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ストレート  作者: 業平アキラ
第五章
53/63

49:午後の予定とそれから砂

「あー〜うまい!」

「カオ金曜日だからハイテンションだよねぇ」


サンドイッチにかぶりつきながら叫ぶカオを紅茶を飲みながら眺める花の解説が入った。


あれから毎晩、なにかと理由をつけて夕飯を先生は私の家に食べに来るようになって4日。

いつの間にやら今週も学校登校最終、金曜日です。


四限目が終わって昼休み。

今日も花とカオと学食スペースでランチタイム。


「おうよ!土日がカオを待っているんだから!」

「カオ土日何か予定あるの?」


あんまりにも意気込んで返事をするカオが気になって聞いてみた。


「あるのぉー!」

「おい花、なんでカオより先に返事しちゃったんだよ。伊奈実はカオに聞いたのに〜っ!」

「カオ落ち着いて、落ち着いて」

「むーっ」

鼻息荒く花に食らいつくカオをなだめた。


「で、土日に何があるの?」

「それは、」

「うん、うん」

にんまり微笑むカオを見てるとますます興味が湧く。


「俺ら三人でトモシの舞台見に行くんだよな」


「環ちゃん!」

「環兄ぃ!」

「環南先輩」


花とカオの間を割って環南先輩が現れた。


「って、環兄ぃもカオが言いたい事なんで言っちゃうんだよ!むーっ」


頬をパンパンに膨らませて抗議するカオを、何事も無いような表情で先輩は口を開いた。


「そんなの言いたいからに決まってるだろ」

「だよねぇ」

「ひでぇ!!環兄ぃも花も酷すぎだろう!カオが伊奈実に言いたかったのに…」


なんとか聞き取れる程の消えそうな語尾と共に項垂れてしまった。


「カオ、トモシってTOKARISHIN(トカリシン)の?」

「そう!そのトモシの舞台!!」


ブンと音がしそうなくらいの勢いで下がっていたカオの頭が元に戻った。

そう言えばカオはTOKARISHINの中でもトモシのファンだったもんね。


「確か…去年の映画で演技の賞もらったって言ってたよね?」

「うん、助演男優賞!三月に終わった初主演ドラマも最終回三十パーセント越えの超高視聴率だったし、今月発売の小説もかなり売れてるんだ!!」

「へー。トモシは作詞作曲以外に、演技と小説書くんだ。すごいね」

「そーなのだ!」


えっへん!って感じで両手を腰にあてるカオ。

さすがファン。詳しいな。


「おい、カーオ。お前が凄いみたいな雰囲気だけど凄いのはトモシだからな」

「わーってる!ファン心だよ!!」

「そうだよねぇ。カオは一般人だけど、トモシは普通を謳う、非凡人だもんねぇー」

「はいはい、どうせカオは凡人です!」


二品目、バクダンおにぎりを口いっぱい頬張って拗ねる姿勢に突入したカオは目が据わっている。

花と環南先輩はそんなカオを見て楽しんでいるし。

まったく…二人から黒いしっぽが見えそうだよ。


「ねえ花。普通を謳う、非凡人ってどういう事なの?」

「あぁーそれはねぇ、トモシの口癖みたいなものかなぁ」

「口癖?」

「そーそ。”僕、いつも一杯一杯です。ステージに立てば心臓ばくばくするし、初めて合う人に緊張もするし、雷にビビったり、お笑い見て笑ったり。普通の人間ですよ”ってぇよく言うのぉ」

「普通の人間…か」

「でも、作詞・作曲、本も書いて、おまけに演技まで賞をゲットしちゃうくらいのどんだけ凄いんだよって力があるでしょぉ?なのに、デビューからずっとそう言い続けてるから、”普通を謳う、非凡人”って代名詞がついたって訳ぇ」


「ほお…」


んー…トモシは謙虚なのかな?


