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俺の父親が、ロリコンだ、とか思うのはやめてほしい。
確かに、幼く見える俺の母親だが(実際、性格も幼く見えるが…)こんななりでも、すでに300歳を超えているのだ。
エルフの寿命は、700歳から1000歳。そう考えると、俺の母親はまだ若いが、もういい歳だ。
1000歳というと、永く感じるかもしれないが、実はそうでもない。この大陸には、何百年も生きる種族はざらにいる。
逆に、短すぎる『人間』みたいな種族がいないので、これが普通なのだ。
まあ、俺は前世で『人間』時代のことがあるので、すげえなげぇよ!とか思ってしまう。
「…で?ミッくん、体調は大丈夫なのぉ?」
舌ったらずな甘ぁい声で聞く。
だから、歳を考えろ!
「大丈夫だよ。兄上が大げさなんだ」
あら?と母上は首を傾げる。
多分だが、返事をしたことが不思議だったんじゃないか?
まあ、兄上みたいに体調を心配されないだけ、マシだが…!
一瞬、不思議そうな顔をした母上は、すぐに笑顔になると、俺が一番避けたい爆弾を投下する。
「そうそう、ミッくん、お祖父さまが呼んでらしたわよ」
うげっ!!
うん…
今のは絶対に全力で嫌そうな顔が表に出たわ…!
俺は実は祖父さまが苦手だ。
祖父さまの何が苦手って?
祖父さまは昔から、なぜか俺にだけ厳しい。
俺が、エルフのくせに魔法の素質もなく、弓も剣も全くダメなせいかもしれないが、とにかく弟との扱いの差が大きすぎて…。
他の家族が、甘々だから、余計にそう思うのかもしれないが…。
でも、弟には本当に甘いんだよ。
俺にはいつも溜め息交じりに厳しい眼を向けてきた記憶しかない。
そんな扱いされたら、グレるってもんだよ。
子ども相手に何してくれてんだ!
しかも、祖父さまはかなり偉大な王さまだったらしく、みんなに尊敬されまくっている。
(今は王さま業引退しているんだけどね)
このエルフの国・ジュイレティスをここまで大きくしたのは、祖父さまだと言われている。
そんな祖父さまが、俺にだけは、偉大な仮面が剥がれ落ちる。
まあ、どんな偉大な人間…じゃなかった、エルフにでも嫌いな奴はいるわな。
と、今の俺なら理解はできるが、『ミドラドル』は理解できなかった。
『ミドラドル』は、偉大な祖父さまを尊敬していたし、認めてもらいたかったんだ。
だけど…ダメだった。
『ミドラドル』は、どんな努力も認められない。
弟と兄と比べられる。
いない存在のように扱われる。
『ミドラドル』は、次第に諦めてしまった。
どうせ何したって見てもらえないんだ。
だったら、軽蔑でもなんでもすればいい。
そんな『ミドラドル』を知っている『俺』としては、祖父さまに苦手意識を持っても仕方がないだろう。
…とか考えていたら、あっという間に祖父さまの部屋の前についてしまった。
嫌すぎる…。
あのブチ切れ以来、3日ぶりだ。
また怒られるのか?
はあ、とため息をついて、ノックする。
入れ!と中から短く返事がする。
「失礼します」
中には、祖父さまと一番上の兄がいた。
2人は向かい合わせでソファに座ったまま、ちらとこちらを見る。
なんだ?
珍しい組み合わせだな。
「お呼びとお聞きしたのですが…」
そう話かけると、2人は少し目を見張り、すぐに表情を消す。
やっぱり、俺が話しかけるとみんな驚くな。
なんだか、もう…ちょっと楽しくなってきたわ(ははは…)
「なにかご用でしょうか?先王陛下」
俺はきっちりと臣下の礼をする。
そう。
『ミドラドル』だけはいつからか、祖父さまのことを祖父とは呼ばなくなった。
呼ぶのはいつも、『先王』か『先王陛下』だ。
まあ、子どもの意地のようなものだけど…
祖父さまは、そのまま座ったまま、視線を俺から外す。
「……今回のお前の行いについて、処罰を与えることにした」
…まあ、妥当だな。これでいい訳がない。
何を言われるんだ?
やはり、減俸とかか?有休がなくなるとか?まさか、クビか?!
って、なに日本的考えしているんだ?
「一ヶ月、王宮で下働きでもなんでもいい…働くことじゃ」
…ん?それだけ?
「お前のような甘ったれが、働けるとは思わんが、王子という立場を使わずに何でもいいから、仕事を見つけてくることじゃ。よいな?」
俺の沈黙を不服だからだと思ったのか、祖父さまはそう言い放つ。
祖父さま…確かに『ミドラドル』は何にもしたことがないさ。
でも『俺』は高校の時から、バイトの鬼なんだぜ。
飲食店の調理、皿洗い、郵便の配達、引っ越しの荷物運び、接客、清掃員、農家の収穫、他にも多種多様なバイトを経験してきた。
うん…。
甘くは見ないが、なんとかなる気がする。
…ところで、長兄・ワイデルトは、何でいたんだろう?