21:凄いのにバカっぽい
「んま、マーライオン?!」
湯煙のカーテンの向こうに海も国境も越えたシンガポールの観光シンボルが居る。
頭部はライオン、体は魚。間違いなく小さな探偵の替え文句で覚えたそいつだ。
「何分の一かのレプリカ…って言うよりそっくりさんよ〜キューちゃん」
「……凄すぎです」
いくら広いからって風呂の中にこんな物を置こうなんてこの家ホント意味がわからない…
ライオンの口からお湯が出てる…日本に居ても似たようなもの見れるんだ。
「ふふふ〜変よね〜。これおじい様の趣味だから仕方が無いのよ〜。
私は銭湯みたいな富士山の絵が描かれた壁が良かったのに頑として譲ってくれなかったの〜」
「そうなんですか…」
カポーーーーン。
そんじょそこらの銭湯なんかよりも間違いなく広いこの風呂場に富士山に松の木とかの絵って想像したら頭の中で風呂桶の鳴る音がした。
スケールが私のアパートと感覚違いすぎてもうついていけない。
サクラさんに一緒にお風呂に入ろうって、ここに連れて来られたけどタイルとかカラフルで異国情緒あふれ過ぎ…風呂ってなんだっけ。
*
「それにしてもキューちゃんの髪、本当真っ直ぐさらさらで綺麗よね〜うらやましいわ〜」
「真っ直ぐすぎて厄介ですよ」
サクラさんに続いて湯船に浸かりながらタオルで髪をまとめた頭を指して答えた。
「あら、どうして〜?」
「髪、結べないんです。動いてるとすぐに解けちゃって…。中学の頃は校則で肩より長いのはまとめなくちゃいけなくて。面倒だったんで切ろうと思ったんですけどミナミさん…母になぜか止められて三年間大変だったんです」
ショートに切らなかった髪は今、胸の下辺りまである。
「日本の中学はそんなルールあるのね〜」
そうか。サクラさん学生生活は全部外国って言ってたな。
「はい。学校によって色々あるみたいですけど。
サクラさんと珠洲先生はどんな学生さんだったんですか?」
「私は高校まではフランスで、大学はアメリカに行ったの〜。
中身は学生の頃からずっと自由を貫いてこんな感じよ〜。
カエデのことはね〜…日本で言う小学校の途中までしか知らないのよ〜」
「え?学校一緒だったんですよね?」
「そうよ〜」
じゃあ、考えられるのは…
「まさか珠洲先生、学校さぼって留年したんですか?」
「ふふふふっ…ふはははははははは〜ひ〜苦しいわ〜〜」
バシバシ湯船を叩いてサクラさんが爆笑し始めた。
隣から水がめちゃめちゃとんでくるんですけど…
「あの、サクラさん?」
「ふふふ、ごめんなさいキューちゃん。カエデも学校にはさぼらず行ってたわよ〜」
「なら、どうして知らないんですか?」
「日本には無いけど留年の逆なのよ〜」
「逆、ですか?」
「そうよ〜。上にぽぽ〜んって飛んでいったの〜」
サクラさんはそう言って天を指さして、両手をぱたぱたさせた。
上に…飛ぶ?ってまさか
「飛び級ってことですか?」
そう、とサクラさんは笑った。
「カエデはね〜、ぽんぽん飛び級しちゃって気づいたら高校の課程もクリアして、十二歳の頃にはアメリカの大学に行っちゃったの〜。
うち、夏休みはここで過ごす決まりでね〜、そういう時にしか一緒に過ごせなかったけど宿題教えてくれたわ〜。
それから十五で卒業しちゃってね〜、暇だからって三年くらいおじい様の会社手伝っていたんだけど、飽きて丁度同じ年の子達が大学行く年になったからって日本の大学で友達作りたいって入ったの〜」
なんかすごい話を聞いてしまったぞ、私。
でも”友達作りたい”って小学一年生になる子が歌うような軽いノリで二回目の大学に行くって、
なんだろう…頭良いはずなのに、凄いはずなのに…すごくバカっぽく聞こえる。
「ふふふっ、すごいのに変でしょ〜?」
「はい……っ、くくっははは」
「まぁ!キューちゃん笑うとさらにかわいいわ〜!!ぎゅ〜っ」
やっぱりサクラさんもそう思うんだなって思って笑ったらまた抱きしめられた。
外国で育つとこうなるのかな?
「サクラさんも先生もこうやって抱きしめるの習慣なんですか?」
「あら〜、カエデもキューちゃんによくこうやるの〜?」
「はい。先生のはちょっと…鬱陶しいです」
「ふふふ、そうなの〜?まぁ、習慣というか私たちの癖みたいなものかしらね〜」
「癖、ですか?」
「そうよ〜。カエデとはあまり一緒に居られなかったけど、私たちが双子らしい部分の一つかしら〜」
「はあ…」
「ふふふ〜、カエデも前途多難ね〜。さ、そろそろ出ましょうか〜」
「はい」
風呂から出たサクラさんは一人で何か納得したみたいで、楽しそうにしていた。
珠洲家のはそっくりさんです。
レプリカは許可とか必要みたいです。
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