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ストレート  作者: 業平アキラ
第六章
57/63

53:お手伝い

「はー、穏やかだよね」

「ん?伊奈実んこんなにせかせか手を動かしてるのに穏やかって現実逃避ぃ?」


私たちが手を動かしているのは、青葉祭のゲスト・TOKARISHINへの曲目リクエストの専用用紙。

締め切り日はまだ一週間くらい残っていたけど、全校生徒分集まってしまったからこうして曲目別に振り分け作業している。

確かにこのせかせか感は、穏やかって言うんじゃないんだけど、私には穏やかっていうか…。


金曜の夜の混乱から考えると、このいつもの学校生活は穏やか意外の何者でもないのが身に染みるんだよね。


「それよりぃ、手伝って貰っちゃってごめんねぇー、伊奈実ん」


「ううん、全然。こういう集計って一人でも多い方が早く終わるよ。それに花と環南先輩、それから司(つかさ)君にはお世話になってるし」


「九谷、交換条件付とはいえ気付いてないのか?お前環南先輩と、ついでに三崎に巻き込まれたんだぞ」


「司ぁ、ついでって何よぉ」


「そのままの意味だけど?篠村の反論も虚しく、お前も上手いこと言って九谷を青野祭に巻き込んだとみたからな」


「げ、あんた見てたのぉ?」


「いや、結果からわかるだろ普通」


「どう考えても普通じゃないよぉ…その”読み”はぁ」


ふぅ…と花のため息を誘うほどの、淡々とその場に居たかの様な見事な”読み”を披露した彼は、司伊織(つかさ いおり)君。

生徒会副会長で私たちと同じ二年生。


放課後たまに花を訪ねて生徒会室に来ることがあるから、司君とも顔馴染みだったりする。


噂の件の情報操作で今回は彼にもお世話になっている。

司君の”読み”の凄さは生徒会内や学年でも有名だから、それを逆に利用して信憑性を上げる作戦を環南先輩が立てた事で、司君の参加も強制的に決まったそうだ。


「で、九谷はそれでいいのか?」


「うん。その交換条件が私の一番望むものだから、巻き込まれてもお釣りが来るくらいだし大丈夫。むしろ司君を巻き込んじゃってごめんね」


「いや。九谷の手伝いのお陰で今日はスーパー寄っていけるっていう俺にも利があるから気にするな」


司君はクールな雰囲気を纏っているけど、結構周りに目を向けていて、こんな風に気を使ってくれる、さりげない優しさを持っている。


「司君、今日のお買い得品何かあるの?」


「あるある。今日のは九谷も買っとくべきだと思うぞ」


「何?教えて」


ちなみに、彼とはこうして生徒会室で会うたび家事情報を交換し合うのが恒例。

司君のお家はなんと六人兄弟で、ご両親は共働きしているから一番年上の彼が食事担当だって前に聞いた。


「カレールー、一箱七十八円と合い挽き肉百グラム十八円、それからスライスチーズが一袋九十八円の末広がりサービス」


「おぉ!」


とっても安い!


「な?五時半から無くなり次第終了らしい」


「わぁ…それだと戦いになるけど行く価値あるもんね」


「だろ?」


「でも私勝てる気がしないから諦めるよ…」


以前あった、超ド級タイムセールに私も参戦しに行ったんだけど、人混みに揉みくちゃにされて欲しかった物を一つも手に出来なかった苦い思い出がある。


「確かにあの辺の主婦達強いもんな…。俺も負けそうになるときあるし、カゴに入れといたやつ取られた時もあったな…」


「それならぁ、二人で行けばぁ?」


「は?」

「へ?」


花が思わね案に、私も司君も花を見た。



「司ぁ、あんたは一応主婦に負けずに欲しいのゲットできるんでしょぉ?」


「まあな」


「だったら伊奈実んと行けばぁ、カゴの戦利品を見ててもらってぇ、あんたは勝負に集中できるんじゃないのぉ?」


「まぁ…確かに、な」


「でぇ、伊奈実んは司に欲しいのゲットして貰えば二人ともお得ぅ♪」


でしょぉ、とにっこり笑う花。

うーん…確かに私にはいい話だけど司君に迷惑かけるのはちょっとな…。


「一緒に行くか?九谷」


集計するためのプリントを選別しながら何気なく誘ってくれた。


「え、良いの?迷惑じゃ…」


「全然。カゴの見張り頼むな」


「う、うん。…あ、お願いします」


「おう」


「よぉしぃ!話もまとまったしぃ、選別もできたねぇ♪」


花が作業の疲れを取る様に肩をぐるぐる回してニッコリ笑った。


「うん。あとは、リクエスト別の希望数を表にするんだっけ?」


「そうだよぉ♪司ぁ、パソコン作業よろしくねぇ」


「言われなくても、もう起動させてる」


いつの間に司君は生徒会用のノートパソコンを開いていた。


「なにその言い方ぁ。可愛くないぃ!」


怒りを込めて司君の方へ地団駄を踏みながら近づいて間近で睨み上げる花。

それを表情を変えずに見下ろす司君。


ん。二人とも怖い。


「三崎。俺が可愛かったらそれはそれで問題じゃないのか?」


「どんな風に可愛くできる自信があるのよぉ?」


あんたには無理よねぇー。私には絶対勝てないしぃ。な表情をにんまりと花は浮かべて再び睨み上げる。


それを受けた司君は三秒くらい目を閉じてから再び花を見返した。


あれ?なんか雰囲気が…


「花たん、そんな事言って良いのぉ?伊織が本気出して女装したらー、環南先輩イオに惚れちゃうよ~?」


「へ?」

「司君か、かわいい…」


頬へ人差し指を置いて、にっこり笑うその姿は、まるで花レベルの可愛さで、女の子。

男の子の制服着ているはずなのに、ちょっとしたアイドル服みたいなのを纏っている様に錯覚させられるくらい。


でも、司君。むしろ司君。


すごい…!こんな特技もあるんだなー。


そのポーズをゆっくり解くと、表情が急にしたり顔に変わっていつもの司君の雰囲気に戻った。


「どうだ?可愛い司伊織は?」


いや、ニヤリと微笑むその姿はいつもの倍はクール…って言うか悪魔っぽい。

しかもその顔にはお前には勝てるって書いてある気が…。


「くぅ…。やるじゃない司ぁ…」


驚きでフリーズしていた花は頭を振ってそれを解いて悔しそうに呟いた。


「へー、可愛いのな。イオちゃん♪環南ときめいたぞ☆」


「うげ…環南先輩…」

「環ちゃん…その言い方なんか気持ち悪い…」


いつの間にこの第二生徒会室に来たのか、環南先輩が入り口に立っていた。


「司、今の特技黙っててやるからお前もイオちゃんで一役かってもらうぞ。楽しみにしてろよ。な!」


「勝手に決定事項になってるし…三崎のせいで環南先輩の悪巧みに巻き込まれるなんて…」


しまった…と頭を抱える司君にも、読めないこともあるみたい。


そして親指を立ててニッカリ笑う環南先輩が誰より悪い人に見えた。

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