「ま、私はマドカ様のファンだけどねぇ」

「ちなみに俺はジュンの創る音楽のファン。トモシが賞をとった映画で音楽担当していてさ、賞は逃したけどいい音創るんだよ。ほらカーオもそろそろ機嫌直せ。チケットは俺の手にあるんだぞ?」


ほれほれとカオの前をパタパタと三枚の紙が舞っている。

それにピクピク反応するカオ。

無言のまま必死に我慢しているんだね…ごめんちょっと面白い。


「先輩、その舞台はどこで公演するんですか?」

「おー、九谷ちゃん良い事聞くねー。これがなんと隣の市なんだよ」


隣の市は、有名所のアーティストがコンサートとか握手会に使う施設とか舞台など色々充実していたりと結構大きい。


「へー。意外と近いんですね。それにトモシの舞台のチケットなんてよく手に入りましたね」


去年賞を取ったって事はただでさえ人気の彼の価値はますます上がっているはずだ。

そんな時にチケットが三枚もあるなんて凄い。


「俺の二番目の兄貴、千尋(ちひろ)通称・尋兄(ひろにい)って言うんだけど、そいつがなんと今回公演する舞台の関係者でさ。ちょーっと苦労したけど、そのつてでゲットした訳なのだよ」

「環兄ぃひと月パシられてたもんな」


花と先輩に折られた心はデザートの大福でいつのまにやら回復したカオが楽しそうに言った。


「ふふ♪尋兄は優しいから私とカオは買い物に付き合って服を選んであげただけで済んだけどねぇ」

「カオ、コーディネート全然役に立たなかったけど許してくれたしな!」

「くっそー。カーオと花公には甘いもんな、あのおっさんは」


おっさん?

