21 とある兄弟の想い②
オープンブラコン、ヨルムンドの想いです。
※BLじゃありません!
「ミドラドル王子がお兄様を殴ったそうなのです」
そう、あの女から聞いたとき、いつも通りにっこりと笑顔の仮面は被れていたと思います。
あのクソガキ!!やっぱり一度、絞め殺してやる。
そんな感情は表に出ていなかったかは、確認する術はないのですが。
むしろ、出ていたって構いませんよ。
ミドラドルの敵は私の敵です。
私は物心ついたときから、ミドラドルといっしょにいました。
幼いころは、髪の色以外が一緒な兄が嫌いでした。
顔も同じ、同じ反応をする、まるで分身のような兄にイライラしていました。
そんな思いが変わったのは、5歳の時でした。
系統を調べる儀式のことです。
私は母と同じ水系統でした。
ミドラドルは?
そう思って、じっと見守っていたのですが、待てど暮らせど、水晶の色が変わることはありません。
見ていた皆が焦り、何度も水晶を交換します。
それでも、水晶は光輝くことはありませんでした。
そして、後に調べたところ、ミドラドルには魔法の才がない、ということでした。
そんなことを告げられて、私は優越感でいっぱいでした。
しかし、ミドラドルは、そんな私に言いました。
「才がないのが、ヨルムンドじゃなくてよかった」
私はその時、自分が恥ずかしくなりました。
私はミドラドルの才がないことを喜んだのに、ミドラドルは私によかったと言って笑うんです。
ミドラドルは、私が弓に失敗した時、自分はもっと失敗したり、(※ミドラドルは本気でした)私が分からない問題を教師に出された時も、わからないとわざと言って、(※ミドラドルは本気で分かりませんでした)努力が足りないと私の代わりに教師に怒られてくれていました。
私は次第にミドラドルが大好きになりました。
私の半身、私の兄弟、私の特別。
ミドラドルは、私と違って、なんでもできるんです!
私はこんなにも何もできない…
だから、ミドラドルに追いつきたくて、私は努力しました。
ですが、お祖父さまは、ミドラドルがわざと何もできないふりをしているのを、気付いていないのです!
お祖父さまは、私ばかり特別扱いするんです。
そのたびに、ミドラドルとの距離ができてしまうようで…
そして、15歳になった年、ミドラドルは私たち家族と距離を置き、拒絶するようになりました。
何があったのかはわかりませんが、父上を国王陛下と、お祖父さまを先王と呼ぶようになったのです。
そして、拒絶でした。
話しかけても返してくれない。
挨拶しても睨まれる。
笑顔もなくなりました。
もちろん、ミドラドルの方から話しかけてくれることもなくなりました。
ミドラドルは、街に遊びに出ることが多くなり、親しい友人もできたようでした。
私は、悲しくて、さみしくて…
城にいる間、剣の訓練やその他のものをサボって、ミドラドルの後をつけるようになりました。
ばれないように、隠れてついていくことが楽しくなって!
その日のミドラドルのことを記録することにしました。
何時に部屋を出た。
いつ何を食べていた。
何をして過ごした。
読んでいた本。
ミドラドルは、私と同じ顔だと思っていたのに、歳を重ねるごとに、少しずつ違ってきたんです。
例えば、ミドラドルの方が、私よりも少しつり目で、声も低い、背も少し高い、体重は私の方が少し重い、靴のサイズは…(以下略)
こんなに違うけれど、私とミドラドルは双子なんです!
(※どこからどうみてもそっくりです)
それが、たまらなく嬉しいんです!!
そんな状態が何年か続きました。
そして、20歳の誕生日の前日。
ミドラドルが喧嘩をして、他国の方を傷つけた。
お祖父さまは謹慎と次に問題を起こせば勘当と言いました。
あのくそジジイ!!
腹が立ちましたが、もし勘当になったら、私も一緒に城をでよう!
そう決めました。
お兄さまが、ミドラドルが調子が悪いようだ!!と慌てて飛び込んできました。
私は慌てて、ミドラドルの部屋に駆け込みました。
そこにいたのは、まるで今までの状態がウソのようなミドラドルでした。
アリスににっこりと笑う様子を見て、私は悔しい気持ちと嬉しい気持ちでいっぱいでした。
ミドラドルが笑顔を見せてくれた!
ミドラドルが、話をしてくれた!
ミドラドルが!!!
ああ!!
やっぱり私はミドラドルが大好きです!!
あんな女なんかどうでもいいです!!
ミドラドルさえ笑ってくれるなら!!
王族の居住区から離れて暮らすようになっても、下働きのような仕事をするようになっても、質素な食事をとるようになっても…
私はミドラドルが楽しそうで、笑顔でいられるなら、それでいいのです!
だから、後ろをつけまわすのもやめて、行動を記録するのもやめました。
ときどき見るミドラドルが、楽しそうに笑っていたから…
そう思っていたのに…
やはり、殺してやろうかな、あの兄妹…
ミドラドルの敵は、私が始末してやりますよ。
ふふふ…
ヨルムンドの話が書きたかったのに、ただの気持ち悪い弟になってしまった…。




