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ストレート  作者: 業平アキラ
第二章
24/63

24:言いません、絶対

「で、カエデはご機嫌なのね〜」

「ははは〜そうだよ〜」

「……」

時速五十キロで流れる高台の奇麗な景色を車窓から眺める。

遠くで海の碧と空の青が混ざっている。振り返れば、新緑の中に珠洲家の大きな屋敷。


屋敷からずいぶん離れて遠いのに、いや遠いからこそ大きさがよくわかる。私こんなお家でお世話になったのか。


朝ご飯も伊藤さんが作ってくれた、おいしい和食だった。

伊藤さんは和食が専門分野だったらしく、昨日感じた荘厳な和の雰囲気は磨き抜かれた職人の持ち物だった。



今、先生とサクラさんはさっきの私の目覚めの絶叫話で盛り上がっている。

あのお家は全部屋防音が効いてるらしく、私の叫びはあの部屋に居た先生にしか聞こえないそうだ。

朝ご飯の席で会ったサクラさんに謝ったらそう答えられて、安心したと同時に朝から先生と何かあったという墓穴を掘り下げてしまった自分にへこんだ。

まぁ、何も言わなくても壮絶に破顔した先生と般若のような顔をしていた私を見ればわかるわってサクラさんは言った。


「キューちゃんは〜…あら海見て機嫌が直ったみたいよ?カエデ〜」

「ホント〜?伊奈実ちゃん」

「……」


バックミラー越しに送られた視線から黙って目を逸らした。

耳噛まれて許せるか。

私の怒りはまだ治まりそうに無い。


「わ〜サクラの嘘つき〜。伊奈実ちゃんまだ怒ってるよ〜」

「あら〜でもさっきまでみたいに般若顔じゃないわよ〜?」

「それはそうだけど〜。サクラ、僕が伊奈実ちゃんに怒られてるの楽しんでない〜?」

「ふふふ〜当たり前よ〜。かわいいキューちゃんに何してくれたのよって言いたい所を見守ってるのよ〜?」

「それもう言ってるよ〜」

「それぐらいの罰は当然よ〜。ね〜?キューちゃん」

「そうですね」

「ま〜!かわいい〜」

「ちょっとサクラ〜、伊奈実ちゃんに抱きつくとかずるいよ〜」

ハンドルを握っている先生は運転席でじたばたしている。


後部座席で私の隣にいるサクラさんはそんな先生を放置して私に話しかけてくれる。

「キューちゃんは今日どんな授業なのかしら〜?」

「えっと、今日は…」


新学年の学期が始まって間もない今は授業に挟まって色々と小さな行事がある。

頭の中でこの前、担任に貰った予定の書かれたプリントを思い出す。

今日は四月十三日だから…


「一、二限が新入生の歓迎会で、三限目が古文、四限目が政経で、五限目が数Ⅱで、ろ…六限目が」

「あら、キューちゃん?どうしたの〜?」

言葉が止まった私をサクラさんは心配そうに覗いてくれた。

この間違いじゃないはずの記憶が間違いであって欲しい。


「六限目は保健室で身体測定だよ〜」

先生が楽しそうな声で答えた。


う、やっぱり間違いじゃなかった…


「…です」

「あら〜今日は教科の授業が少ないのね〜」

「はい。学年の始まりですから色々と行事があって」

「そうなのね〜。今度お店に来た時に歓迎会のお話聞かせてね〜」

「はい。来週の金曜日に行きます」

「ふふふ〜楽しみに待ってるわね〜。あ、その時にこの前渡せなかったアレを貰ってちょうだいね〜」

「良いんですか?」

「もちろんよ〜!キューちゃんの為に用意したのよ〜」

「ありがとうございます」

「やっと笑顔になってくれたわ〜!キューちゃんは笑顔が一番ね〜」

ギュッとサクラさんに抱きしめられた。


そうか。サクラさん、ずっとムスッとしていた私を気遣ってくれたのか。

私は一人っ子だけど、お姉さんってサクラさんみたいな人なのかな。

心の中がほんのり暖かくなった。


「はいはいサクラそこまでだよ〜」

「あら〜せっかくキューちゃんとおしゃべりしてたのにもう着いちゃったのね〜」


車が停まって、外を見るとサクラさんのお店の目の前だった。


「カエデ送ってくれてありがと。キューちゃんお店だけじゃなくてまた家にも遊びにきてね〜」

サクラさんが車を優雅に降りた。


「はい。ありがとうございます。サクラさん、いってらっしゃい」


「……」

「……まぁ〜!」


なんだか場の空気がおかしい。

まずいこと言ったのか私?

「あの?」


「カエデ、ちょっと耳貸して」

サクラさんは運転席に回って先生の耳元でこそっと何かを喋ってから再び私の方へ向いてウィンクした。


「ふふふ〜♪今日は一日いつもより頑張れそうだわ〜。いってきます」


サクラさんはそう言いながら笑顔で私の頭を撫でてお店へ足を進めて行った。

なんともなかったみたいで安心した。

先生はさっきまでへこんでいたのに何故か嬉しそうに鼻歌を歌いながら車を発進させた。



  *



午前七時に車は学校の職員駐車場に着いた。

ちょっと早いけど、先生に乗せてもらってるからこれくらいで丁度いいかもしれない。

エンジンを止めて、スッと車を降りた先生は何故か後部座席に乗ってきた。

「あの?」


「伊奈実ちゃん僕にも言って〜?」


「???」

私の隣に座っている先生が言ってる意味が全く解らない。

「さっき最後にサクラに言ったやつ〜僕にも言って〜」

さっき?

「ありがとうございます」

「違うよ〜その次〜」

その次?

「いってらっしゃい?」

「そうそれだよ〜。さっきサクラにしたみたいに笑顔で言って〜?」


今、なんでそんなことリクエストされてるんだ私。

っていうか


「人の耳噛む人にそんなこと言いません、絶対」


「えぇ〜!?」


なんか面倒くさいからここはとっとと退散だ。

「昨日からお世話になりました。わざわざ車で送って頂いてありがとうございました。失礼します」


車から降りてドアを閉めながらお礼を言った。

もちろん無表情で。

変態のリクエストに応えてたまるか。

そんな気持ちで今日の学校での一歩を踏み出した。


「だってそれでも羨ましいんだもん〜」


後ろの車からそんな声が聞こえたけど、何が「それでも」かさっぱり解らない。

昇降口へ私はずんずん進んで行く。


さて、いつもの学校だ。

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