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ストレート  作者: 業平アキラ
第五章
51/63

47:宣言じゃなくて約束だよ

「わ〜!伊奈実ちゃんって感じだよね〜」


この人、何でこんな所で楽しそうにできるんだろう?


っていうか”私って感じ”ってどういう意味だかさっぱり分からない。

特に無駄な物は無いし、かと言って必要な物はちゃんとある。

別に普通でしょ?


「…コーヒー飲んだら帰ってくださいね」

「夕飯なに〜?」

「………コーヒー飲んだら帰ってください」

「僕、オムライス食べたいな〜」

「………………作りませんよ」

「ケチャップでハート描いたのがいいな〜」

「………………」



こ、この変態っ…

人の話聞いてないし…


一応ここがどこか言っておくと、私の家です。

そう、私の家です。

とっても大事なので二回言いました。

なぜ先生がここに居るかと言うと、それは十五分くらい前、十六時五十分の保健室に時間をガギガギ戻す事になるのです。








___約十五分前____






コンコン

「失礼します」

「は〜い。あ!伊奈実ちゃんだ〜どうしたの〜?僕が恋しくなった〜?」


こ…恋しく?!

先生の思考回路いい加減どうなってるのか。

ま、正常じゃない事は確かだな。


「先生に用があって来たんです」

「ひょっとして朝の時のかな〜?」


お?先生分かってくれてるんだ。


「伊奈実ちゃん勢いよく出て行っちゃったから、僕どうしようかと思ってたんだけど伊奈実ちゃんから来てくれるなんて嬉しいよ〜」

「いえ、私から先生の所へくるべきだと思いまして…」


荷物預けてるのは私なんだし。


「伊奈実ちゃんっ…!」


先生のキラキラが増したような。…なんで?


「えっと、それでなんですけど…」

「うん!どこ行こうか〜?」

「とりあえず駐車場ですね」


先生の車はそこにあるしね。


「そうだね〜。よ〜し!仕事も終わったし、このまま一緒に行きたいけど…不思議屋で待ち合わせで良いかな〜?」


そうだ、先生は”先生”。


「もちろん良いですよ」

「わざわざごめんね〜。じゃ、五分後くらいに行くから待っててね〜」

「はい」




    *




「おまたせ〜伊奈実ちゃん」

「いいえ一分も待っていませんよ」

「ははは〜。じゃ、こっち乗ってね〜」

「?」


あれ?荷物ここで渡してくれるんじゃないの?


「ほら伊奈実ちゃん、誰か来ちゃうかもしれないよ〜?そうしたら校内放送の噂の比じゃ無いくらいの騒ぎになったら困るの伊奈実ちゃんだよ〜?ほら早く乗って〜」

う…それは困る。

「はい」


先生が開けてくれた隣のシートに座ると、車が発進した。



「さて、どこ行こうか〜?」

「へ?」


どこって何?


「今日は月曜だからあんまり遠出はできないけど〜、他でもない伊奈実ちゃんのリクエストなら答えるから行きたい所言って良いよ〜」


んん?どういう事?

私は行く所決まってるんだけど…?


「私、家に帰るんですけど」

「え?伊奈実ちゃんのお家でいいの〜?」

「はい」


私が帰るんだし何も問題ないのに先生どうして聞くんだろう?

あ、ご飯ちゃんと食べるのか心配しているのかな。


「先生そんなに心配しなくても、私きちんと夕飯用意しますから大丈夫です」

「わ〜!伊奈実ちゃん夕飯作ってくれるの〜?楽しみだな〜」


んんん?!


「先生の分は無いですよ」

「え〜?デートなのに、どうして〜?」


はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!


「で、デート!?」

「そうだよ〜」


なにこれデジャブ!?

っていうか何この流れ…


信号で停車した先生は満面のキラキラ笑顔を向けて口を開いた。



「僕とデートしたくなったから保健室に来たんだよね〜?」



「…………は?」



私、いままでで最高のアホ面をしたと思う。



「あれ?朝、デート楽しかったよね〜って話したから、伊奈実ちゃんまたデートしたくて僕の所に来たんだよね〜?」

「違います。三泊したバッグを先生の車に忘れてしまったので取りに来ただけです」

「ははは〜。じゃあさっきから話かみ合ってなかったってこと〜?」


かみ合ってなかったのに、会話が成り立っていたのが逆に怖い。


「そうみたいですね」

「でもさ〜」


信号が変わり、再び車が進み出した。


「はい、なんですか?」

「せっかくだから伊奈実ちゃんの手作りご飯食べたいな〜」

「は?」

「という訳で伊奈実ちゃん家へ行こ〜う!」

「はぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」




______________________





で、いまに至るのです。


「伊奈実ちゃん、伊奈実ちゃん僕もお手伝いするからね〜」


リビングを一通り見回して、こちらを見てニッコリ笑ってそう言う。

コーヒー飲んで大人しく帰る気はこれっぽっちも無いって訳ね。

こんにゃろう…こうなったらこき使ってやる!

そうしたら嫌になって帰るでしょ。


「わかりました。じゃあ炊飯器とお米がここにあるのでご飯炊いてもらえますか?」

「うん、わかった〜」


小さな米袋を炊飯器の横にトンと置いて指示すると意外な程あっさり快諾した先生がキッチンへやって来た。


「私ちょっと洗濯とか掃除しちゃいますから失礼しますね」

「了解〜」

片手をひらひらさせて先生に送り出された。


なにせ、掃除と洗濯は水曜日以来だ。

気合い入れてやらなくちゃ!




