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ストレート  作者: 業平アキラ
第五章
49/63

45:私=説得、先生=???

「三泊もしてしまって…皆さんお世話になりました」


土日も明け、今日は月曜日。

再びいつもの生活に戻るべく学校へ行く前に、お屋敷の皆さんに挨拶です。



「なーに、気にするこっちゃ無いぜ!お嬢ちゃん。

俺も久々にデザート旨そうに食べて貰えて嬉しかったぜ。

坊っちゃんなんか抜きでも良いから、また放課後にでもふらっと来な。新作食わせてやるから!」


「九谷様。この田中、今降ってきたイメージをカタチにしてお待ちしておりますわ!」


「私も腕を磨いておきますので、また是非」


日野さん、田中さんに伊藤さんが暖かな声をかけてくれた。

ここの人はみんな優しいな…


「えぇ〜?!日野がさりげなく僕に酷いよ〜伊奈実ちゃん」

「優しいと思いますけど?」

「わ〜ん!今度は伊奈実ちゃんが酷いよ〜!!」

「っ…くくっ、ふふふふ」

「伊奈実ちゃん…!」



先生が何とも変な表情で私を見ていた。




「おっと。坊ちゃん、お嬢ちゃん。田中ちゃんが鼻血出して倒れる前にとっとと行ってくれ」

田中さんの目を分厚い眼鏡ごと両手で塞ぎながらそう言った。


「はれぇ?日野くん?!」

目を塞がれ、田中さんは何が何だかわからないみたい。


「こら、日野。口が悪いですよ、少しは慎みなさい」

ここまで穏やかに私たちを見ていた佐藤さんが日野さんを嗜める。


「いいよ〜佐藤。これから起こる事予測して日野はそうしてくれたみたいだし〜。

じゃ、伊奈実ちゃん行こうか〜」

「はい。では、お邪魔しました」

「九谷様」

「はい?」


玄関を出てすぐ佐藤さんに呼び止められた。


「皆も、もちろん私もいつでも九谷様がいらしてくださるのをお待ちしております。ですから、ぜひ”行ってきます”と玄関を出て行ってくださいませ」

穏やかな笑顔を携えてそう言う佐藤さんの後ろに居る皆さんもそれに頷いた。


行ってきます、か…


「そうだね〜、そっちの方が響きがいいよね〜。どう?伊奈実ちゃん」


先生も立ち止まって佐藤さんに賛同する。

そう言っても良いなら…


「い、行ってきますっ」

「「「「いってらっしゃいませ」」」」



あ…久しぶりかも。

行ってきますを、誰かに言ったのもそれに返事が返ってきたのも。


こういうの、なんか落ち着くな。



「ははは〜。伊奈実ちゃん良い顔。さ、行こうか〜」

「はい」



こうしてお屋敷を後にして、先生の運転で学校へ向かった。







     *






七時十分。

学校に着くと、車を止めた先生はするりと後部座席にやってきた。

なんか前もこうじゃなかったかな…?


「伊奈実ちゃん、説得の事なんだけど〜もうタイムリミットだから結果言うね〜?」

「はい」


ついに私の金曜日の放課後から数えて三日間の説得に結果がでる。

かかっているのは、これからの平穏。


先生の目をジッと見返すと、楽しそうにニッコリ笑われた。


「ははは〜、伊奈実ちゃんがそんなに見つめてくれるならずっとこのままにしておこうかな〜?」


顔をぐいっと近づけ、覗き込むような姿勢で先生は笑顔を深めた。


「先生、とぼけた事言ってないで早く結論お願いします」

「え〜?楽しいのに〜」

「…」

め、めんどくさい大人だな…。


自然とため息が出て来て、先生の居ない方を向いた。


「あ〜、納得ならしたから二人きりなのに放置はやめて〜」

「今、納得したって言いました?」


くるりと向き直って、もう一度目を合わせた。

先生は、言っちゃった〜と自身の頭に手を当て、苦笑する。



「本当ですか?」

「うん、本当だよ〜。金曜日に大体説明してくれたし〜」


ん?金曜日で納得してくれたのなら…


「土日は要らなかったんじゃないですか?」

「必要だったよ~?伊奈実ちゃんとデートしたかったし~♪」


「で、デート…?」


私、そんな事した覚えはないけど?!


「そうだよ~」



伊奈実の土日の脳内では、

”説得頑張らねば”が実に八割を占めていた。

その為、珠洲と出掛けたことは全て”説得”というカテゴリーにきっちりスッパリ納められていて、デートなんて事はまず選択肢にすら上がらなかったワードだった。


もちろん、彼女の記憶の大部分に残っているのも説得の為に一生懸命言葉を紡いだ事だったりする。




う、嘘でしょ…


「桜を見に行ったのも、お弁当作って食べたのも…?」

「デートだよ~」


笑顔を深め、先生は頷く。



つまりは、車内での説得も、お弁当食べた後の説得もみーんな全部…無駄だったってこと?



「楽しかったよね〜」

思い出に浸るようなキラキラした眼差しを私へ向けるこの変態。

楽しそうに笑いやがって…


「ふふふ…先生?」

今できる、引きつりながらの笑顔で先生を見返す。


「伊奈実ちゃんっ…」

何かを期待した先生がキラキラを倍増させた瞳で見返してきた。




「私の努力を返せ!バカーーーーーー!!」



車から漏れたとは思えない程大きな怒りの叫びが、朝のまだ誰もいない学校敷地内に響きわたった。

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