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ストレート  作者: 業平アキラ
第二章
7/63

7:コーヒー

「リリリリリリリリリリリりっ…イタタ。噛んじゃった。

こら、起きろー伊奈実ぃ。いーなーみぃー!起きろぉぉぉぉおおおお!!

…起きろ、娘よ。ねぇ、起きて?伊奈実ちゃん?おーーーーーい!じゃないとミナミが伊奈実の可愛い昔話しちゃうぞ☆九歳の誕生日に遊園ち…」

バン!


「…ゔゔっ」

 もう起きたからやめて、ミナミさん。


 こうして毎朝、伊奈実は母・ミナミさんの声入りヴォイス目覚ましから流れる、消し去りたい昔話のおかげで微妙な気分ながらも絶対に目覚める。

以前一度この目覚ましが嫌になって別の物を使ったが、鳴っていたにもかかわらず目覚めることが出来なかった。

その日、学校にかなり遅刻してしまった為しかたなくこれを使い続けている。

ミナミさんが海外に出張してれこれ一年。朝が弱い伊奈実の為に母は最強のアイテムを置いて行ったのだ。


 さて、今日は食パンにしよっと。

 むくっと体を起こして一人きりの朝ご飯の準備を始めた。



「ん、いい匂いい。ただきます」

食パン一枚とコーヒー。母と二人の生活だから料理が出来ない訳でもないけど、自分一人のためにするのはかなり面倒だからかなり手抜きしてる。

こんな理由で食事は毎度適当になっていても、飲みのもだけは必ずお気に入りのショップで買った中挽きのコーヒーをそこの店長さんに教えてもらった通りに丁寧にペーパードリップして飲んでいる。


私が自分の為に唯一手間と時間をじっくりかける時だ。


今日みたいにちょっとだけ余裕があるときは、学校にも持っていっていく分も用意するくらいこの味が本当に好き。

 いつもなら一口飲んだ瞬間幸せな気分になれるのに、嫌なことを思い出してしまった。


 あのおかしな先生から、少しだけコーヒーの香りがしたんだっけ。


*****

……っ!!!

 ゴンッ

「んな、なに!」

「ここで頭突きって…伊奈実ちゃん自分が額けがしてるの分かってる?」

ってのは睨んで黙らせた。

右は額で留められ、左は指切りのままで両手がまたも使えない状況の抵抗はもうこれしかない。

「ナニって?ちょっと大人な感じのおまじないかな?」

パーン!

「ふざけんなボケーッ!!!!」

 そうして私は暴言を吐き捨てて、ダッシュで保健室から逃げた。


「はは、また明日ねぇ〜」

遠くでそんなのんきな声が聞こえた気がした。


*****


 …おいおい、私。仮にも先生の顔、頭突きに最後はビンタまでしっちゃったよ。

昨日の自分にツッコミをした。


あれから夜、お風呂に入って絆創膏は剥がして、ちょっとだけお湯がしみたけど全力でおでこを洗い流した。

 あんなことするヤツが悪い。それにもう会わないし。


「あれは正当防衛!私は悪く無いっ!」

記憶を消すため、コーヒーを一気に飲み干した。


「伊奈実ー!出かける時間だよー!遅刻しちゃだめよ!忘れ物無い?気をつけて行って来きなさいよー」

お出かけ用のミナミさんアラームが部屋に鳴り響いて、荷物をまとめて慌ててアパートを出た。

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