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ストレート  作者: 業平アキラ
第七章
63/63

59:ちょっと勉強

出発してから三十分後、なぜかずっとご機嫌な珠洲先生の何気ない一言から話は始まる。


「ところでさ~伊奈実ちゃん」

「何ですか?」

「TOKARISHINの曲ってどんなのがあるの~?」

「曲…ですか?」

「うん、そう曲〜。実はさ僕あんまり彼らのこと知らないんだ~。確か5人組だったよね~?」


ルイト、マドカ、ヒカリにトモシ、ジュンだっけ~。と見事に名前を言う先生。

授業中の話でよくTOKARISHINが上がるけど先生達の間でも話題になるのかな?


「はい。男女のダブルヴォーカルで曲によって作詞と作曲の担当がメンバーの中で代わるそうですよ」

「へ~。それって言い換えると一人一人力があるってことだよね~。…で、伊奈実ちゃんは誰のファンなの?」

「……?」

あれ、先生笑ってるのになんか違う…?

真っ直ぐ進行方向を見たままのその表情は見た事の無い笑い方で。

普段はポンって音付きでカラフルな花が咲いている様な笑顔なのに今のはなんだか仄暗さを含んだような感じがして、先生らしくない。


「伊奈実ちゃん?どうかした?」


私が黙っていたから、先生が不思議に思って一瞬こちらを向いて目が合った。


「あ、すみません。えっと…私は特に誰のファンという訳じゃないですよ。それに曲も一曲くらいしか知らないんです…」


しかもサビの部分しか憶えてないし…。

この前カオが服とCDどっちを先に買うか悩んでいた最新のシングル曲。

確かタイトルは…[NeW WondeR U]。

トモシの作詞で、作曲はヒカリ。

新たに一歩踏み出した先の事を書いた詩で、アップテンポな曲調が前向きな気持ちを目一杯押してくれる様ないい歌になってる。

…って花とカオが語ってた通りだった。


「あれ?伊奈実ちゃんはTOKARISHINのファンじゃないの~?」

「音楽にあまり興味が無いので特に…」


それに音痴だと余計に…ね。


「そっか〜。伊奈実ちゃん正式に生徒会のメンバーって訳じゃないけどこうして参加してるから、僕てっきりファンなんだと思ってたよ〜」

「私は声での裏方参加が決まっているので打ち合わせと言うか顔合わせの必要上…」

「あ〜、そっか〜。そうだったね〜♪」


ん?いつの間にかいつもの意味なく昼行灯な先生に戻った?

…先生の気分の変化ってよく分からないな。


「はあ。…」

「うん、うん♪」


っていうか…


「…よく考えたら私も先生もTOKARISHINさんを大して知らないのに会いに行くとか、なかなか失礼ですよね」

「…ははは〜そうだね〜」


信号で止まるとこちらを向いてちょっと困った様な笑顔。

先生も急に決まったとは言うもののさすがに少しは気にしていたんだな。


「よ〜し!じゃ、着くまでの間ちょっと勉強しておこうか〜」

「何をで…!?」


急にやる気を出した先生は、私の言葉を遮る様に人差し指を私の唇へ押し当て、それと同時にもう片方の手で携帯を胸ポケットから出して素早く操作するとそれを私と先生の丁度真ん中へ置く。

信号が変わり車が動き出した。

先生一体何を考えているんだろう…?


『はい、何なの?』


携帯から聞こえてきた聞き覚えのあるこの声は…


「先輩、ちょっと寄り道して行くんで高速入る前に十分くらい離脱していいですか〜?」


あ。やっぱり沢ちゃん先生。


『いいわよ。ただしあんたの隣にいる彼女の無事を保証するならって条件付きよ』

「え〜。僕そんなに信用ないんですか〜?」

『軽い冗談よ珠洲。彼女に代わりなさい』


あれ〜?軽く感じないんだけどな〜と声が向こうへ聞こえない程度にぼやく先生。


「先輩これハンズフリーにしてますから九谷さんも聞いてますよ〜。ね〜?」


一瞬こちらを向いて微笑む先生に返事代わりに頷いた。


『あっそ。じゃ、話は早いわ。九谷さん?』

「はい」

『なにかあったら珠洲相手に遠慮なんてしちゃだめよ。一応は先生なんだから適当に頼っときなさい。わかったかしら?』


ん?どういう意味なんだろう?


