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ストレート  作者: 業平アキラ
第四章
38/63

38:ポラロイドな鍵

「楓くん伊奈実ちゃん、そこから適当に話でもしながらゆっくり歩いてくれるー?」

ちょっと遠くからビビちゃんさんが声を上げた。

「わかった〜」

先生はそれに手を振って返事をする。


「だって〜伊奈実ちゃん。ビビちゃんなんか面白いよね〜」

「そうですね。初対面ですけど、前からの顔見知り…知り合いみたいな空気感がありますよね」

「うん、それ僕もわかるよ〜。僕もう友達気分〜」

「それは早いですね」

「ははは〜」

私たちは古風な桜並木の道をゆっくり歩き始めた。


「はい伊奈実ちゃん」

「?…なんですか?」

突然先生の右の手のひらが私へ向けられた。

そこには何も無い。ただの手。


「ちょうだい」

「何をですか?」

「先が五つに分かれてて〜先がほんのりピンクの小さなもの〜」


何それ…なぞなぞ?

うーん…

「わかりました!ちょっと待っててください」

「え?伊奈実ちゃん?」


先がほんのりピンクで五つに分かれたもの。

これしかないでしょう!


風の流れを追ってそれを捕まえる。


「せ…楓、どうぞ」

「ははは〜。こう来たか〜」

「違うんですか?」

「うん。桜の花びらじゃないよ〜」

咲いている桜の花を摘んでしまうのは忍びなかったから、舞う花びらにしたんだけど、やっぱり花が良かったのかな?

うーん…

「正解は〜これ〜」


そう言って先生が手にしたのは私の左手。


「なんですか。離してください」

「え〜?伊奈実ちゃんが冷たいよ〜」

「笑いながらそんなこと言われても困ります。

離せ、変態」


繋がれた手を離せと言わんばかりに、左右にぶんぶん振った。


「ははは〜仲良しさんみたいになってるよ〜。

これビビちゃんからのリクエストでもあるから〜。

しばらくこのままでいようね〜?」


「…本当ですか?」

何か先生は私に対しての前科がありすぎて、イマイチ信用ならん。


「ホントだよ〜?さっきビビちゃんに耳打ちされたもん〜。

伊奈実ちゃんには内緒でリアクションも撮りたいって言ってたよ〜」


振り向いてビビちゃんさんを見たらサムズアップなサインが帰って来た。

…ビビちゃんさんのリクエストなら、嫌だけどちょっとぐらいは我慢すべきか。



「そういえば〜、伊奈実ちゃんは桜を近くで見たことある〜?」

「今も近くで見てますけど?」

「ん〜、もうちょっと近くで〜。小ちゃい頃木登りとかしなかった〜?」

「さすがに木登りはしたことないです。っていうかできません」

「そっか〜。…よ〜し!」

「わわっ!」


繋いだ手をぐいっと先生の方へ引かれて、手が解かれたと思ったら足が地面を離れた。


「ちょ、せん…楓!何するんですか?!」


先生に脇から体を支えられて、私は宙ぶらりんな状態だった。

眼下の先生に文句を言った。


「伊奈実ちゃん上みてごらん〜?」


あんまりにも先生が楽しそうに言うから、そっと従ってみた。


「すごい…!凄いきれいです!」


目の前の視界いっぱいに桜。

一輪一輪、咲き誇るものまではっきり見える。

どこもかしこも桜の白に埋められていて、かすかに花の香りもする。


「ね〜?桜の雲の中みたいでしょ〜?」

「はい!とっても近くもいいですね」

「かわいい〜!!!チュっ」


この変態がっ…!


「あごに唾付けるのやめてください。あと、降ろしてください」

「だってかわいいんだもん〜!」

「え、わ!」


先生の上まで伸びた腕が私からパッと離れて、一瞬宙を舞って先生の胸の中に落ちた。


「離せ、変態」

尚も先生の腕ロックがかけられていて身動きがとれない。

「離さない〜!」

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

突然、ビビちゃんが奇声を上げた。


先生の腕ロックが緩んだ隙にすり抜けて、ビビちゃんさんの方を振り向いた。

あれ?なんか、顔がすっごい緩んでる…?


「あぁん!最高っ!」

少し遠くで一人、彼女は身悶え始めた。


「び、ビビちゃんさん??」

「ビビちゃん、どうしたの〜?」



「こんなにアタシの魂が震えたのは久しぶりよっ!!!!!

ありがとうっ…!楓くん、伊奈実ちゃん」



「撮影終わったってこと〜?」

マイペースに先生は聞き返す。

「そうよーっ!ごめんなさい、つい浸っちゃって。

今撮ったもの、今度のアタシの写真展に出しても良いかしら?」


もちろん二人の顔は写ってないからとビビちゃんさんは追加した。


「顔が写らないんだったらいいよ〜」

「私も大丈夫です」


「ありがとーん!

じゃー楓くん、写真展の日程決まったら報告したいから連絡先教えて頂けるー?」

「うん、いいよ〜」


先生とビビちゃんさんが携帯を取り出して交換を始めた。

と、思ったらビビちゃんさんが私の方へやって来た。



「とりあえずのお礼としてこれ、貰ってくれるかしらー?」

正方形の白いものを手渡された。


「なんですかこれ?」


「そうねー…謂わば

”一片の瞬間を呼び覚ます鍵”よ」


「鍵ですか?…あ!」

裏を見るとそれは、先生と私が写ったポラロイド写真だった。


「これさっきのですか?」

「そー、撮りたてほやほやよーん♪

ポラはこの一枚だけしか撮ってないからア・ゲ・ル」


「ありがとうございます」


「この一枚が伊奈実ちゃんのこの日の一片の瞬間を呼び覚ます鍵になりますように。ムフフ♪」


ビビちゃんさんは眩しく笑った。


「びびちゃ〜ん、交換出来たよ〜。あ〜!だから伊奈実ちゃんは〜」

「楓くんのものでしょーぉ?」

「…ビビちゃんっ!さすがわかってるね〜」


「当然じゃないー。じゃー二人ともモデルしてくれて本当にありがとう!

色々決まったらまた連絡するわねーっ!」


そう言ってビビちゃんさんは足軽に私たちと別れた。

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