13:お気に入り
「痛いよ〜サクラ。
お姉ちゃんって言っても母さんのお腹から出てくる二時間だけじゃないか〜。
それまで母さんのお腹で一緒だったんだし、大した差はないよね〜。
それから、育てられた覚えは無いよ〜?一緒に年とってるんだしさ。
伊奈実ちゃんもそう思わない?」
「へ?」
なぜここで私に振ってくるんだこの先生。やめてくれ。
「ま〜あ!それでも私はあなたのお姉ちゃんよ〜!だからこんなに嘆いているんじゃない!
ここはニホンよ〜!?あいさつでもキスとかしないの!
カエデあなた大学時代変なのに囲まれてたからニホンの常識まだわかってないでしょ〜!
キューちゃんにちゃんと許可を取ってからにしなさいっ!ね、キューちゃん?」
「……」
凄い勢いで迫られてる…ん?サクラさん…お説教の方向がなんか違うような??
「そっか〜…やっぱりニホンはダメだったのか〜。ありがとうサクラわかったよ、さすが僕の姉さん」
「ふふふ、わかればいいのよ〜。私こそ殴ってごめんね?カエデ〜」
「姉の愛の鞭だと思う事にするよ〜」
「あら、じゃあそう言う事で〜ふふっ」
なんだろこれ…ラブラブ姉弟コント?
「伊奈実ちゃんごめんね〜。これからはちゃんと君に許可もらうね〜」
「…許可なんてしません」
「え〜?そんな〜」
どうしよう。
予想していたお説教の展開と物凄く違う現実に辿り着いてしまってもう放心しそうだ私。
っていうか…
「サクラさんと先生は…双子?」
「そうよ〜。二卵性なの。あら、私フルネームで名乗って無かったわね〜私、珠洲桜(すず さくら)っていうの〜♪」
そうか。よく考えたら話し方とか似てるよこの二人。
ちょっと違うとすれば…
「目の色は微妙に違うんですね」
「うん。僕の方がちょっとフランス人のおじいちゃんの遺伝が強いんだ」
「ちょっとカエデ、私がキューちゃんと話してるの〜」
「僕も話したいんだもん。ずるいよサクラ〜」
「だ〜め、キューちゃんは私のなんだから〜」
「あ〜それさっきも言ってたけど間違いだから〜。伊奈実ちゃんは僕のお気に入りなんだからやめてよね〜」
私の頭上で睨み合いの火花が散ってるし…。
なんか小ちゃい子のおもちゃの取り合いってこんな感じじゃなかったっけ?
私はモノじゃないんだけど。
よし、話を変えよう。うん。
「あの、サクラさんはここに何を届けに来られたんですか?」
「いけない!忘れてたわ!これよ〜」
袋の中には見慣れた物が入っていた。
「コーヒーですか?」
「僕がサクラに頼んでいつも持って来てもらってるんだよ〜」
「そうよ〜。これ、キューちゃんがいつも買ってくれてるのと同じやつなのよ〜
後でカエデに淹れてもらうといいわ〜上手だから…ってあらこんな時間!
今日はこのままデートなの♪じゃあまたね〜bye〜」
サクラさんは時計を見るなり慌てて保健室から出て行った。
「カエデがお気に入りなんて言うの初めて聞いたわ〜。ふふふ、楽しみ♪」
誰もいない校舎の前で、彼女の一言は春の風にふわりとさらわれていった。




