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雨上がり、虹空を君に 後編 PART:3

「何か、あっという間だったな」

朝、卒業という喜ばしいこの日にふさわしい、澄んだ空気に包まれる。

制服に腕を通すのもこれが最後になる。

れおは感慨深げにいって、今までしているようでしていなかったネクタイを、キュッと締めた。

「今日ばっかりは、しっかりしないとね」

クスクス笑いながら、りおはれおの曲がったネクタイを直す。

入学式で新入生代表を務めたりおに代わり、卒業生代表はれおがやることになった。

りおと陸斗は早くに辞退していたので、自然とその役目はれおに回っていく。

そのため、先生方には随分と心配をかけてしまっているのは確かだ。

何度代わるよう頼まれたことか…。

一応原稿は、先生の確認済みのものなのだが、本番で何をするか知れないのだ。

先生たちの心配、不安は尽きない。

「陸斗は、準備できた?」

「あぁ。そろそろ行くか?」

「うん、行こう!」

再会の春は兄妹二人で登校した学園。

旅立ちの春は大切な幼なじみ三人で…。


「『卒業生の言葉』、三年C組真中れお君」

「はい」

冷静で真摯な声音が響く。

壇上へ立ち、在校生、保護者、来賓、先生へ一礼し、小さく息をつく。

「澄み渡る早春の晴れの日、僕たちはこの架音学園高等部を卒業します」

原稿の通りに読みだしたことに、先生たちは一様に安心したように表情を崩した。

が、その矢先…。

「はい、堅苦しいのはここまで!」

その瞬間ざわめき出したのは在校生や保護者だけではない。

ざわめきを通り越し、一大事とばかりに慌てふためく先生たちがいた。

そんな中、笑いに包まれる卒業生たちにニッと笑顔を向けて、れおは続けた。

「俺達は、初等部からほぼ変わらないメンバーで、今日まで十二年間過ごしてきた。その十二年の間に、大切な人と出会ったり、大切な人と別れたり、友人と喧嘩して傷つけ合ったり、仲直りして笑い合ったり、色んなことがあったと思う。俺はあったよ」

そういって優しく笑って見せた先にはりおや陸斗、梨月がいる。

それから再び話すれお。

「俺達が生きてきた…これから生きていく人生の中で、そういう日々は、ほんの一瞬の出来事かもしれない。それでも俺は忘れない。そのたくさんの思い出達が、今の俺に育ててくれたんだ。こんな風に穏やかな気持ちで笑って卒業できる。俺は、それが少し…いや、すごく誇らしいんだ。だから、本当に感謝してる。たくさんの思い出をくれた、この学園、先生方、友人、大好きな人、そして大切な家族……本当にありがとうございました!」

