表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレート  作者: 業平アキラ
第六章
58/63

54: 撤回!

「はー、やっぱ手強…」


危うく負けるとこだった、と隣で手を天に伸ばして呟くのは司君。

さっきまで私たちは特売タイムセールのスーパーマーケットという名の戦場にいた。

電車のラッシュ時の比じゃないくらいの人が溢れていて、奥様方の怒号の飛び交う中を必死で回った。

スーパーから出てますば、ぐしゃぐしゃになった髪や制服を整えたくらい荒れに荒れていた。


「でも、司君の”読み”が全部当たったのは大きかったよ。っていうか本当に凄いね!」


タイムセールはお店の中で別々の特設コーナーで時間もバラバラに突如始まる。

それを何と司君は読みの才能を活用してそれぞれの特売品の出るタイミングをすべて的中させた。

そのおかげで、特売三品は無事に手にできて気分はほくほく。



「…あー、俺あのスーパーマーケットの常連だからな。それに店長のひねくれ加減が読みやすいんだよ」


ん?司くん一瞬驚いたみたいな表情したけど、どうかしたのかな?

でも本当に凄いなー。

私もそんな才能欲しかったよ。


「欲しいもの全部買えたのは司君のお陰だよ、ありがとうございます。しかも荷物持って貰っちゃってごめんね」


司くんの左肩に乗っている、その荷物を見て申し訳なくもありがたい気持ちになる。


「全然。九谷ん家の方向通り道だしな、気にするな」

「ありがとう」

「それに、制服姿の女子高生が米袋肩に担いで帰る図は思いの外、人目を引くからな。俺に任せとけ」


「それ、最初にスーパーマーケットで会ったときの事言ってるよね?」


初めて生徒会のお手伝いをした日、たまたまこのスーパーに寄った帰りに司くんと偶然会ったことがあった。

ちょうど十キロのお米袋をなりふり構わずがっつり担いでいるその時に。


「あぁ。あれは笑っ…た」

「司君、今も十分笑ってるよね…」


思いっきり肩揺らしてるし…。

あの時も笑いながら荷物を持ってくれた。


「っ…荷物持ち…っの代わりだと思って笑われといてっ…くれ」


「微妙に堪えるくらいならいっそ大声で笑われた方があの時の私が報われるよ…」


「っ…ブハッ!す、スカート姿でっ…足元ヨロヨロしたっ…前傾姿勢のがに股に救いはっ…ははっ無いだろ!」



「ご、ごもっとも…」


弁解の余地もございません。はい。


RiRiRiRiRiRiRi.......


紺色ジャケットのポケットから聞き慣れた携帯の着信音。

この微妙な時間帯に誰だろ…わ。


あー。

す、珠洲先生…。



隣に司くんが居るこのタイミングって…先生自滅行為ですけど!

でも出ないのも司くんに怪しまれちゃうし…


「どうした?遠慮なんかせず、出とけ」


出るしか無い…か。


「うん。ちょっとごめんね」


先生のバカ。バカバカバカ。

出る私もバカ。


司くんからほんの少し距離を空けて、通話ボタンを押した。


「はい」

『伊奈実ちゃん僕だけど今どこ~?』

「買い物帰りで、今家に向かってる途中ですけど、どうかしたんですか?」

『僕もう伊奈実ちゃん家の前に居るんだけど~インターフォン押しても返事無かったから電話してみたよ~』

「そうですか…えぇ?!」


家の前?!

今司くんと向かってるんだけど…まずい。


『うん待ってるね~』

「ちょ、せ…!」


どうしようどうしよう。

遭遇したら先生立場的にまずいよね。

いやいや、まずいなんて軽いものじゃない!


「その辺、花粉飛んでるんで出来れば車で待ってて頂けると嬉しいなーって…」

『嬉しい?!伊奈実ちゃん嬉しいの~?』

「…は、はい」

『うん、わかった~待ってるね~♪♪』

「はーい、お願いしまーす。…ふぅ」


何とか直接的な遭遇は避けられる…かな?


