26 とある影のつぶやき②
ナギ視点です。
ミドラドルさまが街に降りたのと同時刻――
「…行ったか?」
暗い部屋の中、先王は口を開き、影から出たワタクシをぎろりと睨みます。
「ハイ、行かれました」
相変わらず、鋭い方です。
ワタクシが来ることを見越しておられたようですね。
「お前らが何を考えておるのか分からんが…儂の孫をどうする気じゃ?」
笑みの顔をそのままに先王に近づくと、不快そうな顔をされました。
この顔は、表情を読ませないことができると、ある方がおっしゃっておられたので、ワタクシも真似をしているのですが、中々便利です。
「530年ぶりかのう?妖精」
先王は昨日、かなり驚いた表情でワタクシを見ておりましたし、覚えていらっしゃるのだろうとは思っていましたが…そんなに細かく覚えているとは…
「お久しぶりでございます、エルフの王」
「主を持たんかったお前ら一族が、儂の孫に従う理由はなんじゃ?」
おや、直球ですね。
ですが、ワタクシは細かく答える気はございません。
「ワタクシはね、王。
ずっと…一族の悲願を…背負って生きてまいりましたよ。
ですから、ミドラドル様に出会えたのは、僥倖にほかなりません」
「どういうことじゃ?」
「まだ、確証はございませんので、何も申し上げられません」
ふふ…こわい、こわい!!
切れそうなお顔です。
「…わかった…じゃが、お前はここで誓いをたてよ!!
例え…」
「たとえ、魔族や魔王陛下がお相手でも、必ずやあの方をお守りいたします。
あの方を失い、みすみす生き残るような無様な真似は致しません!!」
当たり前のことでございますよ!
我らが主君と崇めるものを殺されて、そのまま生き残るなど、ありえません!!
「その誓い、必ず守れ!!」
ワタクシは深く頭を下げました。
「必ずや!!」
すると、またもや先王は眼を見開いて驚いていらっしゃいました。
そう言えば、530年前に会ったとき、ワタクシは魔族の貴族にも頭を下げることはしませんでしたね。
ワタクシたちは、誰にでも頭を下げることはしないのですよ。
ですが、今はミドラドルさまのための誓いを立てる時です!
そう…出会えただけでも幸運なのです。
何百年、何千年…
我らの一族だけでなく妖精族全てはただ、己の主たるものを探し続けておりました。
ワタクシの代では見つけられないかもしれない…
そう思うほどに、『白紙の王』を見つけることは困難だったのです。
それが今…!!
ですが、見極める必要はございます。
だからこそ…不確かな情報ではありましたが、伯爵領の話をしたのです。
死なせる気はございませんが、命の危機を与えてこそ、分かるものもあるでしょう。
「もし、守られなければ、ここに来い!
儂がその首を落としてやる!!」
「ハイ」
頷くと、やはりまだ不愉快そうな顔で、懐を探り始めました。
そして、小さな袋を差し出してきます。
なんでしょう?
受け取り、中を確認すると…!!!
「!!これは…!!」
先王はふっと笑います。
「お前の表情を崩すことに成功したようじゃ」
「エルフの王。これは…!」
「わかっておる…それをミドラドルに渡せ」
わかっていて、これを出してくるとは…
中に入っていたのは小さな指輪です。
しかし、ただの指輪ではございません。
魔王陛下より建国の際に賜ったもので、どんな効果があるかは代々国主にしか知らされてはおりません。
「…どんな効果かは、言えん。
本来なら、国主にしか許されんのじゃ。
効果が発揮する状況にならんことを祈るだけじゃ」
これは、そもそも国主に渡すために、魔王陛下が直々にお作りになったもの…。
いくら王族とはいえ、国王以外の者に渡すなど、すでに魔王陛下の御意志に反しています。
「わかりました。王の御意志と覚悟、確かにお渡しいたします」
頭を深く下げ、影の中に沈みながら、ふと考えておりました。
先王は、よくぞ「銀髪の者」を育てようと思ったものです。
さて、テフは無事に抜けられたのでしょうか?
テフの様子を見に、ワタクシは影を移動し始めました。