そういって深々と頭を下げたれおに、会場からは拍手が沸いた。

りおの瞳からは、一筋の涙が伝う。

それは決して悲しみの涙ではなく、暖かさと嬉しさにあふれたもの。

そうして、卒業という大きな節目の式典を終え、明日から入ることのない教室で、最後のHR、最後のクラス委員の仕事だ。

「それでは、皆さん!プラネタリウムまでの移動をお願いします!先生もですよ!」

りおの声に、クラスメートたちは次々と教室を出ていく。

れおと梨月がそれを先導して、全員が教室を出たことを確認してりおと陸斗も教室を出ると、そこにはまだ担任が残っていて、そっと何かをりおに差し出した。

「…?」

「一年間…じゃないよな。真中と山倉には三年間世話になっちまって。すげー、助かってたよ。これ…」

差し出されたのは、窓から入る春の陽ざしに照らされて淡く光る鍵。

「最後の鍵閉め、頼むな」

どこか柄にもなく、寂しげな笑みでいう担任に、りおはハッとして顔をあげる。

「そんな…!私は、とても楽しかったです!三年間、先生には大変良くしていただいて…、陸斗に…山倉君もたくさん助けてくれて…私、本当に…」

いつの間にか、ポロポロと再び溢れ出す涙。

「ありがとな、真中。山倉も、よくサポート…いや、よく守ってくれたな」

担任は優しくりおの頭を撫でて笑う。

共に過ごしてきた時間は、あまりにも短く儚い。

だからこそ、れおのいうとおり、忘れる事の出来ない大切な思い出となるのだろう。

「さーて、みんなが待ってるだろうから、そろそろ行くか!」

「はい!」

りおはぐっと涙をぬぐって、笑顔を作る。

まだ大きな仕事が残っているのに、泣いてなどいられない。

少し遅れて三人はプラネタリウムに到着し、中ではすでに準備が整っていた。

「あ、先生!こっち座ってよ!」

女の子の一人が手招きで呼ぶと、担任は応えてその席に座った。

りおと陸斗は、操作盤の前にスタンバイしているれおと梨月のもとに急ぐ。

そして、定位置につくと、りおはれおに頷いてみせる。

れおもそれに応えるように頷いて、マイクを取った。

「よし!じゃあ、始めるぞ!」

れおの呼びかけに、クラスメート達が返事をして、あたりは徐々に暗闇に包まれる。

やがてフワリフワリと、一つ二つ星々が輝きだす。

そこに、一枚の写真が映し出された。

「三年前の春、私達の入学は、今日のような春晴れの、桜が舞う暖かな日でした」

りおのナレーションが、優しく思い出を紡ぐ。

たくさんの笑顔があふれる写真は、その一つ一つが今の自分たちを育てたもの。

「3年C組として、みんなで一緒に過ごす時間は今日で終わってしまうけれど、いつの日かまた、このメンバー、誰一人欠けることなく、新たな思い出を作りましょう。大好きな先生、皆さんへ。これが最後のメッセージです」

そっとマイクの電源をきって、りおはそっと一息ついた。

涙をこらえて見守っていたクラスメートも、とうとう溢れ出してしまった。

これで、本当にクラス委員としての仕事は終わってしまった。

あとは、明かりがついて解散するのみ。

そのはずなのだが、つくはずの明かりが一向につかない。

操作パネルをいじるれおに視線を向けると、ニッと悪戯に笑って見せるだけ。

慌てて陸斗を見ると、大丈夫というように小さく頷かれた。

意味が分からず戸惑うのは梨月も一緒のようで、りおと二人は首をかしげる。

と、その時、再び星が輝きだし、それをバックに一つの映像が映し出された。

それは、教室の風景を映し出したもののようだ。

『はい!どうも!真中れおです!』

突然アップで現れたれおに、りおと梨月はギョッとする。

『えっと、びっくりした?これは、まぁ、一つのビデオレター的な!伝えたいことがある奴って、結構いてさ。というわけで、一番手は俺です!』

そんな風にはしゃぐ映像の中のれおに、梨月はそっと現実のれおをうかがう。

当のれおはどこか誇らしげに微笑んでいて、梨月も視線を映像に戻す。

『まず、川端梨月さんへ!梨月、俺を彼氏に選んでくれて、本当にありがとう。いつも迷惑かけてばっかで、傷つけたこともあって、それでも、いつも見守ってくれる梨月が、俺は本当に大好きです。面と向かってなかなかいえないから…って、これある意味面と向かってるのか?』

はにかんでいうれおに、その場にいる全員が笑う。

そしてそっと梨月はれおの手を握る。

この時の笑顔は、本当に幸せそうで、れおは珍しく照れたように頬を掻いた。

『とにかく、俺は今までも、これからも、ずっとずっと梨月のこと大好きだから!もう少したって、俺が外も内も一人前の大人になったら、ちゃんと伝えたいことがあるんだ。それは二人きりの時に…覚悟しとけよ?それから……りおへ』

突然自分の名前を呼ばれて、りおは首をかしげる。

自分にもメッセージがあるとは思っていなかった。

『りお、いつもいつもそばにいてくれて、ありがとう。なんていうか、生まれてからずっと一緒で、頼られてると思ったら、頼ってて、離れなきゃいけないのに、離れたくなくて、っていうか、離れるとか、俺無理だよ。…だって、りおのこと大好きだから。大切すぎて、失うなんて考えられないんだ』

