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22 とある兄弟の想い③

 長兄ワイデルト視点です。

 信じると決めたから、俺はまた罠だと思った。


 ミドラドルが伯爵の息子を殴った、と聞いた時のことだ。


 同時に、ひどく腹が立った。


 なぜ、あの親子はこんなにもミドラドルを追い詰めるのだろう?




 お祖父さまが、領地に行っていたから、勘当は保留になったと聞いたが、どうして父上はミドラドルを信じないんだ?


 偉大なお祖父さまに追随しているのだろうが、不思議でならない。


 父上は、ミドラドルをどう思っているのだろう?





「父上!!」


 俺は、廊下で父上をつかまえたのは、事件から何日も経ってのことだ。

 振り返った父上は、少し驚いていた。


「どうした?ワイデルト。珍しいな。お前から話しかけてくるのは…」


「…お話があります」


「なんだ?」


「ミドラドルのことです」


「…わかった。書斎でもいいか?」


 そう言って、書斎に通された。





「父上は…お祖父さまが戻られたら、ミドラドルを勘当するおつもりですか?」


 俺は父上とソファに向かい合って座っていた。


 なんとかミドラドルの勘当を回避したい。


 父上は大きくため息をついた。


「私はするつもりはない…。父上が何と言ってもな」


「ですが!!」


「父上がなぜ、ミドラドルをあんなに追い込んだのかは分からん。


 なにかお考えもあるのだろう…


 だが…」


 父上は、頭を抱えてしまう。

 なんだろう?


「私は…一度間違えたのだ…。


 真実がどうだったか…もはや知る術はないのだろう…」


 だが…と父上はますます頭を抱えてしまう。


「私は…信じるべき時に、ミドラドルを信じ切れなかった…」


 信じるべき時?


「その結果は、あの子は二度と私に心を許さないだろう。


 私はもはや、あの子にとっては、父親ではないのだ。


 今の状況は、私が招いたことだ…。


 だが、あの子の心を大きく傷つけてしまった…」


「それは…伯爵のことですか?」


 父上は抱えていた頭を上げる。


「…なぜ、それを…?」


「ミドラドルが…」


「…そうか…」


 父上はふっと笑う。


「…伯爵を庇ったとき…私は、間違えていないと…そう思っていた。


 今でも、間違いだったかどうかは分からん。


 だが、あの子の言葉を切り捨てた時点で…


 あの子は『家族』を見限ってしまった」


 父上の後悔が見える。


 父上は…ミドラドルを見捨てたのではない。


 拒絶され、どうすればいいのか分からなくなったのだ。


「父上、俺は今回の事件は、スレイン殿の罠ではないかと思っています」


 父上はじっと俺を見る。


「むろん、今回の事件は、目撃者がスレイン殿の取り巻きしかいない時点で怪しいと思っている。


 ミドラドルに真実を話してもらうつもりが…」




『ミドラドル、スレイン殿に手を出したというのは本当か?』


『俺は何もしておりません』


『(そうだろうな。だが)スレイン殿は、お前に殴られたと言っている。


 (恐らく虚言の共犯のようだが)目撃者もいるのだぞ』


『…わかりました。残念です。申し訳ございません』


『次に問題を起こせば(勘当になると分かっているのにお前が手を出す訳がない)』


『勘当ですね。分かっています。今夜中に城を出ます。お世話になりました』


『待て!!(どうしてそうなる?)』




「私の話し方が悪かったとしか言えない。


 ミドラドルは、さっさと城を出ようとするので、お祖父さまが…というのは引き止める口実にしかならなかった。


 もはや私の話を聞いてくれるとは思えない…」


 これは、すれ違いだ!!

 だが、どう言えばいい?


 真実、ミドラドルが何を考えているのかは、分からない。


 だが、父上はミドラドルのことをちゃんと愛している。


 言葉が足りな過ぎて、話が足りないのだろうが…


 俺も反省するべきだ…


 言葉にしなければ、伝わらない事がある…!!




 その時―――――




 ノックの音。


 お祖父さまのお帰りを告げるものだった。






 そして、その日のうちにミドラドルからお祖父さまと父上に話があるという伝達があったと聞いた。


 俺も同席させてもらうことにした。


 前回、と同じ理由だ。

 以前はミドラドルがお祖父さまに呼び出されたと聞いて、慌てて同席をお願いした。

 もし、勘当の話ならば、お祖父さまを説得したいと考えたからだ。


 今回も、父上はお祖父さまに弱いので、俺が庇いたいと思ったからだ。




 お祖父さまの執務室のソファに三人座って、お茶を飲んでいると、ノックの音がした。


「入れ」


「失礼します」


 ミドラドルは頭を深く下げて部屋に入ってきた。


 俺はいつも弟のそんな姿に胸がキリキリする。

 なぜ、家族なのに、臣下の礼なんだ?

 視線を合わせずに話す時もある。まるで、本当に臣下のように…


「本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます」


 喋り方まで必要以上に堅苦しい…


「お願いがあって、参りました」


 ミドラドルは、下げていた頭を上げて、まっすぐにお祖父さま、父上を見つめた。


 どきりとした。


 なんだ?


 嫌な予感がする。


「勘当のことか…?」


「はい!」


 なにを話すつもりだ?


 ミドラドルは、にっこりと笑った。


 だが、目の奥の奥は全く笑っていなかった。


 そして、予想できなかったことを言った。






「…国王陛下、俺を勘当していただけませんか?」


 

 




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