    *




「ふぅ…よし」


掃いて、拭いて、洗濯機回して、干して。

もうスッキリ気分爽快!


「お掃除洗濯、終わりー!」

「あ、伊奈実ちゃんおかえり〜」

「せ、先生…?」


リビングに戻るとキッチンに居る先生が顔を出した。


しまった。集中しすぎて先生の事忘れてた…っていうか


「先生何…してるんですか?」

「ん〜?お米洗ってるんだよ〜?」


しまった……忘れてた。

先生はお坊ちゃんだった。


「あの…先生?」

「ん〜?」

「それ、無洗米って言って洗わなくていいお米なんです」

「え〜!?そうなの?!洗っちゃった〜」

「それはまぁ、しょうがないですよね」

「伊奈実ちゃん優し〜い」


そう、それは仕方が無い事だ。

ギリギリ許せる範囲。


「でも………お米は…」



このふんわふわな光景は、誰がどう見ても間違ってる。



「お米は基本的に、洗剤で洗ったりはしません!」

「うそ〜〜〜〜!?」



シンクのあわあわが先生の悲壮な叫び声に揺れた。





    *





「伊奈実ちゃん、伊奈実ちゃん。ハートねハート♪」

「はいはい。じゃ、目閉じててください」

「うん、わかった〜」


投げやりな返事をしながら、先生が手伝ってくれた事によってさらに手間がかかったけど、なんとかできあがったオムライスに握っていたケチャップで絵を描く。

よし。こんなもんだな。


「はい、できましたよ。目開けていいですよ」

「わ〜い!あれ?ハートじゃなくてお天気マーク〜?」

「そうです。九谷家のオムライスは晴れ印って決まってますから。とにかく、食べましょう?」


ハートなんて描きたく無い。

家に来たからにはミナミさんルールに従わせる。


二人でいただきますをして、食事が始まった。


「ん〜!伊奈実ちゃんの手作りはとってもおいしいね〜」

「ど、どうも」


昨日もほめてくれたけど、こういう感じで返事すればいいのかな?


「このマーク何か意味とかあるのかな〜?」


晴れ印をじっと見つめて先生は首を傾げた。


「ありますよ。ミナミさんが決めたんですけどね」

「聞かせて〜」


「今日とか明日の天気って自分ではどうにも決められないじゃないですか?」

「うん、そうだね〜」

「だからどんなお天気でも、心は晴れるようにってこの晴れ印を食べるんです」



私が元気無い時に、”このオム晴れ印が伊奈実の体の中に入って、明日もきっと元気にすごせるわよ!”ってミナミさんがよくおまじないをかけてくれた。

だから私は晴れ印をオムライスに描くのが癖になったし、何より好きだったりする。



「そっか〜!じゃ〜僕は伊奈実ちゃんのおかげで明日も元気に過ごせるってことだね〜」

「そんな事しなくても、先生はいつもこのマークみたいですけどね」


ペカペカって感じがそっくり。

先生の場合は常に全開のペカペカだから、何て言うか…そう、昼行灯って言葉がちょうどいいくらい。

今の時代的にエコじゃないよね。


「ははは〜。嬉しいな〜♪」

「…誉めてませんけど」

「そうなの〜?僕は嬉しいからいいよ〜」


先生はますます笑顔を深めて楽しそう。

それで良いなら…ま、いっか。



「それに伊奈実ちゃんとの約束も守れてよかったよ〜」


ん?


用意したオムライスとサラダをきれいに食べきった先生はごちそうさまのついでみたいに軽く言ったけど、何?


「約束…ですか?」

「うん、約束だよ〜。金曜日にしたやつ〜」


金曜日?そんな約束なんてした覚えが無いんですけど…


「あ〜?覚えてないって顔だね〜」

「全く記憶にないです…」

「伊奈実ちゃんとこれからもごはん一緒に食べるって約束だよ〜。僕としたよ〜?」

「あぁ」


何か思い出したかも。

金曜日の夕飯の後に先生とサクラさんとリーヤさんとごはんを食べたとき、美味しかったし何より一緒で楽しかったからいっぱい食べ過ぎたって話をしたんだった。

そうしたら先生が

”僕も楽しいよ!伊奈実ちゃんと一緒!これからも一緒だよ!”って勢いよく言ってた。


でもあれって…

「先生、あれは約束って言うより一方的な宣言ですよ」

「でもあの時、伊奈実ちゃん”ありがとうございます”って言ってくれたよ〜?」


話がヒートアップしてきて席を立った先生が、私の隣へやって来て顔をぐいっと近づけた。


「だからあれは〜宣言じゃなくて約束だよ〜」


ちょっと首を傾げてニコニコ顔でそう言い放つ。


あの宣言がどうして約束に変化するのかさっぱり分からない。

先生の思考回路って一体どうなってるんだろう…?


「違います」

「違わないよ〜伊奈実ちゃん。それにもう一つの約束〜」


更に近くなる先生の顔面。


な、何?!また約束?

しかも身に覚えがございませんが?!


「今は仕事中じゃないから僕の事、”先生”じゃなくて”カエデ”って呼んでね〜チュッ!」


頬に先生の唇が触れた。


はぁ?!

っていうかそれ…


「それは一方的な宣言でしかない!この変態!!」

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