情けなく表情を崩すれおに、りおの瞳からは一筋の涙がこぼれおちる。

離れられないのは、りおも同じこと。

大切で、大切すぎて、失うことが怖い。

いつでもそばで笑っていてほしい。

「…れお…」

『俺はさ、頼りない兄ちゃんだし、りおは弱いとこもカッコ悪いとこも全部知ってて、支えてくれた世界一大事な人だよ。りおはきっと、梨月が一番っていうよね。けどさ、違うよ。梨月も俺と同じ、りおが一番大切なんだよ。だから、お互いわかるんだ。家族とか恋人とかそんな名前のある関係じゃなくて、もっと別の、尊い存在だって。りお、これからもずっと一緒にいような。……そんじゃ、俺はこれくらいで!これ以上いうと、りお、泣いちゃうだろ?』

そういってれおはニッとはにかんで、手を振った。

すると、次のクラスメートに映像が切り替わる。

『え、つか、れおの後とか、俺やなんだけど!』

れおの友人が現れ、そう文句をいいながらも、戸惑いつつクラスメートの女の子の名前を呼ぶ。

そして、そっと微笑むと一言『好きだ』と告げた。

そんな風に、クラスメートのメッセージは次々とそれぞれの受取人へと送られていき、やがて…。

『…えっと、一応、俺で最後になります。山倉です』

恥ずかしいのか、単に不機嫌なのか、視線は違う方を向いている。

『一応じゃなくて、普通にお前が最後だよ!』

映像を撮っているのは、声からしてれおの様で、陸斗の表情が一瞬で怒りに染まる。

その直後、小さく謝るれおに、再び笑いがあふれた。

そして一息おいて、陸斗は改まってまっすぐに向き直る。

『先生、今まで本当にありがとうございました。おかげで三年間、クラス委員として活動できました。それから、友人へ。今までたくさん世話になった。ここにいる、コイツも含めて、本当にありがとう』

その場でそっと頭を下げた陸斗に、生徒たちは「こちらこそ!」と優しく声がかかる。

『それから、最後に…りおへ。いつも、俺を気にかけて、傍にいてくれて本当にありがとう。一年の頃から…いや、もっとずっと小さいガキの頃から、俺はりおが大好きだった。その気持ちは、これからも変わることはない。お前のその優しさや、笑顔はお前が思っているよりずっと、周りの人間の力になってるんだよ。自分が傷つくことを怖れず、誰かのために笑えるお前に、俺も何度も救われていたんだ』

