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誰だっけ?
声をかけられて、振り返ったはいいが…
誰??この人???
『ミドラドル』もわからないらしい。
思わず、固まってしまう。
貴族?にしちゃ見覚えがない。
お付きを連れている時点で使用人じゃないし…
「こんなところでどうしました?ミドラドル殿」
しかも、向うは俺を知っている?
30代後半の中年くらいのおじさんはにこにこ笑って…
………ん?おじさん?
ありえない!!
そうだ!この世界のエルフは歳が止まるんだ!
他の世界のエルフはどうか知らないんだけどね。
どんなに歳をとっていても、20歳後半!!
となると、この人はエルフじゃない!!
「ああ、申し遅れました。お誕生日会では、お会いできませんでしたからね。
私、ヴァンパイア王国・シュヴァルツの王弟シェルティルストと申します。
以後、お見知りおきを」
はい!思い出しました。
後ろの護衛の顔を見た瞬間……
この人こそ、俺たちの誕生会に来て、護衛が喧嘩に巻き込まれた国の王族さまでした!
部屋に招かれて、少し躊躇した。
ああ、綺麗な部屋だ。
白を基調にしている、あまり広くないが、清潔な部屋だ。
寝室の前にある来客応対用の部屋で、テーブルとソファしか置かれておらず、ヴァンパイア用なので、窓には日の光が入らないようにきっちりと閉じてあった。
しかし、いいのか?
華客殿の一角にお邪魔して…
俺はもう一般人じゃ…!?
いや!!違うぞ!!
俺はあの時のことを謝罪に来たんだ!
「どうぞ、ミドラドル殿」
「いえ、お構いなく。
それにお…私は先日のことを謝罪するために来たのです」
シェルティルスト殿は、おやという顔をした。
「噂とはあてにならないものですね」
「ウワサ?」
「はい。失礼ながら、この王国の第三王子は、放蕩者と言われておりましたので…
その…」
ぐっ!!痛い!!
やっぱり噂は他国にまで広がっているのか!!
「先日の喧嘩で、噂を確信してしまっていたところです。
ですが、今の王子はウワサとは違いますね」
「…いえ、何も違いませんよ…。
ですが、謝罪する機会をくださって感謝いたします」
俺は護衛の男に向き直る。
「喧嘩に巻き込んだ上に、けがをさせて申し訳なかった」
護衛の男は、首を振る。
「いえ!謝罪は不要です!!
私が未熟であったために負った傷でございます!
王子に謝罪をしていただくものではございません」
俺は実直な物言いに思わずふっと笑う。
「謝罪を受けてくれないと、許してもらえないのかと思ってしまうな…」
「いえ!!けっしてそのような!!」
焦る警備の男にさらに笑ってしまう。
俺よりも高い男を下から見上げるようにのぞいて、にんまり笑う。
「では、謝罪を受けてくれるかな?」
「っは!!もちろんです」
焦った警備の男はつい口が滑ったようだった。
「よかった!!」
ちょっとした心残りが解消された気分だ。
「まあ、入り口でのやり取りもあれですし…
こちらに座って、お茶でもいかがです?」
「あ、いえ!!私はこれで失礼します!
あまり夜分にお邪魔するの…も…?」
ん?まてよ?
ヴァンパイアって…
「ご心配なく!私たちの活動時間はこれからですので…」
ですよね――――!??
ん?
まただ!
何だろう?
俺は、部屋の隅の天井に目を向けた。
なんだ?
別に何もない。
何もないが、何か…
何か…いる…?
……まっ○ろく○す○か??
俺の視線に気付いた護衛たちは天井に目を向けて、首を傾げる。
俺だけ…?
なぜか、そこに『なにか』がいる気がするのだ。
視線を離せずにいると、ふっと『いなくなった』という気がして、視線を外した。
「どうしました?」
シェルティルスト殿は首を傾げている。
気配に敏感なヴァンパイアたちが気が付かないなんて…
やっぱり、気のせいか?
それとも、幽霊的なにかとか?
いやいやいやいやいやいや!!!!
俺は全力で否定する!!
確かに、死霊は種として存在しているこの世界だが、俺はあくまで否定する!!!!
俺がそれに近い存在だ、とか、49日も幽霊しておいて今更何を…とか言うツッコミはやめてくれ!!
それとこれとは別問題だ!
俺は幽霊時代でも、他の幽霊と会ったらどうしようとか考えてたんだ!!
いや!!怖いとかじゃけっしてない!!
まあ、多少はあるけど…俺は全力で否定するから!!
あ、ヴァンパイアと夜中に茶会を開くのはやめましょう。
真剣に!!
結局、解散になったのは、もう深夜の時間で、俺は城を出ることができなかった。
約束も守れないなんて…
次回、とある女官との会話