環南先輩って確か五人兄弟だったよね。


「そのお兄さんおいくつなんですか?」

「今年三十になるから九谷ちゃん達とは十三歳差だな」

「そぉ、だから私たちの事、妹っていうか娘みたいに接してくれて昔から甘甘だよぉ」

「環兄ぃん家は男ばっかりだから、完全にその反動だよな」

「そうそう。カーオまで女の子に見えてるくらいだしなー」

「いや、カオちゃんと女子だけど」


ほら。と言いながら椅子から立ち上がってくるりとその場で一周回って見せた。

制服のスカートがひらりと舞った。


「いやいや、カーオはおっさん入ってるだろう」

「あぁー。お父さん達に混ざってスルメをかじってサイダー飲んでぇ、碁盤使ってリバーシしてたりするしねぇ」

「未だに碁は覚えてないのがカーオらしいよな」


言うなり花と環南先輩はケラケラ笑い始めた。

そのとなりで打ちのめされたカオが灰色になってる。


「うう…壱兄ぃ(いちにい)に電話する」

「ばっ!”アインスコール”は、それだけはやめろ!いーや、やめてくれ!!」


カオの一言に先輩の顔色が突然変わった。


「伊奈実ん、伊奈実ん。壱兄は環ちゃんの所の一番上のお兄さん、壱矢(いちや)くんだよぉ。

尋兄より三つさらに上でぇ、ちなみにぃ” アインスコール”は壱兄の壱をドイツ語で呼んでるだけぇ」


花がこっそり横から解説を入れてくれた。

ドイツ語と英語が混ざったネーミングなんだね。


「先輩は何であんなに嫌そうなの?」

「壱兄はねぇ、言葉がズバズバ鋭くてお説教が長いのぉ」

「どのくらい?」

「環ちゃんの今までのMAXは三時間ずーっと正座で膝詰めて叱られっぱなしぃ」


三時間か…私なら聞いてる間に意識が遠のきそうだな。

驚いている私にそれだけじゃないんだよぉと笑いながら花は追加する。


「反省文も百枚くらい書かされるしぃ、壱兄お手製の無理難題に近いくらい難しい問題を二週間毎日、頭爆発するまで解かされるのぉ」

「ば、爆発?」

「そーそ。俺一回だけ本当に髪の毛が爆発…っていうか十円ハゲできたくらいだ。俺、あの時から壱兄苦手なんだよな」

「それはそれは…」


先輩が十円ハゲ作ったことあるんだ…。

おそらくそれがあった場所を指さす先輩の姿が何とも悲壮感漂っている。


「ぷっ、あれ本当に十円がピッタリはまったもんな」


あはははと笑いながらテーブルをバシバシ叩く” アインスコール”をしようと言い出した張本人。


「カーオ。ジュース一本でどうだ」

「嫌、五本」


カオは右手の指を大きく広げて先輩の顔の前へと突き出す。


「ねえ、花」

「なにぃ?」

「あれ何してるの?」


突然始まったジュースの話題に頭がついて行けず花に聞いてみた。


「あぁ。あれはねぇ、交渉だよぉ」

「交渉?」

「” アインスコール”をしない代わりにジュースで手を打とうって言う訳ぇ」

「なるほど」

「でも口止め料にしてはとんでもなく安いってカオが気付いてないトコが面白いよねぇ。私だったらそんな物じゃ絶対に納得しないけどねぇ」


声を潜めてこっそり私だけに聞こえる大きさで黒いキラキラを纏って花は言う。

うん。末恐ろしいよ花。


「三本+お前んちの草むしり代行でどうだ!」

「草むしりか…」

「おう。どうだ?」

「う〜ん…乗った!」


「ね、ちょろいでしょぉ?」


ちょろいって…花さん。


「ねぇ、そんなことより今日の放課後どっちに行くか決めたのぉ?」

「おう!決めた」


朝、校門で会った時から放課後に、CDショップか服屋どっちに行くかカオはずっと悩んでいた。


CDショップにはTOKARISHINのシングル初回限定版を予約してあって、服屋は明日着ていく羽織ものを見るため。

予約してあるからCDは今日じゃなくても確実に手に入る。

だからそう急ぐ必要はないけど、すぐに聞きたい。

羽織ものは行っても良いのが見つからない可能性もある。

その場合、家にある物を着ていく訳で、だったらCDを手に入れた方がいいかも知れない。

でも、明日ちょっとでも自分に合う服を着て行きたい。


そう言ってカオは一人で堂々巡りをしていた。

ちなみに二つのお店はそれぞれ反対方向にあるから、放課後に行くならどちらかしか行けないんだそうだ。


明日必要の意味は、トモシの舞台だってさっきようやく分かった。

だからずーっと頭を抱えていたんだな…。


「でぇ、どっちに行くのぉ?」

「服屋!」

「カーオ勝負に出たな」

「明日は一日しかないからさ。花、あの服に合うの選んでください!」


パンッと両手を打ち合わせて花の方を向いた。


「はいはい、環ちゃんからゲットしたジュース一本でいいよぉ」

