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雨上がり、虹空を君に 前編 PART:3

その頃、陸斗はというと、屋上で一人空を見上げていた。

『…ったく、俺もまだまだだな。りおの性格は、誰よりわかっているつもりだったのに。相手を優先して、自分の気持ち抑え込んで…。あいつが、断れないこと知ってるのに、怒っちまって、あいつのこと泣かして…』

ふっと小さくため息をついて、陸斗は俯く。

「俺が守ってやらねーと…」

ポツリと呟いた言葉は、フワリと風の中に消えていった。

そうしてしばらく、風に吹かれていると、背後に人の気配を感じ、陸斗はバッと振り返る。

「…りお?!」

そこに立っていたのは、りおではなく、梨月だった。「あ……悪い…」

バツが悪そうに陸斗は謝った。

そんな陸斗に、梨月はふんわりと柔らかく微笑む。

「りーちゃんには、れー君が今、ついています。…陸斗君のことですから、色々、考えていますよね。りーちゃんの、性格や癖も、一番、わかっているはずです。だから、陸斗君の、りーちゃんへの想いは、決して変わらないと、安心しているのですが…」

梨月のいわんとすることが、陸斗にはいまいちわからなかった。

そのまま黙っていると、梨月の表情が少しだけ険しいものに変わった。

「りーちゃんの、陸斗君を想う気持ちが、間違った方向へ向きつつあるかもしれません。『傷つけてしまうくらいなら、傍にいない方がいいのでは』と…」

「…!あのバカ…どうして、そう…俺のせい…か…」

りおらしい、といえばそうなのかもしれないが、陸斗としては、そういった不安や弱音も、話して頼ってほしかった。

「今、りおはどこに…?」

「保健室です。少し、顔色が悪かったので、つれていきました」

それを聞いた途端、陸斗は踵を返して屋内に続く戸を開けようとした。

その時、陸斗が開けるより一瞬早く、扉が勢いよく開き、飛び出してきた人影とぶつかってしまった。

「っつ」

「ってー!ちゃんと前見て歩け!こっちは急いでんだよ!」

「相手が誰だか確認してから文句をつけろ、このアホが」

ぶつかった部分を擦りながら、陸斗はその人物にいう。

いうまでもなく、この騒がしさはれおだ。

いまだに少々混乱しているれおに、かけよる梨月。

その表情は心配顔そのもの。

ただし、ぶつかったれおを心配しているわけではない。

「れー君、りーちゃんは?!」

「そう、りお!!俺が校医と話してる間に、出ていって…え?ここに来たんじゃねーのか?!」

「…あいつ、あの後輩の所にいったんじゃ…」

慌てまくるれおに、陸斗が落ち着いていった。

三人の間に沈黙が訪れる。

三人それぞれに、考えをめぐらせていたのだ。

そして、言葉を発したのはれおだ。

「…まさかとは思うけど…りお、自分から身引くようなこと話しに行ったんじゃねーよな…」

「…!おい、相手何組だ!」

「知らねーよ!とにかく、今は片っ端から当たっていくしかねーだろ!」

と、れおがいったのを聞く前に、陸斗は飛び出していた。

陸斗が一年の階にたどり着いてみると、まだ授業が終わっていないようだった。

あと、五分程で終わるのだが、それにしても静かだ。

すると、明かりのついていない教室が、二クラスあった。

中を覗いてみると、人一人いない。

『…そういえば、ジャージっぽいもの、持ってたな…。体育中…か…。りおは更衣室の方で待ってるってことか?』

今まで動かしていた足が止まる。

「まぁ、さすがに、女子更衣室の前に男がいたら、大騒ぎになるだろうな」

やっと追いついたれおが、陸斗が立ち止まった理由を、ペラペラとしゃべる。

「と、いうわけで、梨月に頼んどいたよ。梨月がいれば、変な事態にはならないだろ」

「……今、彼女、ケータイ持ってるか?」

「梨月なら持ってると思うけど…、りおは教室に置きっぱなし」

それを聞いて、陸斗は自分のケータイを取り、電話をかける。

しばらく話して、陸斗は再び歩き出す。

れおもその後に、ついていった。


その頃のりおは、女子更衣室の前にあるベンチに座って、授業が終わるのを待っていた。

少しして、ぞろぞろとジャージ姿の女の子が、授業をおえて戻ってきた。

その中から、あの後輩をりおは探す。

「あれ?りお先輩!どうしたんですか?」

