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ストレート  作者: 業平アキラ
第三章
28/63

28:話題と噂と嵐の種

「ぷはーっ!アルファベット飛んでけこのやろ〜!」

炭酸ジュースを一気飲みして頭のくしゃくしゃしたものを全てを吹っ飛ばすようにカオが手を伸ばして空を仰ぐ。


さっき四限が終わって購買横の学食スペースでランチ中だ。


「さようならぁー。…これでまたカオは政経赤点決定だねぇ」

「うわっ、花。嫌な予言するなよ」

「当ったら夏休み前半消えちゃうね」


カオが送り出した見えないモノに手を振って楽しそうに送り出す花の隣でそれを眺めてたらふとそんな気がした。


ちなみにカオが空へ送り出したのは時事経済用語の略称のアルファベット達だ。


中学の頃にもGDPとかGNPとか習ったけど、今日は確かに比じゃない程に沢山のアルファベット達が駆け足で通り過ぎていっただけじゃなく、正式名称とそれがどういう意味でできているか、何ができるのかを一気に解説された。


ただでさえカオは政経がとことん苦手だ。


「伊奈実、それ追い打ち?!さっきの吾妻(あずま)みたい!」

「このままだと予言当りそうだから今のうちに飛ばしたやつ呼び戻したら良いんじゃない?」

「そうか!戻って来〜い!」


また空に手を伸ばして何かを掴んで頭に戻しはじめた。

カオの言う”吾妻”はその政経の教科担当の先生だ。


時事経済用語解説の後に、

「今回は学年始まりだからこのくらいにしておいてやる。今日中に全部覚えろ」

としれっと言っていたことをカオは根に持っているみたいだ。


「なんか無理っぽいね」

「うえぇぇ!?」

「二人とも漫才にしてはおそろしくレベルが低いからそろそろやめたらぁ?」

「…………」

「…………」

カオと私の前に空しい鐘が一つ鳴った。




「そんなことよりさぁ、体育館での発表で今日の話題、持ち切りだよねぇ」


周りの音に耳を傾けると大抵、盛り上がっているところから聞こえる話は一つ。

教室でも持ち切りだったな。


「うん。あんなに盛り上がってたしね」


「なんてったってTOKARISHINだもんなー。環にぃやるな。目的はアレだけど」


あの場に居なくてもカオは環南先輩の目的が十分わかっているようだ。

さすが、幼なじみ。



「それに次いでもう一個の話題でも憶測と噂で大盛り上がりだよぉ!」


「あー、あれか。ホント誰なんだろうなー。でもカオどっかで聞いたことある気がする…」


「何?その話題」


「伊奈実知らない?それがさ…ん?って、まさか!」


ガタ!っと椅子を揺らしてカオがいきなり立ち上がった。


「カオようやく気付いたのぉ?おーそーいーぃ。ホント鈍感だよねぇ」


カロリー低めのゼリーをつついていたスプーンをカオに向けてため息まじりで声をあげた。


「ばっ!なんですぐに教えてくれないんだよ!」

「普通、気付くでしょぉ?週五は必ず聞いてるしぃ、気付かない方に問題あると思うんだけどぉ」

「でも、マイク効果でちょっと違ったからそう易々と分かるもんでもない!」

「まぁそれはあるよねぇ。だからこんなに深い謎になってるんだろうしぃ」


「あの?花、カオ。なんの話題?」


話がようやく途切れたから聞いてみた。

正直、なんの話か全くわからない。


「あぁ。TOKARISHINの次に大きな話題になってるのぉ。

ある意味、芸能人より身近で謎が大きい分、こっちの方を知りたいって人も多いみたいだよぉ♪

募集の内容を説明した落ち着いたアルト美声の謎の"捕まったピンチヒッター"」


んんんんんんんんんんんんんんん?!


