33:請うところ、惨状を残す
「おかえりなさいませ楓様。いらっしゃいませ九谷様」
先生のお屋敷に入ると佐藤さんが出迎えてくれた。
「すみません。今日もお世話になります」
なんか昨日の今日で舞い戻って来た感が否めなくてなんかこう…あやまりたくなる。
「九谷様でしたらこの佐藤、いつでもお出迎えさせていただきます。
そう固くならず、何なりとお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます」
年期の刻まれた穏やかな笑顔で言ってくれる佐藤さんはなんかホッとするなー。
さすが執事。…ドラマでしか知らないけど。
「そうだよ〜伊奈実ちゃん。第二の自分の家だと思えば良いよ〜」
「いえ…さすがに自分の家とは思えません」
こんな、すんごい広いお屋敷を自分の家なんて思えない。
私の家はもっとずっと狭い。
その狭いのが落ち着く庶民なのだ。
「えぇ〜!?なんで佐藤は良くって僕の言葉は受け入れてくれないの〜?」
「それはカエデが私に黙ってキューちゃんを独り占めするからよ〜!!!」
「ふごっ!」
何か大きいものが当って、先生が呻きながら膝から崩れた。
飛んで来た先を見る間もなくぎゅっと抱きしめられた。
この柔らかな感じは…
「サクラさん?!」
「そ〜よ〜!キューちゃん〜!
今日来てくれるって佐藤に聞いたのに居なかったからカエデに電話したよ〜。
よく来てくれたわね〜おかえり〜」
「た、ただいま…です?」
あれ?間違ったか?
サクラさんが口を開けてプルプルしてる…
「きゃ〜!かわいいわ〜!!!妹!私の妹にする〜っ!」
「イタタ…勝手に僕の伊奈実ちゃんをサクラの妹にしないでよね〜!」
「わわわっ!」
グンとサクラさんから引き離されて先生に背中から抱きしめられていた。
いや、これ”締め”ってやつかも。
っていうか…
「痛いです。はなしてくださいっ」
「あぁぁ!ごめんね〜伊奈実ちゃん。つい…」
ギュッとしていたのがそっとふんわりになった。
それは良いけど、”ごめんね〜”あたりから私の肩に額付けて謝らないで欲しい。
「”つい”でも”ついで”でもいいんで放してください」
「嫌だ〜。伊奈実ちゃんは僕のだもん〜」
「私はミナミさん…母の所有下にありますけど?」
所有下っていうか保護者的なアレだよアレ。
「ん〜そう言う事じゃないけどそれも合ってるね〜。でも僕のだも〜ん!」
なんか先生と論点違う?
この人の中で私はおもちゃかぬいぐるみレベルな感じなのか?
そんなこと今はいいや。
とりあえず誰かこの変態を私から引き剥がしてくれーーー!
「おいカエデ。キューちゃん困ってるから彼女からそろそろ離れろ」
「リーヤさん!」
神!
私の救いの神が扉の向こうから現れた!
「リーヤ来てたの〜?」
「あぁ。今日はクライアントの所から直帰だから早く来れたんだよっと」
語尾と一緒に先生の首根っこが持ち上げられて私は解放された。
「キューちゃんおかえり。カエデのバカが力入れてたけど腕とか大丈夫?」
「はい。多分大丈夫です。えっと…ただいまです」
ここ先生の家だから私もリーヤさんもおかえりとかただいまとか色々違う気がするけど何かかゆい。
「ん。痣になってたら俺に言って。こいつ殴っとくからな」
そう言って頭を撫でられた。
なんていうのこういうの?
この困ったとき頼れる感じ……お兄ちゃん?
リーヤさんみたいなお兄さん欲しかったなー。
「サクラちゃんも大丈夫?」
「リーヤ〜!カエデが私からキューちゃん引き離したのよ〜っ?」
「そうかー。今度キューちゃんとサクラちゃんと俺の三人で出かけようなー」
「あらそうね〜!その手があったわね〜!キューちゃん今度お出かけしましょうね〜!」
「はい」
「ずるいよ〜僕も絶対ついて行くんだから〜!」
「おまえは要らん!カエデ、まずはキューちゃんにちゃんと許しを請え!」
「伊奈実ちゃん、体痛く無い?ゴメンね。この先、君を二度と傷付けない。大切に守るから…許してくれますか?」
すっと先生が片膝付いて、私の左手を取って額をそれに付けた。
え?何これ??
私は純日本人ですよ?こんなことされるくらいなら土下座の方が余程わかりやすい…
いやいや、そんなことより、先生に下から見上げられるなんて居たたまれなさMaxなんですけど…
どうしたらいいのかわからなくてサクラさんとリーヤさんに助けてな視線を向けた。
「キューちゃん、思うがまま答えればいいよ」
「そうよ〜」
思うがままか…
「せんせ…楓?痛かったのは確かですけどそこまでしなくてもいいですよ。
っていうかさっき謝っていただいたのでこれ以上は…」
「でもっ!」
ここで引き下がってくれないー!?
め、めんどくせー!
「わかりました。…許すっ!!!」
シンとした空間に私の声が響いた。
「ありがとう伊奈実ちゃん」
チュッ
い、今手の甲にキス…しやがった…
「ぎゃーーーーーーーーーーーーっ!」
「うわぁ〜っ!」
「うん…とりあえず夕飯食べようか」
「ふふふ、そうね〜。さ〜キューちゃん行きましょ〜」
サクラさんに背を押され私は進み出した。
この惨状を残していいのか?
っていうかとりあえず…
「グーパンチしてご、ごめんなさーいぃぃぃぃぃ!!!」