りおが見つけるより早く、件の後輩がりおに気付きよってきた。

「あ、あのね、さっきの相談の事で、いい忘れたというか、話しておかなきゃいけないことがあったから」

「それでわざわざ、待っててくださったんですか?!ありがとうございます!すぐに着替えてきますね!」満面の笑みというのが一番ぴったりな笑顔。

それに応えるりおは、どこか寂しげな笑み。

後輩が更衣室に入り、他の生徒達も全員更衣室に入って、その場は一時静かになった。

その時、梨月がりおのもとにたどり着く。

「りーちゃん!」

「え?梨月!」

りおは、梨月の姿にどこか安心したような笑みに変わった。

「りーちゃん…もう、決めたの?」

その問いに、りおはゆっくり頷いた。

「そう。なら、私は何もいわない。りーちゃん、話をするなら、人の来ない所の方がいいよ。ここだと、次のクラスのコがまた来るから…」

「…うん。そうする。いっぱい迷惑かけて、ゴメンね」

「迷惑だなんて思ったこと、一度もないよ?…りーちゃんなら、大丈夫。私は、教室で待ってるから、ね」

「ありがとう、梨月」

最後にそっと微笑んで、梨月は、その場を後にした。

そのすぐ後、後輩が着替えをすませて出てきた。

「とりあえず、場所、移動しようか」

「ですね!では、先程の場所にしましょう!」

約一時間程前に相談にのった場所で、二人は再び話し出す。


「場所、特定してくれて、助かった。これで、いつでも出ていける」

「いえ、私には、これくらいしか、できませんし」

「し――っ!」

やけに真剣なれおに、梨月と陸斗はそろって首を傾げた。


「陸斗のこと、好きなんだよね?」

「はい!」

「……今、もし、陸斗に彼女がいたとしても、そんなこと関係なく、振り向かせるんだってくらい、好き?」

そういうりおに、女の子はキョトンとしていた。けれど、少しして、はっきりと頷く。

「はい。山倉先輩に彼女がいても、諦めません。だって、そんな軽い気持ちなんかじゃないから…」

そういいきる女の子に、りおの表情が優しいものになる。

まるで、全て受け入れたように柔らかい。

「…じゃあ、私は…」

りおかそっといいかける。


後に続く言葉を、物影に隠れている三人は息をのんで待つ。

けれど、りおの表情と声色に、梨月は静かに立ち上がり、れおのセーターを引っ張った。

「?」

「後は、陸斗君がいれば、大丈夫。陸斗君に、任せよう?」

そういって笑う梨月を見て、れおはふぅっと一息つくと立ち上がった。

そして、梨月の手を取り、歩き出す。

「…教室で待ってっから、必ずりおと戻ってこい」

それだけいって、れおは振り返ることなくいってしまった。

『わかってる』

フッと小さく応えてから、視線をりおに戻す。

『りお…』


「……私も、頑張らなきゃね」

りおは笑顔でいった。

「え?」

「あなたの気持ちが、とても純粋で強いこと、わかったから。諦めて何ていえない。昼休みに、ちゃんと話せなくてごめんね。私も…私も、陸斗に見放されないように頑張らなきゃ」

りおの言葉に、女の子は事実を知り、慌てて謝ろうとした。

けれど、りおがそれを先に止め、優しく女の子の手をとった。

「謝る必要なんてないよ。だって誰かを好きになること、とても素敵なことだもん。例えば、同じ人を好きになったり。でも仕方ないよ。だって好きって気持ちは理屈じゃないから、諦めないっていってくれた、あなたの想い、大事にしたい。私もまっすぐに、その想いに応えなきゃ」

瞳を閉じて、思い浮かぶのは、いつだって一人の男の子。

「私もね、陸斗のこと、大好きなんだ」


「…!!」

思いがけない告白に、陸斗は手の甲で口元を隠す。

驚きと、嬉しさと、何より恥ずかしさで、頬が赤くなる。


「…大好きだけど、私は陸斗のこと、裏切ってばかりで、きっともう嫌われちゃってると思う。けど…、ううん、だからこそ、私も考え直さなきゃ…あなたと、陸斗のために…」

困った風に笑ったりおに、女の子はクスクス笑い返した。

それは嫌味なものではなく、とても暖かい笑顔。

「もう、りお先輩は優しすぎます。恋のライバルなんて、一番嫌な立ち位置じゃないですか。なのに、りお先輩ったら、私のことまで気にかけてくれて…。りお先輩、私も頑張ります!山倉先輩への気持ち、ちゃんと貫きます!」

