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王都、過去編です。
城の外には、街が広がっている。
城下町と言うヤツだ。
城をぐるっと水堀が囲んでいて、橋をわたると、太い道路がずうっと外壁まで続いている。
その道路を中ほどまで進み、右に路地を一本入ると、左右に露店のような店が並んでいる。
市場だ。野菜や魚、肉や衣服…なんでも売っている。
活気があって、みんなの顔に笑顔が見える。
逆に左に入ると、そこは飲食店街だ。
カフェやレストラン、居酒屋…
今は、昼時でもないので、人気はまばらだ。
俺はその飲食店街の道を更に一本入った道を歩いている。
裏通りは、大人のお店やカジノをしている店、ちょっと怪しい店が並んでいる。
どこの世界でも、こういうところは同じだな。
今は朝なので、人は全くいない。
その道の更に細い路地に入り込む。
右に左にと曲がって進んでいるうちに、路地は人が一人やっと通れるか、くらいの細さになっていった。
朝だというのに薄暗くじめじめしている。
しばらく進んでいると、目の前にガラの悪そうな如何にもな男が数人立ちふさがる。
一人は俺と同じくらいの身長で筋肉質。
もう一人は少し小さめ、細身でひどい猫背。
後ろをちらっと確認すると、こちらも何人かの男が道を塞いでいる。
囲まれた。
しばらく観察していると、げらげら笑う声が聞こえた。
「おい、兄ちゃん!!いい服着てんじゃねーか!!」
前から現れたのは、俺より少し小さい男。
薄い青い髪、細身。左目に眼帯をつけている。額から左目を通り頬にかけて、大きな傷跡が見える。
男は、一番前に立ち、腕を組む。
「「痛い目見たくなきゃ、財布を置いていきな!!」」
俺と声が重なると、ぷっと男は吹き出す。
「おいおい、なんだ!王子さん!!謹慎中じゃなかったのかよ!!」
腹を抱えて笑いながら、俺に近づいてくる。
「うるさいな!どうでもいいが、お前の口上は変わり映えしないのかよ!
アルマー!!」
アルマーはにやにや笑いながら、俺の肩に手を回す。
「ワザとだっての!!初めて会った時と同じ状況だったろ?
今朝、お前を路地で見たって、ネコが言うから慌てて確認しに来たんだぜ。
おかげで叩き起こされたよ!
で?どうしたよ??こんなに朝早く現れるなんか珍しいじゃねーか?」
笑いながら言う男は、「アルマー」と言って、この城下町の顔役のような存在だ。
『ミドラドル』の…言ってみれば、「性質の悪い友人」だ。
『ミドラドル』はいつも昼まで寝ているから、この反応は当たり前か。
「ちょっとね」
俺は笑う。
「俺は勘当されて、国を出ることになった。
もう帰ってこれないから、お別れにきた」
アルマーは口をあんぐり開けて驚いていたし、他の奴らもかなり驚いた顔をしている。
情報通なアルマーでも昨日決まったことは、知らないだろう。
まだ城の一部の人しか知らないことだ。
「…で?それだけか?」
驚きから復活したアルマーが聞いてきた。
「ああ!そうだね…」
「…なんだ…そりゃ…」
アルマーは呟くようにいうと、俺の肩から手を外した。
「アルマー?」
「…じゃあな、王子サマ。もう会うこともないんだろ。お元気で」
アルマーは背中をむけて歩いていく。
俺は、呼び止めようとした言葉をぐっと飲み込む。
ごめんな、アルマー。
背中を見送りながら、俺は心の中で謝罪した。
たった一人の友人だった。
王子と知っているのに、壁を作らずに接してくれた。
事件の後、誰も信じられなくなっていた俺に、「俺らを信じる必要ないだろ?今を楽しめれば、信頼なんざ、必要ねえ!!」そう言って笑っていた。
笑いながらしかお別れが言えない…
俺は本当に未熟なんだよ。
ごめん、アルマー。
俺は…家族との別れと同じくらい、お前との別れが辛いんだ。
でも、本当のことは言えない。
言えば、お前は俺を助けようとする。
お前が俺を弟のように思ってくれていたのは知っているよ。
…俺には何も未練がないように笑うことしかできない。
「さよなら、アルマー…
元気でな」
誰もいなくなった路地で一人呟く。
下を向いたら、地面に水滴が落ちた。
雨か…?
ふと見上げた空は、建物の間からわずかにしか見えないが、どこまでも青かった。
これ以降は、主人公はしばらくお休みです。
過去編はアルマー視点で話を進めます。




