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 謹慎の理由?

 

 あんまり思い出したくもないが、20歳という歳に浮かれていたんだろうな。

 別に成人式とかもないのに、何をはしゃいでいたんだ、俺。

 まあ、あのときは何も思ってなかったんだよ。


 たちの悪い友人たちと飲み歩いた挙句、街で酔っ払い達と乱闘。

 しかも、止めに入ってきた男までキレて殴って…

 ああ、馬鹿すぎる…


 しかもしかも!その止めに入った相手は、俺たちの誕生祝いに隣国から来てくれた王族さまの護衛…


 俺の痛烈な馬鹿さが世界に知れ渡ってしまった。

 

 まあ…もともと知れ渡ってはいたんだけど…


 そして、偉大なじい様が俺の素行の悪さにぶちギレて、それでも最後のチャンスをくれたってわけだ。

 謹慎して、次に問題をおこさなければ、勘当はしない。


 …いや、ムリすぎやしないか?


 自慢じゃないが、俺の素行の悪さと運の悪さを馬鹿にしないでくれよ!!


 まあ、素行うんぬんは前世の俺の方が、ちょっとばかり賢かったから、更生の余地はあるが、運の悪さは最悪だな。

 

 そもそも前世から、運が悪かったんだ。

 

 20歳の誕生日の朝、通勤中に急に、人生初の幽体離脱を体験してしまった。人生初っていうか、人生の終わりだったけど…。

 まあ、なんにせよ、死因はどうやら、ちょっと小太りなやつが、俺の前で階段を踏み外し、俺を見事にクッションにして、小太りは助かる。俺、脂肪…いや、死亡。

 

 マンガか!!!!!?

 

 というツッコミを入れてしまったのは、許してほしい。

 一瞬、これは夢か、と思ったのも本当だ。


 だけど、さすがに49日間、幽霊して、俺のお葬式やら何やらを見ていたら…

 いくら、俺でも現実だってわかるもんだよ、こんちきしょー!!


 あ、なんで49日しじゅうくにちかって?

 知ってる?俺も坊さんが言ってるのを聞いて、初めて知ったよ。

 死んだ人は、次の行く先が決まるまで、49日間はこっちもとの世界を彷徨ってるんだって。


 まあ、そんなこんなで、向こうで49日間彷徨って、俺は転生したわけだ。

 

 異世界に!

 

 記憶なんかいらなかったけどな!!

 いや、記憶はいいんだよ!!

 だけど、普通の異世界転生って言ったら、赤ちゃんのころや幼児期、はたまた熱を出してとか、テンプレ存在するんじゃないのかよ…。

 

 しかも別にチートじゃないし…


 なんで、20歳の誕生日とか…

 せめて、子どものころなら、もうちょっとマシな人間(エルフだけど…)になれた気がするよ。 


 運の悪い俺のことだ…何もしなくても、何か起こる気がしてならない…

 

 


「お前の生活態度には、ほとほと呆れはててしまった」


 ああ、運が悪い。


「普段の行いを見ていても、まるで王族としての自覚を感じない。

 

 お爺さまや父上はお前に甘いが、私はお前の…」


 王城の中を散歩中(脱走じゃないよ!散歩は許されてます!!)

 二番目の兄につかまって、30分…

 この話、いや、同じ話を違う言葉でくどくどくどくど…

 すでに、飽きた。


 この人、よく飽きないなー。


「聞いているのか、ミドラドル!!」


 あ、やべ!聞いていないのがばれた。


「聞いてるよ、兄上。今回のことは、俺も反省してる。兄上にも迷惑をかけて…」


 そこまで言うと、兄上はあいた口がふさがらないとばかりに、大きく口を開いていた。

 驚愕って言葉を表情に出すとこんな感じか?

 

 なんだ?変なこと言ったか?


「だいじょうぶか、ミドラドル?何か変なものでも食べたのか?


 そもそも、30分も私の話を聞いているなど…


 体調が悪いんだな?」


 くっ!!

 

 普段の行いの悪さのせいか!!?

 確かに、『ミドラドル』の俺は、こんな説教が始まったら、「うるせー!!しつこいんだよ!!」とか言って、さっさと逃げていた。

 そう考えると20歳にもなってそれって…俺の反抗期は長かったな…

 

 だが、『日本人で社会人』の俺は、年上の話は聞くもの!という習慣(?)が染みついている。

 途中で話を聞かずに逃げることがどうしても出来なかった。


 しかし、兄上といい、父上といい、みんな、人が良すぎる!

 こんな、どうしようもない俺のことを、本気で心配してくれている。

 

 この人たち家族は、俺がどんなに反抗的になっても、どんなに問題を起こしても、見捨てず見限らず、ずっと俺を信じてくれていた。

 

 『ミドラドル』自身も、家族の愛を分かってはいるが、素直になれない。そんな葛藤の中にいる。

 じゃあ、俺に『ミドラドル』の気持ちをみんなに伝えられるんじゃないかと思う。


 まあ、今、失敗したわけだが…


 俺は転生して、『ミドラドル』の俺もちゃんと俺の中にいて、『日本人』の俺もいる。

 全部が、いっしょになって生まれたのが『俺』だ。

 

 確かに二つの記憶はあるが、どちらも家族に愛されて育った大切な『記憶』だ。


 『日本人』の俺の人生は、たいした恩返しもできずに終わってしまった。

 


 親父は、1ヶ月後に迫った成人式のため、オーダーでスーツを作ってくれた。葬式の時、それを着せてくれた。

 普段、無口で無愛想な親父が、「一度でも袖を通せてよかった」と言って泣いていた。

 

 お袋は、あの日の朝、20歳の誕生日に俺のために好物ばかりを作ってくれると約束していた。

 いつもにこにこ笑っているお袋が「約束守れなくてごめんね」と泣いている姿に何も言えない俺は、ただ胸が痛んだ。


 妹は、最近彼氏ができて、俺の誕生日に1カ月記念だといっていた。「別に家にいなくてもいいぞ、俺の誕生日は来年もあるし…」と言うと、「ごめんね、来年はもっとお祝いするから」とバイト代を貯めて買ったネクタイをくれた。

 葬式の時、親父のスーツと一緒にネクタイをしめてくれた。

 「ごめんね。私がお祝いできないなんて言ったから、ごめんね」と泣きくずれているのに、手も貸してやれなかった。お前のせいじゃないのに…


 1ヶ月後の成人式の日に遺影を持って参加してくれた友人もいた。


 俺は幸せものだったんだな。生きてるときには気付かなかった。


 最初、49日とかいらないし!

 見たくないものを見ちゃうじゃないか!とか思って、ごめんね、神さま。


 でも、後悔は残ってしまった。俺は、なにも返せずに、人生を終えてしまった。


 だから、まだ生きている『ミドラドル』の家族に、今までの恩を返さなくちゃならない。

 

 俺は2度と同じ後悔をしたくない。


 『日本人』の俺の記憶が『ミドラドル』の心を変えたんだと思う。




 そんな俺の密かな決意を知らない兄は、俺をベッドに押し込めて、医師を呼びに走って行ってしまう。


 その、あまりの慌てっぷりに俺は苦笑してしまう。



 だから、なんでそんなに優しいんだろうな。



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