「電話、彼氏?」

「え?違う違う。そんなんじゃないよ、お世話になってる人なんだ」


かなりお世話になってるっていうか…。


「ふーん。でも彼氏はいるだろ?」

「いないよ。なんで?」


司くんとそういう話したことないから新鮮だなー。


「なんでって…九谷は鏡見ないのか?」

「鏡?見るよ」

「で、その時何がみえる?」


えっと…

「寝癖とか、目やにとか…あ、たまにニキビもできるし、後は…」

「いい!…もういい、わかったから」


あれ?司君、頭抱えちゃってる…。

男の子に話す内容じゃなかったのかな。

つい花やカオと喋る感覚で話してたけど。

ごめん、司くん。


「そう?…ありがとう。ここで荷物もらいます」

「おう。階段気を付けろよ」

「うん、ありがとう助かりました」


お米の袋を肩においてくれた。


「今日も釣果あったしまた今度共同戦線張ろうな」

「良いの?」

「もちろん。協力した方が沢山買えるしな」

「よろしくお願いしま…!」

「お!…米担いで礼なんてするな、危ないぞ」


ちょっとふらついた所を肩を支えてもらった。

そうだった。お米は重いよね。


「ごめん…」

「じゃ、またな」

「うん。またね」


軽く方手を挙げて、颯爽と司君は歩いていく。

姿が見えなくなるまで見送って、階段を上り部屋の前で鍵を開けようとしたその時、鍵穴近くの影が一段と濃くなった。


「伊奈実ちゃん…あれ、誰?」

「わっ!?先生…。急に後ろから現れないでくださいよ。ビックリするじゃないですか…」


振り返ると、珠洲先生がすぐ後ろに居た。

あー…。

お米運ばなきゃって思ってたら先生の事忘れてた…。


「だから誰?」


冷静な感じなのに、一段と先生の声が大きくなったから近所迷惑にならない様に、慌てて鍵を開けて、部屋に入った。


何?どうしたの?

夕陽が部屋に入ってきていて、逆光で更に表情が見えない。


「先生、彼のこと知らないんですか?」


米袋や荷物を下ろして、聞き返してみた。

先生の学校の生徒なんだけどなー。

しかも生徒会だから、校内じゃなかなかの有名人。


「”カレ”…」


ん?

今、小さい声で何か言ったよね?


「先生?」

「答えて。あれ、誰」


両肩をギュッと掴まれて逆光だった顔が近づいた。

何で怖い顔してるの…?


「二年三組、生徒会副会長の司伊織くんです」


「…伊奈実ちゃんの何?」

「何って…司君はスーパーマーケットで共同戦線張る仲間…ですかね。司君は状況を読む力が凄くて、」

「伊奈実ちゃん。どうして僕と司君を遠ざけたの?」


私の話を切って先生は喋る。


「学校でならまだしも、こんな所で”珠洲先生”が居たらおかしいじゃないですか」


っていうか遠ざけたって人聞きが悪い…。

私の精一杯の危機からの回避行動なのに。


「それから?」


え、それから?!

まだ理由を述べよって言ってるのかこの変態は?!


「司君に会わせたら疑われちゃうって言うか…」

「疑われたくないんだ?」

「それはもちろん。あらぬ誤解の火の粉は被りたくありませんから」


ひょっとしたら、変な関係だって思われちゃうかもしれない。

そんなの、絶対あっちゃいけない。


先生の親切を疑われるなんて事あったら、私絶対悔しい。



「伊奈実ちゃん」

「はい?…っわ!?な、何なんですか先生?!」


ふわりと体が浮いて、狭い玄関から運ばれてリビングのソファーに仰向けに下ろされた。

先生がその隙間に腰掛けて、私の顔を覗く。


「やっぱり撤回するね」


は?撤回?


「何をですか?」

「”今はまだ”なんてこの前言ったけど、今の伊奈実ちゃんに少しずつでもわかってもらわないと、未来の伊奈実ちゃんにもわかってもらえないと思うから…」


ん?

”今はまだ”…?

この前、その言葉を聞いた気が…。


「ははっ、聞いた気がするけど思い出せないって顔してるね」


は、鼻で笑われた…?

むかつく〜。


「だったらきちんと答えてくださっ…」


は?!なんで?!

なんで唇塞がれなきゃいけない訳?!!?

意味分からない。


「一ミリも分かってないみたいだね。

じゃぁ、特別に言葉で一つ目の”答え”教えるね」


最初から言葉で言って欲しいんですけど。

…なんて、この危うい状況で言えないけど、もの凄く言いたい。




「無意識なのも、罪なものだね」




私の耳元でそう言うと、先生は立ち上がって帰っていった。



「なに、その答え…」



私がその意味を理解するのは、もう少し先の話で。

その瞬間の私は、頭に疑問符があふれた結果、夕飯チーズカレーにしようと思っていたのに、先生帰っちゃった…と目に映った事だけしか考えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