19:黒猫は唖然と
「ん〜、これかな〜?」
「あ、あの」
「こっちもかわいいよね〜」
「だから…」
「やっぱりこっちかな〜」
「どうして…」
ただ今、黄色の間とやらに居ます。
天井が山吹色っぽい黄色だから黄色の間なのか知らないけど、とにかく黄色と言えるのは天井だけ。
さっきの先生の部屋も広かったけど、ここはさらに広い。
で、ここは何やら衣装部屋?のようで、たくさんある服の中から先生がなぜか私の着替えを選んでいる。
この意味の分からない状況についてけない。
「田中〜どう思う〜?」
「楓様、こちらなどいかがですか?九谷様にお似合いだと思いますわ」
「意外なの勧めてくるね〜」
「はい。見た目から湧いてくるイマジネーションがこれだ!と申しております」
「そっか〜それは間違いないね〜。
はい、伊奈実ちゃんこれに着替えてもらえる?」
「え…」
何でこれを…
「まぁ…お気に召しませんでしたか?」
ぐいぐい私の目の前に泣きそうな顔で迫って来た分厚い眼鏡のフリフリメイド服のこのお姉さんは
田中さんといって、先生のお家で服飾専門のメイドさんなんだそうだ。
さっきの佐藤さんで耐性は付いたけど、メイドでしかも服飾専門ってとこに驚いた。
あと、このぐいぐい感。
その辺の服屋のお姉さんでもここまでの人はなかなか居ないと思う。
「伊奈実ちゃん、田中のイマジネーションは本物だから着てみなよ〜」
「わ、分かりました」
イマジネーションとかよく分からないけど、田中さんに泣かれてはいたたまれない。
「では九谷様、こちらにどうぞ」
「は、はい」
フィッティングルームみたいな所に案内されて着替え始めた。
家の中にフィッティングルームってもう理解できない。
それに渡されたこの服を着こなせる気が全くしないけど、着ない訳にわいかない。
でも…………
「楓様の愛の力ですわね。」
「ははは〜そうかな〜?」
カーテンの向こうで先生と田中さんがよく聞こえなかったけど何か楽しそうに話していた。
「あの…着替えました」
カーテンの隙間から顔だけ出して二人を見た。
「あれ〜?出て来てくれないの〜?」
「九谷様?やはりお気に召されな…」
「違います!…違うんです」
田中さんが泣きそうになったから慌てて否定した。
「あの、私こういう感じの服着たこと無いんです。
だから…に…似合ってなくても笑わないでくれますか?」
先生と田中さんが顔を見合わせた。
「はい、約束いたします」
「うん。大丈夫だよ。伊奈実ちゃん出ておいで〜」
田中さんのハッキリした返事と
いつもより少しだけゆるさの抜けた先生の声を信じよう。
ていっ!
「……」
「……」
意を決してカーテンを開け、そろりと目を開けた。
でも二人が動かない。
約束は守ってくれたけど沈黙と視線が痛い。
う、やっぱり変なんだ…。
「……楓様。この田中、自画自賛してもよろしいでしょうか?」
「…うん。うん、うん、うん!!!すご〜くかわいいよ〜伊奈実ちゃん!」
「ぎゃっ!」
「あぁ〜逃げなくても〜」
うなずきながら近づいて来た先生に抱きつかれそうになったから慌ててカーテンを閉めて逃げた。
よし、先生の攻撃かわせるようになった。
しっかしこの服装、いかがなものかと思うんだけど。
鏡に映る自分を見て疑問しか湧かない。
足から頭までひとつなぎのドラム缶フォルムで前ボタンが胸の辺りから一列。
頭はフードを被れば三角の耳と目と鼻、ひげが愛らしい表情で付いている。
後ろを振り返れば、お尻から背中にかけてしっかり刺繍でしっぽが表現されてる。
そのしっぽの先端に近い首の後ろ部分から白い大きな幅のサテンの紐でりぼんが付いていて背後から見た時の可愛さを強調している。
でも可愛いだけじゃなくて、きちんと色々な動きの邪魔にならないようにポイントが置いてある。
こんな感じの服のもうちょっと簡素なやつを前に雑貨屋さんで見たことがある。
でもあれって…?
「あの、これってパジャマじゃ…?」
生まれた疑問を田中さんに答えて欲しくてフィッティングルームから出た。
「田中、どうなの〜?」
「そうですね。ホームウェアやきぐるみ、仮装といったジャンルになると思います」
「か、仮装…」
仮装するくらいなら制服着ればよかったんじゃないか?
今更浮かんだけど、これが正しい答えだ。
「黒猫伊奈実ちゃんかわいいから大丈夫だよ〜。
さ〜!ご飯食べにいこう〜!」
「ちょ、触んな!田中さん助けてください」
「まぁ!お二人仲がとってもよろしいんですね素敵でございます!
田中、新しい衣装のイメージが湧いて止まりませんわ!
九谷様、また今度このお部屋にお越しくださいませ」
私の助けてコールは見事にスルーされ、嬉しそうに手を振る田中さんを唖然と見つめながら
まるで本物の猫みたいに先生の肩に担ぎ上げられて部屋を後にした。