「ゲッホ!ゲッホ!ゲッホ!ケホッ、ケホッ、ケホッ!」


「わあああ!伊奈実大丈夫か?」

「あららぁー。サイダーは気管と鼻に入ったら痛いよねぇ」



痛い。本当に痛い。その話題も私の呼吸器官も。

なんでそんなことになってる。


それから、知りたいのは。


「ケホッ…だ、大丈夫。___それより花、噂の元を握ったってこのこと?」


「うん、そうだよぉ。予感的中ぅ!」

にんまり笑って花が手で銃のカタチを作って一発打った。


「花…楽しんでるでしょ」


「伊奈実、聞くまでもないぞ。間違いなくそうだ。…それから……ドンマイ」

カオが遠くを見ながらそうつぶやいた。


「え?どういうこ…と」

肩をぽんぽんされ振り返ると、花よりも楽しそうな表情の人。


「楽しそうな噂を俺がほっとくわけないってことだ、九谷ちゃん」


「環南先輩」

「こういうことだ、伊奈実」


なるほど。確かにドンマイにつながるね、カオ。

嫌な予感しかしない。


「でぇ、環ちゃん。この噂をどう使うのぉ?伊奈実んにはなるべく負担かけちゃダメだからねぇ」

「わかってるって。で、九谷ちゃん俺から提案なんだけど」

「なんですか?」


「この噂の正体が九谷ちゃんだってバレないように、こっちで情報操作する代わりと言っちゃうと人聞き悪いけど…青野祭でその声使ってちょっと活躍してくれるよな?」


「先輩、”人聞き悪い”どころじゃなく脅しに聞こえるのは私だけでしょうか?」

”よな?”って完全に同意しか求めていないでしょ…。


「受け取り方次第でどうにでもなる、なる」

「いや、完璧に脅しだろ!」

白い歯を見せ、サムズアップを決める先輩にカオのチョップが飛んだ。


「でもさぁ、伊奈実ん。直接となりに居たのが環ちゃんだってのは全校生徒知ってる訳だしぃ。

環ちゃんに情報操作してもらったほうが、バレるなんて特大の嵐は来ないし憶測の雨露も来なくて快適に過ごせるって考えたらお得じゃないかなぁ?」


「う、確かに…」

先輩がコントロールするならばその危険性の低さは太鼓判を押せるだろう。



「伊奈実、花の言ってることは環にぃの提案とほぼおんなじ事だし、花の場合は引き受けるリスクをひた隠しにしてるからタチが悪いぞ」


「カーオちょっと黙ってような?お口にチャック」

「カオ大丈夫ぅ?熱あるぅ?」

「えぇい!お前らにちいさい頃からそうやって言いくるめられて来たから、嫌だという程体験済みな流れが目の前にあって、友達がその犠牲になる前に止めてるだけだろが!」


「「ちっ、学びやがって」」


「ひでぇ!うわーん伊奈実っ」

カオがこちらへ泣きついてきた。

さんざんな言われようでも、きちんと戦って凄いよ、カオ。ありがとう。

それから___

「カオはこうやって鍛えられてきたんだね」


「「「この状況でそこに注目?!」」」


三人の声がみごとにシンクロした。

さすが幼なじみ。


「それから、環南先輩の提案受けます。いざとなった時には自分でどうにか出来そうな気がしないので、お任せします。お願いします」

「お。いいのかい?九谷ちゃん」

「いいのか伊奈実?」

「はい。カオもありがとうね」

「情報操作なら私も手伝うからぁ♪楽しみだなぁー」

「よし、決まりだな!俺にどんと任せとけ!」

「先輩と花にあんまりにも楽しそうにされるとちょっと不安です」

「わっは!九谷ちゃんひでぇー!」


私たちの笑い声が学食スペースに響いた。


この時はこの噂も狭い学校(せかい)の小さな出来事としてそんなに大した事無いとのんきに考えていて、こんな未来を予想だにしなかった。




私に嵐を巻き起こす種になるなんて。

余談コーナー。

環南は花を花公とカオをカーオと呼んでいます。

普通の呼び方がちいさい頃になんだか恥ずかしくて呼べなかった名残です。

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