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話数が「そして勇者は旅立った」を追い越してしまった…。



 俺の朝は、割と早い。


 と言っても、前世の記憶が戻ってからの話だ。

 以前は、昼まで寝ていた。


 今は、日が出るか出ないかの早朝に目が覚める。

 これは、前世のせいだ。

 中学から陸上部にいて、高校からは早朝ジョギングを始めたからだ。


 というわけで、『ミドラドル』になっても俺は朝走ることをやめなかった。

 まあ、『ミドラドル』は嫌そうだったけど…。


 そっと部屋の扉を出る。


 朝は寒い。息が白くなる。


 洗濯していた中庭に出て、まずは柔軟。


 ふう、と息を吐く。


「さて」


 人目のつかないところを走ることにしている。

 だって、ホラ!

 イメージってもんがあるだろう?

 『ミドラドル』は明らかにそんなことをしそうな感じじゃないだろ?


 城内の小さな森のようになっているところがあって、そこを走り始める。


 森には小さな湖もあって、木が割とたくさん植えてある。

 だけど、うっそうとしているわけではない。

 ほどよく手が加えてあって、前世の森林公園なイメージだ。


 いいなあ…

 このジョギングコース…

 うらやましい!!


 

 ジョギングが終わると、日が昇り始めていた。

 俺は、剣を鞘から抜かずに正眼に構える。


「ふっ!!」


 右へ左へ、剣をふるう。

 これは、俺の動きじゃない。

 俺は剣道なんて、やったことないからな。

 これは、『ミドラドル』の努力の成果だ。


 まるで、舞うように、剣を突いて、薙いで、切り上げて…


 しばらくそうして剣を振るっていたが、日が上がりきって、辺りが明るくなったのに気が付いた。


「ふぅ!…よし!!


 食事の時間だ!!」


 そう言って、剣を元通りに腰に括ると、歩き出した。





 実は、王族が暮らすエリアは、今俺が住みついているところとは違う。


 最初、食事を部屋まで持って来てもらっていたのだが、待つのも面倒だし、それならと自分で使用人たちの食堂に行くようになった。


 実はこれには、女官長からかなり言われたのだが…

 (王族の威厳が~とか、自覚が~とか)押し切った!!


 今更じゃね??


 ふつうは、朝は家族みんなが揃って、ホールで食べているみたいだけど、『ミドラドル』は、長らく一緒していないから、別に不自然じゃないし…

 (『ミドラドル』は一人、部屋で食事していた)


 ただ、食堂で使用人たちから向けられる視線にはさすがに参った。


 なんなんだ?


 ちょっと遠巻き。プラス、何とも言えない顔で見てくる。


 分からん!!

 兄上くらいに読みやすければ!!

 というか、視線を向けると顔を逸らされる。


 いつも通り、列に並んで、お盆を受け取る。

 今日は大皿の具のあまりないクリームシチューと大きな黒いパン、小さいりんご1個か。

 いつも通り、食堂の人に礼を言って、端の席に座る。


 馬鹿にされているのかとも思ったが、なんか違う。

 同情でもなさそうだし…


 なんなんだ―――!!?


 今度、ミリアにでも聞いてみるか?

 

 は!!それともあれか!?

 俺が食べると量が減ると!!?


 思わず、口に入れようとしたスプーンを止めてしまう。


 でも、女官長から話を通してもらってるし…

 いいんだよな???


 別に、みんなと違うものを食べているわけじゃないし…

 大鍋から注いでもらった、シチューと同じものだ。


 ああ!!

 こんなところで、他人の顔色を伺う『日本人』的性質を出してどうする!!?


「…あ…の…」


 ん??

 

 視線を上げると、ちょっと離れたところに、この間一緒に(というか無理やり一緒に?)イモを剥いた厨房の見習くんが帽子を脱いで、もじもじしながらこっちを見ていた。


「?どうした?」


 首を傾げながら、声をかけると、見習くんはびくっとなる。

 

 おいおい!俺はそんなに怖いか?

 厨房のおっさんたち(と言っても見た目は20代後半なんだけど)の方が、見た目明らかに怖いだろ!?

 おっさんたちはまるで海賊みたいだろ―――!!


「あ…の…お口に…あいませんか?」


 ……は??


「スプーンが…止まって…いるので…」


 ん?


 自分でも気が付いた!

 確かに、口に入れる前に一時停止で固まっていたし、怪訝な顔をしていたかもしれない…


 これは、不味いとか、何かあると思われても仕方ない!!


「ああ、いや!!違う違う!


 ちょっと考え事をしていて、止まってしまっただけだ。


 食事は問題ないよ。


 いつも美味しくいただいている」


 にっこり笑うと、見習くんはさらに困った顔をする。


「…おいしいですか?」


「?ああ」


「うそです!!俺なんか一度だって、美味しいなんて思ったことな(ゴッッッ!!!)ぶっつ!!」


 …うん!

 厨房のおっさんの拳骨は超痛そうでした…


「すいやせん、王子さま。


 この見習が…」


 落ちた見習くんを抱えながら、厨房のおっさんは頭を下げる。


「ふっ!!」


 まずい!!

 真剣に謝ってくれているのに、くすくすと笑いが漏れた。

 おっさんはきょとんとしている。


「いや。


 なんなら、ミドラドルと呼んでもらって構わないよ」


 おっさんはぶんぶんと頭を振る。


「滅相もない!!


 王子がこんなところでお食事なんて、ただでさえ恐れ多いのに…」


 あれ?

 もしかして…


 周りを見ると、さっと視線を逸らされる。


 う~ん…

 これは、もしかして…


「…俺がいると…気が抜けないか…」


 ぼそりと呟くと、おっさんはばっと顔を上げた。


 仕方ないな。

 確かに、考えが足りなかったか。

 そりゃ、会社の社長の息子が毎日同じ場所で飯を食うなんて…

 どんな拷問だ。


 よし!!


 お盆をもって、立ち上がる。


「食器は後で返しに来るよ。

 

 いつもありがとう。気をつかわせて悪かったな」


 にっこり笑って言うと、おっさんは何かを言おうと口を開けたが…


「それと…」


 これ以上、気を使わせるのは申し訳ない。


「これ…」


 小さなリンゴを指さす。


「ありがとう。感謝するよ」


 それだけ言うと、さっと歩き出す。


 俺は気付いていたんだ。

 他の人にはついていない果物が毎日ついているのに…


 まあ、女官長に言われたからかもしれないが…

 それでも、ちょっと嬉しかったのは、本当だ。


 

 さて、どこで食べるかなぁ…



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