「はい、わかり…ました」

『うん、いい返事ね。…珠洲高速入って五つ目の新しいサービスエリアで待ち合わせよ。十五分以上遅れたらしばく』


一方的に切られた電話に、は〜いと返事をして先生は携帯を胸ポケットへしまった。


「さ~て、先輩からの許可も出た事だし、行くよ〜!伊奈実ちゃん」

「え?どこ行く気ですか?」

「着いてからのお楽しみ〜♪」






   ***







「せ、先生?こんなに…よかったんですか?」

「うん。これでも絞ったほうだよ~。往復の時間的にもこのくらいの量でいいと思うしね~」


なんて軽く言う先生の手には二万八百円分のCD。

アルバム五枚と店員さんに勧められたアルバム未収録曲入りのシングル三枚の計八枚。

これ、全部TOKARISHNのだ。


先生が車を止めたのは大手のCDと書籍を扱うチェーン店。

時間が少ないから急ぐよ~なんて、なぜか手を引かれて店に入り、CDコーナーへ進むと店員さんを捕まえた先生は三分くらい話ながらその手にどんどんCDを抱えて、あっという間にお会計を済ませて再び車内に戻った訳で。


「伊奈実ちゃんどれから聴きたい~?」


まるでババ抜きみたいにずらりと並んだプラスチックのケースたち。

諭吉を何の躊躇いもなく出してスマートに買い物をする先生はやっぱり大人なんだな…。

私なんてスーパーで諭吉さんを出す時名残惜しい思いを振り切って心の中でテイッて言いながら会計のトレイに乗せるのに…。


「い・な・みちゃ~ん?」


しまった。先生放置してた…。


「せ、先生が買ったんですから先生が決めてください」

「ん~、僕は伊奈実ちゃんに決めて欲しいな~♪」

「…だったら発売順に聴きたいです」


歴史系も時代を追って勉強するってことはこういうのもその方がいいと…思う。


「わかった~。じゃ~最初はこれだね~。はい、伊奈実ちゃん」

「ありがとうございます」


どうやらこれは初アルバムみたい。

[ジヒトルマ]ってちょっと変わったタイトルだな。


「ほらほら、伊奈実ちゃん見て〜。このCD出た頃って彼らがちょうど青野を卒業した頃みたいだよ〜」

「本当だ…」

ジャケットは、頬に数字が書かれたメンバーが写っていてその影の様にジャケット裏に伸びているのは制服姿でブレザーを投げている彼ら。

影はなぜか本人と違うポーズをしているのが面白い。


「このほっぺの数字何だろうね〜?」


ジュン100、ヒカリ99、トモシ96、ルイト95、マドカ92。一体何を表しているんだろう。


「そうですね…あ」

取り出したブックレットを開くと歌詞の印字されている下のほうに名前と頬に書かれていた数字と同じそれが赤い色で書かれていた。

この雰囲気はまるで…


「テストの…答案みたい」

「あ本当だ〜。じゃ〜これは得点ってことかな〜。で、タイトルは高得点を取った人の頭文字の順番だね〜」

「先生、それであたりみたいですよ」


ブックレットの後半のページに一人半ページずつ自身の取った点について一言述べられている。


ジュン:…卒業できればそれでいい。

ヒカリ:9って数字が好きなりー。

トモシ:みんなの平均点あたりにいる俺の薄さ…笑

ルイト:過去の話を俺に振るな。

マドカ:勉強中ってどうして普段浮かばないいい案が出て来るのかしら?


「わ〜バラバラだね〜」

「……」


じ、自由を通り越したなにかを私は読んでしまった気が…。

全員が90点以上なんて噂どおり頭良いっていうのは本当だったんだな。


「でもこの最新アルバムの雰囲気とはやっぱり違って、ちょっと子供っぽさが残ってて面白いね〜」


“クラウン”ってタイトルのそのアルバムは赤と黒の衣装を身に着けていてなんだか色気たっぷりだ。



子供っぽい…か。先生から私を見てもそう思うんだろうな…。


「伊奈実ちゃんどうかした〜?」

「い、いえ」

「さ、伊奈実ちゃんCDここに入れてね〜」

「はい」


吸い込まれる様にCDが入っていくと、すぐにギターの音から始まるイントロが流れた。


「じゃ、聴きながらしゅっぱ〜つ!」


TOKARISHNの創り出す個性あふれる音の粒に揺られ、先生の車は最終目的地へと辿り着いたのだった。

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