そういった陸斗の表情は、日頃りおにしか見せたことのない柔らかな笑み。

クラスメートが少しざわめいた。

陸斗の笑顔に驚いたようだった。

『…だから今度は、俺が…これからはずっと、お前を守るよ。お前を守るために、強くなる。りお、大好きだ。君を好きになって…本当によかった』

最後にもう一度小さく笑った陸斗。

ずっと黙って聞いていたりおの瞳からは、一筋の涙が頬を伝う。

陸斗はそっと後ろからりおを抱きしめた。

「あり…がとう…。私も、大好きよ」

れおはりおに代わってマイクを持ち、明かりをつけるスイッチを押した。

星々がスーッと消えていく。

ぱっと立ちあがって、れおはクラスメートを見る。

全員が注目して、れおは話し出した。

「これで本当に最後だけど、大学部でも会える。みんなそれぞれの道をこれから歩んでいくけど、今よりももっと、誇れる自分になれるように、頑張ろう!それから…」

クラスメートに向けて話していたれおは、そういってりおと陸斗に振り返る。

「それから…二人とも、今まで、クラスを引っ張ってくれて、ありがとう!改めて、クラス委員の二人に!本当にお疲れさまでした!」

その瞬間、大きな拍手が沸き起こる。

「「「ありがとう!」」」

予期せぬことに、りおの瞳からはポロポロと涙があふれ出す。

陸斗はそっと頭を撫でながら、困ったように笑った。

そして、しばらくの間は思い出話で盛り上がると、やがて別れの時間。

クラスメートを全員見送って、その場に残っているのは、りお達四人と担任だけ。

プラネタリウムの鍵を閉めて、りおは小さくため息をついた。

これで、本当に最後なのだと、急に切なくなってしまった。

「さてと、ほら、鍵貸せよ。俺が返しておくから。じゃ、お前ら、元気でやれよ?たまには、顔出しにこい。……じゃーな」

りおから鍵を受け取ると、担任はひらひらと手をふっていってしまった。

一度も振り返ることなく、遠ざかっていくその背に、りおは静かに礼をして見送った。

「…りお、垂れ桜…みにいかないか?」

「え?うん、行く」

涙はやんで笑みが灯る。

「俺らも行っていい?」

ひょっこり、りおの顔を覗き込んで、れおがいった。

「もちろん」


たどり着いたのは件の垂れ桜。

並んで桜を見上げるりおと陸斗を、れおと梨月はそっと見守った。

「…あの…な、りお。俺、お前にいってないことがある」

そう切り出した陸斗に、りおは桜から陸斗へ視線を移す。

そして、何か迷っているような陸斗に、りおは小さく「あのね…」と声をかけた。

「私も、陸斗にいっていないことがあるの。私が先でも…いい?」

「え?あ、あぁ…」

りおの話を待つ。

と、フワリと風が吹いた。

サラサラとなびく髪をそっとおさえる。

「…私ね…思い出したの。…失っていた記憶は、私の中に戻ってきたの。…ごめんなさい。陸斗一人がずっと辛くて、私は守られてばかりだった。“あの事故”の時も…」

「……?!」

その告白に驚いたのは、陸斗だけではない。

見守っていた梨月も、すぐにれおの顔を見つめた。

れおはそっと頷き、二人は視線を戻す。

「私、もう守られてばかりは嫌だよ。陸斗のご両親のこと、陸斗自身のこと、私はいっぱい傷つけた。謝ったって、陸斗を困らせちゃうってわかってるけど、それでも、ごめんなさい!」

深く頭を下げるりおに、陸斗はぐっと唇をかみしめる。

『こんなの…あんまりだ…』

「陸斗……私、やっぱり…」

りおがいいかけた時だ。

陸斗はりおを引き寄せ、その腕に抱く。

微かに震えるその腕に、りおはただ抱きしめ返すだけだった。

「違う…違うよ。俺達がずっとお前に隠していたのは、りおが苦しい思いをしないように…ただ笑っていてほしかっただけなんだ…。だから…本当は…思い出してほしく…なかった…!」

「…陸斗」

「だって、お前は、俺のことを想って、絶対に傷つくだろ?絶対に…俺から離れていくだろう…?!そばにいない方がって…!俺は、俺自身のことは、いくらだって耐えられる!でも、お前が、りおが傷つくことは、耐えられない…!」

こんな風に、陸斗が気持ちを吐露する姿。

“あの日”の幼い陸斗が、今の陸斗に重なる。

『どうして、私はすぐに気付いてあげられなかったんだろう。こんなにも、陸斗の心は、ずっと寂しいと叫んでいたのに…』

りおは小さく笑うと、抱きしめていた腕の力を抜いて、陸斗に寄りかかる。

「陸斗、違うの。私は、離れたいなんてもう絶対にいわないよ。そういうんじゃないの。私が今日、陸斗にこのことを告げたのは、これからも、あなたの傍にいるため。すぐ隣で、今度こそ力になれるように、支えてあげられるように…。同情や罪悪感からいってるんじゃないの。傍にいたいと願うのも、こうやって、陸斗の気持ちを無視して話してしまったことも、全ては私の我儘だから…」

見上げてぶつかる陸斗の瞳は、どこか恐れや戸惑いにゆれる。

りおは、それでも話を続けた。

「だからね、陸斗。やっぱり、私なんかじゃイヤと思ったら、そういってほしい。後悔してほしくないから。もう過去にとらわれる必要なんてないから。陸斗が思い描く未来を歩いてほしい」

