8:はなとかおり
「おーっす!」
「おはぽぉー」
下駄箱で靴を履き替えていると聞き慣れた声が入り口から聞こえ、振り返ると同時に一歩右に動いた。
「カオ、花。おはよ」
「ちぇ、今日もやるな伊奈実」
「毎回よけるので精一杯だから。ってか危ないし」
元気な挨拶とともに下駄箱で会うと毎回竹刀を振ってくるカオこと篠村薫(しのむら かおり)は、ぶぅと不満気に口を尖らせた。
「じゃ、剣道部入ってくれよ〜」
「嫌」
「カオの竹刀避けてくれる程に強いヤツ伊奈実だけだし」
「中学で十分やったから剣道はもうやらないの」
「でもー」
「カオ、伊奈実ん嫌がってるよぉ?二年も誘ってダメなんだからいい加減諦めなよぉ?この剣道バカが」
見た目を裏切らない可愛らしい甘めの声でまともな事の中にきつい本音を混ぜる、花こと三崎花子(みさき はなこ)の一言でカオの声が揺れた。
「花…きついぜっ」
胸元をまるで抉られたように押さえて大げさに膝をついた。
「カオ、誘うなら私じゃなくてこの切り口の花だよ」
「そうだな伊奈実。この鋭い言葉の切り口……って剣道には使えない!」
「二人ともぉ、早く教室行かなきゃ遅刻しちゃうよぉ?さ、行くよ!グズどもっ♪」
花はスキップしながら、私とカオは口を開けたまま足を進めた。
教室に着くと、黒板にでかでかと”一限全校集会in体育館”の文字が書かれていた。
「げ、一限ずっと?!」
カオが嫌そうな声をあげた。
三人は荷物をロッカーに入れ、目的地へ歩き始めた。
「五十分も箱詰め饅頭みたいに並んでるなんて…はぁ」
「カオ、そろそろ剣道以外の時でもじっとすること覚えたらぁ?」
「うゔ、花さんや、それができたら苦労はしませんがな」
花の言うそろそろは十七年人生の全てを指している。
花とカオはお隣さんで生まれる前からの幼なじみで本当に仲がいい。
私はそんな二人に入学式の時に声をかけられて今がある。
クラスは一年の時から三年間持ち上がりだから、二人と一緒で本当によかった。
この明るい二人が居なかったら私は友達ゼロのまま高校も過ごすことになっていたと思うから感謝だ。
「でも、クソ校長の話ってぇ中身が無い割にほんと長いよねぇ?伊奈実ん」
「クソって……まぁ確かに”あー”と”えー”が無かったら十分は短いかも」
「ははっ伊奈実も言うじゃん……ん?」
クンクンと鼻を動かしながらカオが近づいてきた。
「なに?」
「今日も伊奈実からコーヒーのいい匂いがするなーと思ってさ」
「持ってきてるよ。お昼にカオも飲む?」
「おっしゃー!昼休み購買で牛乳買わないとっ」
「カオはほぼ牛乳のオレにしないと飲めないもんねぇー。でもほんとぉ、コーヒーは伊奈実んの主成分だよねぇ」
「主成分…ま、そうかも。花もよかったら飲んで」
「うんありがとぉ〜。コーヒーと言えばぁ、珠洲先生の近く通ったときコーヒーの匂いがしてたって珠洲ファンの子達が最近騒いでたよぉ」
「あれ?前はミントって言ってなかった?しっかし、ファンってそんなことで騒げるなんてすんごいな。な?伊奈実」
「あ、うん」
珠洲先生と聞いて、一時間前に封印した昨日の怒れる出来事を思い出してしまったから、もう一度封印していて聞いてなかったなんて言えるはずも無く曖昧に返事をしていると体育館に着いた。
「お、相変わらずイケメンにも興味無いのな、伊奈実。じゃ、五十分後に」
「にぃ〜」
「うん」
私たちは、バラバラにクラスの列に入りカオが言うところの箱詰め饅頭になって、校歌斉唱で集会が始まった。




