36:強引にgoing
「ほら〜伊奈実ちゃん。綺麗だよね~ニホンの心だよね~」
「とても綺麗ですね」
青空に白の花の群れがなんとも映える。
ハラリハラリ風に舞ながら、地面をも白に変えようとする。
桜ってなんでこんなに綺麗なんだろう。
「ところで、先…楓。ここどこなんですか?」
「ん~とね~。とりあえず県境を二つ越えたところかな〜」
な、なんという雑な説明。
「ここ僕のお気に入りの場所なんだ〜。桜の季節はいつもここに来るんだよ〜」
「こんなに奇麗なのに人居ませんもんね」
「でしょ〜?」
聞こえるのは鳥の鳴き声と、風にそよぐ草花の音。
ただそれだけで満たされた桜を中心とした世界。
っていうか…
「先生の用事ってここですか?」
「うんそうだよ〜。伊奈実ちゃんと来たかったんだよね〜」
「出かける時と違うこと言ってますよ」
「そうだっけ〜?」
とぼけたな…
___二時間半前___
「伊奈実ちゃん僕用事あって出かけるんだけど〜、僕のこと説得したかったらついておいでよ〜」
朝ご飯の後に先生は急にそんなことを言い出した。
「説得はしたいですけど用事の邪魔になりませんか?」
「うんん〜全然大丈夫だよ〜」
サクラさんとリーヤさんはもう二人で出かけた後で、家には先生と私しかいない。
つまり先生が出て行ってしまったら一人お屋敷に残ることになる。
佐藤さんをはじめ、皆さん親切にしてくれるけどそんな勇気はない。
「ご、ご一緒させていただきます」
「わ〜い!じゃ〜こっちおいで〜」
「え、あの…」
勢いにまかせて手を引かれて来たのは昨日も来た黄色の天井の部屋だった。
「まー!九谷様こんなに早く再びお会い出来るとは、田中は嬉しいです!」
田中さんが部屋の奥から来てくれた。
あれ?昨日となんか顔が…眼の下クマがでてる。どうしたんだろう?
「私もお会い出来るなんて思ってなかったです。昨日の猫のとっても着心地よかったです」
「ありがとうございます。冥利につきますわ」
「田中〜、僕と伊奈実ちゃんの服見立てて欲しいんだけど〜」
「かしこまりました楓様。ピッタリのものがございますわ!
さあさ、こちらへどうぞ」
二人ともそれぞれのフィッティングルームへ押し込められた。
「九谷様はこちらでございます」
「わ、かわいい…」
「ふふっ九谷様のイメージですから」
「え?」
聞き返す前に服を手渡されサッとカーテンを閉められてしまった。
しかし、この服とってもかわいい。
こんな素敵な服着てもいいのだろうか?
「伊奈実ちゃん〜?」
「は、はい!今行きます!」
迷っている間に先生はもう着替えたみたい。
早すぎでしょ。
急いで着替えてカーテンを開けた。
「え?」
これって…
「わぁ〜っ!伊奈実ちゃんワンピース姿もかわいい〜!!」
「ちょ、楓離してください!」
「だって〜!」
「楓様、九谷様お二人揃って鏡の前へどうぞ〜」
田中さんはこの状況を楽しそうに見つめて、マイペースに鏡へと誘う。
「わ〜!よく見ると僕らお揃いだね〜」
「…」
よく見れば、よく見ればの話だ。
手首の部分が白い青のストライプシャツに、ネイビーのベストを羽織って、パンツは細身のベージュ色。
それが先生。
一方私は、肩から胃の辺りまでV字にレース編みされた花のついた、ミント色のチュニックワンピース。
袖はパフスリーブで手首の部分に、ミント地に青のストライプが入っている。
それにミニ丈のシフォンプリーツがかわいい、ベージュのキュロットパンツが合わせてある。
でも隣に居たら絶対ばれる。
ゆるいペアルックってやつだろうか?…うぅ。
「伊奈実ちゃん背中見た〜?羽が生えてるよ〜」
「え?」
先生が指さした部分を見ようと、反転して背中を鏡に映した。
「すごい…」
ちょうど肩甲骨のあたりに二枚の白い羽があった。
「これってプリントですか?」
「いいえ。その部分だけ色を変えました。やはり九谷様によくお似合いですわ!」
「うん!似合ってるよ〜。伊奈実ちゃんは本物の天使だ〜!!」
「いえ。私まだ生きてますから」
「わ〜ん!僕に冷たい天使だよ〜!でもかわいい!さすが田中のデザインだよね〜」
「ありがとうございます楓様」
「これ…田中さんのデザインなんですか?」
「はい。私が一昨日の夜に、お会いして湧いたイメージをそのまま服にしました」
ぱっと机をかき分けて今着ている服のデザイン画を見せてくれた。
一昨日の夜ってっことは…
「大体一日くらいで二人分の服作ったってことですか?」
「はい。お二人の並んだ姿を想像するだけで、この田中楽しくてついつい手が止まりませんでしたの」
田中さん凄い。凄すぎるよ!
でも眼の下が黒いよ。もう休んだ方が…
「田中ありがとうね〜。でももう寝なよ〜?眼の下真っ黒だよ〜」
「お気遣いありがとうございます。お二人の姿を脳裏に焼き付けたので、この田中満足で、すぅ…」
「え、田中さん?!」
ボフンと音を立ててソファーに田中さんが倒れ込んだ。
「あらら〜。伊奈実ちゃん大丈夫だよ〜、いつものことだからね〜」
そう言ってソファーの下から掛け布団を先生が取り出して、田中さんに掛けた。
「いつもって…」
「ん〜?心は満足したけど体が燃料切れってとこかな〜。田中は目的が出来たら自分が満足するまで動き続けるタイプなんだよ〜」
「そうなんですか…」
「うん。だから大丈夫〜。そろそろ僕らは行こうか〜。佐藤〜?」
先生の呼びかけに佐藤さんは素早くやって来た。
「田中がいつもの満足睡眠に入ったから目覚めたら美味しいものあげてね〜」
「はい、楓様。かしこまりました」
「じゃ〜僕ら行ってくるから〜」
「いってらっしゃいませ」
______________
で、今がある。
「伊奈実ちゃん」
「はい?」
先生に呼ばれて振り向いた瞬間、機械音と一緒に何かが光った。
「ははは〜♪伊奈実ちゃん激写〜!保存保存〜」
先生は手に携帯を持っていた。
写メ撮りやがったな…?
「保存とかやめてください!消してください!」
「えぇ〜?こんなにかわいいのに〜」
先生の携帯の画面がこちらに向けられた。
「待ち受けにするのやめろ!変態!」




