至る。
「いや、そんなに謝らなくていいよ。
それより、悪かったな。
せっかくキレイに洗ってくれたのに…」
そう言いながら、散らばった洗濯物を拾って籠に入れる。
お!待てよ!
これは、チャンスなんじゃないか?
女官は慌てて顔を上げて、俺に負けじと洗濯物を拾い始める。
「あ!あっ!だめ!ダメです!
ミドラドル様!止めてください!手が汚れます!」
「気にするな。…それより、洗いなおすんだろう?
手伝おう!」
俺がそう言うと、女官はさらに顔を青くして、首を振る。
…さっきの勢いはどこに行ったんだ?
ああ…見たくなかった女の子の2面性を見た…!!
だが、拒否する女官を無理やり言い含める。
ん?変な意味じゃないよ?
洗濯の手伝いだからね!!
というか、一緒に洗濯物を拾っていた女の子の手が気になってしまった。
ひどく荒れていて、俺のせいでぶちまけたのに、もう一度洗わせるのが、気の毒に思った。
「俺のせいでもう一度洗う事になったのに…。
それ以上お前の手が荒れるのを俺が見たくないだけだ。
気にしなくていい」
そう言うと、女官は顔を真っ赤にして、小さな声でお礼を言う。
俺は、うらやましいとは思わない!
だけど、『ミドラドル』はこういう時、いいよな。
かなりフェミニストなんだよ!!
軟派な性格は伊達じゃない!!
女の子には、相当優しい!
だから、モテるんだよ!
…ま、『日本人』の俺が…フェミニストなわけもないし…
うらやましいわけじゃないんだよね。
別に!モテていいよな…とか思ったりなんかしないよ!!
だって、どっちも俺じゃん?
モテているのも、男前なのも、フェミニストなのも…!
何度だっていうけど!
別にうらやましくなんかないんだよ!!
…大事なことなので三回言いました…
本当だからね…