「わかりました花様!よかったら伊奈実も一緒に行かないか?」

「ごめん、今日はバスクに行くんだ」

「それってぇ、伊奈実ん愛飲のコーヒー売ってるお店だったよねぇ」

「そっかー。伊奈実にとってコーヒーはカオにとっての竹刀みたいなもんだもんな。また今度行こうな」

「カーオ、大切だって言いたいのは十分わかるがお前の武器と比べちゃダメだろ」


左手を横に出してツッコミのポーズをする先輩にかおが唇を尖らせた。


「むー、いーじゃんか分かれば!っていうか武き…」


RiRiRiRiRiRiRiRiRi…

カオの声を遮るように私の携帯が鳴った。

この音はメールじゃなくて

「電話だ」

「伊奈実ん出なぁ☆」

「電話切れちゃうぞ、早く早く!」

「うん、ちょっとごめんね。…はい」


『キューちゃ〜ん♪私よワ・タ・シ』


『サクラさん』

急いで出たから、誰からか確認していなかったけど声ですぐにわかった。


『そ〜よ。キューちゃん。今日お店、来てくれるのよね〜?』

『はい、行かせていただきます』

『ふふふ、例のアレとそれからリーヤと一緒に待ってるわね〜』

『五時頃に行きますね』

『わかったわ〜。じゃ〜ね〜♪』

『失礼します』


「誰、誰?」


電話を切ってすぐ、カオが尋ねてきた。


「バスクの店長さんだよ」

「おぉ。さっき話ししてたとこじゃん」

「あの店長さん外人さんだと思ってたけどぉサクラって日本の名前だからハーフぅ?」

「クウォーターって言ってたよ」

「うげ?!四分の一であんなにキレイなの!?」


カオの目が思いっきり見開いた。


「うん、すごいよね」

「そんなに綺麗なのか?」


環南先輩が食い気味で聞いてきた。


「そうだよぉ。環ちゃんはぁ、綺麗なお姉さんが好きなのねぇ?」

「いや、花公…そうじゃないけど み、見てみたいじゃん?」


何故か声が揺らぐ先輩へ疑いと怒りがたっぷり混じった花の声は凄まじく怖い。

刺さるような視線を一身に受ける彼の顔は引きつり気味だ。


「でも綺麗な人ってぇ、見てみたくなっちゃうよねぇ」

「そうだろ、花公」


納得したのか何なのか、先輩を追い込んでいた花が急にフォローする側へシフトチェンジした。


「うん、わかるよぉ。だってぇ環ちゃんの初恋はぁ、美紗(みさ)姉ちゃんだもんねぇ」

「うっ…」

「えぇっ?!環兄ぃそーだったの!?」


シフトチェンジは爆弾発言への前振りで、それを聞くなり先輩の表情はゆがみ、カオは驚きの後なぜか笑いを堪えてこっそりこちらへ来た。


「いっ伊奈実っ…美紗姉ちゃんってな、家の近所の綺麗な姉ちゃんなんだけど、なんと今、環兄ぃの苦手な壱兄ぃの婚約者なんだぜっ」


面白いだろ?と、もう肩が上下に細かく動いて止まらないカオ。


「おい、カーオ!聞こえてんぞ!」

「怒んないでよ王君(おうくん)」

「お前、その呼び名と口調で呼ぶな!」

「王君…って先輩ですか?」

「そうだよぉ。美紗姉ちゃんはぁ、漢字を分解して勝手に呼ぶのぉ」


花がまだ不機嫌な表情ながら、解説してくれる。


「分解?王偏が付いてるから王君ってこと?」

「そ、尋兄はヨー君でぇ、壱兄はヒー君なのぉ。おもしろいでしょぉ?」

「へー。個性的だね」

「ふふっ、ねぇー?王君」

「花公…俺は…」


花のチクチク容赦ない責めに、先輩がボロボロになりながらもそれを受け止め、微笑む。


「昔の恥ずかしい思い出話されてつらいのに、そんなに妬いてくれるから俺は嬉しさでいっぱいだぞ」

「なっ、環ちゃん…」


いちごちゃんとまではいかないけど頬を紅く染めて慌てる花を見て、先輩はますますいつもの調子に戻る。



「あー!ちょっと放送室占拠して今の気持ちを皆に聞かせたい!」

「ちょ、環兄ぃ。それは迷惑だろ!」

「このハッピーが迷惑なわけが無い!さて、俺行ってくるわ!」


言うなり駆け足でこの場から居なくなった先輩。

思い立って直ぐに行動できるなんて先輩はやっぱり凄いな。


「ハッピーだって、花。」

「………ぅん。そんな予定じゃ無かったんだけどなぁ」



えへへぇと照れ笑いする花はとってもかわいい。


ピンポンパンポーン♪

そして、先輩早過ぎです。

ここから居なくなって一分も立たない間に放送の音が聞こえるって一体。




「あー、今日も平和だ。砂吐きそうなくらい平和」



頭の上で腕を組んで、カオが青空を見上げながら言った。


花とカオと伊奈実。それから環南が集まると話が無駄に伸びます…。

次話はバスクにて。

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