5:ガラスと役者・珠洲視点その二
「誰だ!ガラスを割ったのは!!」
「あ〜、僕です桐野先生。すみません」
「何?珠洲先生あんたが?」
「そうなんです〜スマイルくんを彼女たちに手伝ってもらって移動させてたら僕がパリンとやっちゃいまして」
スマイルくんは薄笑いを浮かべた人体模型で僕の保健室のマスコット。
三日後の身体測定に備えて資料室に避難してもらうために彼とここに来た。
こんな芝居にも薄笑いの表情を崩さず彼は付き合ってくれる、なんともいいヤツなのだ。
「まったく。しっかりしてくださいよ珠洲先生。ほら、君たち何を呆けとるんだ。ほうきとちりとり持ってきなさい」
『は、はいっ!』
弾かれたように女の子達が廊下へぴゅんと駆け出した。
「それにしても部屋が荒れてるな…」
さすがに目ざとい桐野先生だ。
割れたガラス窓を外しながらも室内の異変を指摘する姿に視線を向けた。
油断は禁物ってことだな。
「スマイルくん運び入れる時にちょっと色々ぶつかっちゃって…すみません直します。」
「お、九谷お前鼻赤いぞ血か?」
「はい…」
「彼女廊下で会ったんですけど、軽い鼻血出ちゃってたみたいで、応急処置はしたんで大丈夫なんですけど貧血気味だったんでここに座ってもらってるんです~」
さりげなく現状を説明すると、桐野先生の表情が眉根をぎゅっと寄せて曇った。
「貧血か。それは大変だな…ん?そのノート古文のだな、九谷ここで受け取るから、珠洲先生に保健室連れて行ってもらいなさい」
こういう所がこの先生の良いところだな。なんて僕が思っていたら九谷さんの肩がまた揺れて、顔色が別の意味で青くなっていた。…ふふ、保健室本当に行きたくないんだな。
でもこの機会を僕は養護教諭として逃す訳にはいかない。
「九谷さん、大丈夫?顔色悪くなってるね。すみません桐野先生、ここの処理お願いしてもよろしいですか?」
「ああ、ここは私がやっとくから早く連れてってやってくれ」
「ありがとうございます」
桐野先生に一礼してから、何だか逃げ出しそうな九谷さんを貧血の設定だから横抱きに抱えて保健室に向かった。
そう、即興だった演技はあっさり成功したのだ。