例えば、そこに自分の姿がなくても、後悔はしない。

どんな結末を迎えても、笑っていられるように、この日のために覚悟を決めた。

『いつだって、陸斗…あなたの幸せを願える、そんな自分になるから…。陸斗の優しさに、陸斗自身が押しつぶされてしまわないように、陸斗が望むものを追いかけて…』

りおはフワリと微笑む。

その笑顔を見て、陸斗は静かに目をつむる。

いつだって想うのは、りおだけ。

それがこの先も、変わることのない永遠の答え。

そんなこと、改めて確認するまでもない。

本当は陸斗もわかっていた。

ただ認めたくなかっただけ。

隠し通していなければいけない、そんな風にずっと捕らわれていた。

けれど……。

「俺が望むのは…いつだって一つだよ」

再び合わせた視線に、迷いの色はもうない。

「お前が隣で笑っていること。ただ、それだけだよ。…ごめん、勝手にりおが俺から離れていくって、見限って…。“あの頃”の、幼いままのりおじゃないのに、記憶がなくたって俺を受け入れてくれたのに…。成長してないのは、俺だけ…っ?!」

そういいかけた陸斗の言葉を、りおの唇がそっとふさぐ。

精一杯の背伸びと、暖かな温もり。

チュッと短いリップ音。

りおからのキスに、陸斗は一瞬目を見開く。

それはまるで、全てを包み込むような、りおの「大丈夫」の代わりの声。

ゆっくりと離れていく吐息に、戸惑うのは陸斗だけではなかった。

「り…お…?」

その呼びかけに、りおは恥ずかしそうに頬を赤く染めつつ、小さく笑う。

「陸斗は、立派に成長してるじゃない。心も身体も、昔よりずっと…。陸斗は十分すぎるくらい素敵だよ。それでも、今のままで陸斗が納得できないなら、今日からは一緒に成長していこう?大丈夫、二人なら、もう寂しくなんかないよ。陸斗のご両親の代わりにはなれないし、私はなりたくない。見守ってくれる大きな愛情じゃなくて、二人一緒に育てていく愛がいい。辛いことは二人で半分こして、幸せなことは二人で倍に…。そんな風に、これからは一緒に歩いていこう」

そういって、満面の笑みを見せるりおに、陸斗もようやく安心したように笑みをこぼす。

それは、いつもの陸斗の笑顔。

「ありがとう、りお。けど、なんだか、プロポーズみたいだな」

少しだけ身体を離した陸斗に、今さらながら先ほどよりも顔を赤くしたりお。

「ははっ、本当は俺がいうはずだったのにな。……ずっと隠していたこと、本当にごめん。りおの言葉、すげー嬉しかった。これからも、かわらずに、傍にいてくれるんだって、安心した。だから…ってわけじゃないけど、今日もともと渡すつもりだったけど、改めていうよ。…これからもずっとそばにいてほしい。俺達の想いを形にしたい。だから…」

そっと差し出された指輪。

そして、はめたのは左手の薬指。

「今はまだ、安物で予約だけど、大学を卒業したら、本物を渡すから…。それまでは、大好きな恋人でいてほしい。“その時”が来たら、俺の……家族になってほしい。そのためにも、本当の意味で強くなるよ」

プラネタリウムでの映像で陸斗がいった“強くなる”の言葉。

りおは自分の手にある指輪と陸斗を交互に見つめて頷く。

「うん。私、待ってる。大好きなあなたと、本当の家族になれる日を…。大事にするね。指輪も、あなたの勇気も…」

もう一度強く抱きしめ合った二人。

と、その時…。

「はいっ!ってことで、そこまで!別に、許したわけじゃねーし?俺の前でいちゃつくのは、今日だけだからな!」

二人の間に割って入ったのは、いつもどおりれおだ。

「ってか、お前がりおの家族になるってことは、俺の弟になるわけだから、思いっきりこき使えるってことだ!今までの分、覚悟しろよ!」

フンっと得意げに、あるいは馬鹿にするように胸を張ったれおに、陸斗の拳が炸裂したのはいうまでもない。

「いい加減、妹離れしやがれ、このアホが。そもそも、誰がお前を兄にするか」

「あぁ?!っざけんな、このカッコつけ!」

「勝手にいってろ、アホ」

「はぁ、二人とも、飽きないね」

そんな三人の幼馴染のやり取りに、梨月もやっと安心したように微笑むのだった。


虹にかけた願いは、どこまでもこの空の下、叶い続けるのだった……。



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