37:撮影開始よー!
「おいしいね〜伊奈実ちゃん」
「…」
確かにとってもおいしい。
このイチゴ大福。
一面桜の場所から離れて、そこからほど近い和菓子屋さんに居ます。
暖かな気候なのでお店の外の椅子に座っておいしさ堪能中。
ここも桜が古風な建物の並ぶ道に沿って咲いている。
これはこれで、奇麗だ。
「まだ怒ってるの〜?」
「…」
そうに決まってる。
勝手に写メ撮っておまけに待ち受けとか冗談じゃない。
上手く説得してごらんよ〜とか言って消してくれないし…
「あ〜粉ついてるよ〜」
「じ、自分で取れますから!」
「ははは〜喋ってくれた〜。いいからじっとしてて〜」
十七にもなって口を拭かれるなんて…。
やっぱり先生、私の事完全に小ちゃい子扱いしてるな…。
「は〜い。綺麗になったよ〜チュっ」
「ちょ…何してくれるんだ!この変たっ…」
「すみません。ちょっといいかしらーん?」
怒っている途中で話掛けられて、その方向を見た。
ん?この人…???
「んまーぁ!!!あなた達近くで見るとさらにキレイねっ!」
「ははは〜ありがとうございます。どうかされたんですか〜?」
興奮気味の背の高いその人に先生はいつもの感じて話した。
「あららーん、アタシってば名乗らずにごめんなさいねー?
キレイなものが好きすぎてついーっ!
アタシこういう者ですーぅ!」
パッと先生と私に名刺が手渡された。
[写真家・倉上美々十(くらかみ びびと)]
「倉上さん美々十ってとってもインパクトのある名前ですね」
「んまーぁ!ありがとう美少女ちゃん♪
こういう商売は名前も大切な武器なのーっ。だから嬉しいわー!
アタシのことはビビちゃんって呼んでちょーだいっ!」
「わわっ」
ビビちゃんさんに抱きしめられた。
肩幅先生より広いなこの人。
「ちょっとビビちゃん〜!伊奈実ちゃんは僕のなんだから触らないでよね〜」
「あーん!!いいじゃないのーぉ!女同士なんだからー!」
「ビビちゃん見た目が完全に男じゃん〜!
通りすがりの人に一瞬でも伊奈実ちゃんがビビちゃんのだって思われるの嫌だからダメ〜!」
先生の駄々にビビちゃんさんは観念したみたいで私から離れた。
ゴツい靴が印象的な、ピンクのスキニーパンツに、薄い黄色の花柄Tシャツ、その上にワンポイントのついた緑のカーディガンを羽織って、カメラを首から下げている写真家さんはどうやらオカマさんだったみたいだ。
美々十って名前だけあってビビちゃんさんもイケメンさんだ。
「もーぉ!美少女…”伊奈実ちゃん”だったわねー?
あなたの彼氏イケメンで物腰柔らかいのに心が狭いわーーーっ!」
「せ…楓は彼氏じゃありません!」
「え〜?伊奈実ちゃん〜」
何で先生が悲しげな表情してるかさっぱりわからないけど、違うものは違う。
「あらー?そうなのー?アタシてっきり恋人だと思っていたけど…」
「ビビちゃんが好きなように思っていて良いよ〜。僕もそうしてるし〜」
「は?」
なんだそれ?
先生何言い出してるんだ。
「あらー?そーお?じゃー勝手にするわねー。
ところで楓くんと伊奈実ちゃんモデルしてくれないかしらー?」
「え?」
「何のモデルなの〜?返事は話聞いてから〜」
「あらー!楓くん意外と話通じるのねー。心狭いとか言ってごめんなさいねー?」
「ははは〜いいよ〜。女の子にきつい事言われ慣れてるし〜」
「あーん!良い男じゃなーい!
伊奈実ちゃん!あなた楓くんから離れちゃだめよーっ!!!」
肩をつかまれて前後にカクカク振られた。
の、脳がゆれる。
先生の発言も変だけど、ビビちゃんさんの言ってる事も意味不明だ。
こんなので会話が成り立ってる二人って…
「あの…話がずれてます」
「んまーぁ!照れよ!照れてるわー!
でもそうね。このままじゃ陽が暮れちゃうものねー」
陽が暮れるほど話続ける気だったの…?
「二人にはこの桜並木の道を歩いて欲しいのよー。
その後ろ姿の写真が撮りたくてねー。
アタシ普段は人物あまり撮らないんだけどあなた達を見てピンと来ちゃったのよー!
どうかしらー?」
「僕は顔がハッキリ写らないんだったら良いよ〜」
「私も後ろ姿だけなら問題ありませんけど」
「二人ともありがとー!嬉しいわー!!じゃ、早速だけどお願いねー!」
「伊奈実ちゃん行こうか〜」
「はい」
「あ、ちょっと楓くん良いかしらー?」
そう言ってビビちゃんさんは先生に何かを耳打ちした。
「ははは〜。期待してるね〜」
「さー!撮影開始よー!」
ビビちゃんさんの明るい声が響いた。