女の子は決意も新たに宣言した。

「いつか、ちゃんと告白できるように…。でも、りお先輩!私、山倉先輩と同じくらいりお先輩のこと大好きです!優しくて暖かい、りお先輩のように頑張ります!」

「ありがとう、頑張ろうね」

やがて、女の子は自分のクラスへと戻っていた。

誰もいなくなったその場は、窓から入る陽の光に包まれている。

その中で、りおはホッと一息つくと、一気に気が緩んだのか、膝から崩れ落ちる。

「りお!」

隠れていた陸斗はとっさにりおを支えに飛び出していた。

フワリと暖かさに抱き止められたりおの視界は、光に溢れ、そっと伸ばした手が力なく落ちる。

意識を失ったりおが目を覚ましたのは、それから少しした時だった。


「…ん…」

微かな振動が心地いい目覚め。

「ったく。無茶しすぎだ。ぶっ倒れるまで我慢するなんてな。…気付いてやれなくて、悪かった。今、保健室向かってるから、大人しくしとけ」

思いの外、すぐ近くで聞こえるその声と、抱きしめられたその腕の強さに、りおはハッとなった。

「え?!り、陸斗?!ちょっ!」

「だから、大人しくしとけっての」

慌てるりおに、陸斗は呆れぎみにいう。

お姫様抱っこの状態で、陸斗の腕の中にいるりお。

この状況と、先程まで自分の心の中でグルグルしていたモノを思い出し、りおは気まずそうに視線を外した。

沈黙の中、保健室にたどり着くと、そっとベッドの上に、りおをおろした。

「…ちょっと待ってろ。先生呼んでくる」

またどこかほっつき歩いているのか、保健室の主である校医を探すため、陸斗はりおに背を向けた。

その時、りおはとっさにりおの背中に手を伸ばす。

今度こそ、しっかりと掴んだ陸斗のシャツ。

「…あの…陸斗…ごめ――」

「謝るな」

「え?」

強くりおを制したその言葉と裏腹に、振り返った陸斗の表情は、とても優しい。

「もういいよ。俺も自分のことで、いっぱいいっぱいで、りおの体調に気付いてやれなかったし。それに、りおの本心も聞けたから」

「本心?」

ギシッとベッドが音をたてる。

陸斗がりおの隣に腰をおろす。

「なぁ、りお。俺はこれからも、“ここ”にいていいか?」

自分の座った、“りおの隣”を示しながら、そっと問いかける。

すると、りおの瞳から、ポロポロと涙が溢れる。

「これからも…いてくれるの?傍に…私…嫌われちゃったって…」

そんなりおに、陸斗は笑った。

「りおは知らないか?俺が、りおのこと、スゲー大好きだってこと。嫌いになんてなるわけねーだろーが」

そして、涙に濡れるりおを、陸斗は抱き寄せた。

「聞かせて?りおの気持ち。俺だけに…」

温かな陸斗の腕の中で、陸斗の言葉は確かな響きを持って、耳に届く。

「…私も、大好き…陸斗のこと…離れていかないで…!」

「あぁ。大丈夫、俺はこれからもずっと傍にいるよ」



「あん時は、マジ大変だったな」

「もう、恥ずかしいからやめてよ」

プイッとそっぽを向いたりおに、陸斗は笑ってしまった。

真っ黒な雨雲は過ぎ去り、小雨と青空が残っていた。

やがて小雨も上がり、そこに現れたのは大きく輝く虹。

同時に頭上から鳴り響いた鐘の音に、りおと陸斗は仰ぎ見る。

「あ…」

「グッドタイミングだな」

陸斗がいつだったか教えてくれた、学園の伝説。

虹に願うは人の想い。

「俺は、これからもずっと、りおの隣にいたい。…それが、俺の願いだよ」

囁くように発せられた、陸斗の言葉に、りおは陸斗を見つめた。

「りおの願いは?」

ぶつかる視線はあまりに優しい。

「私の願いは…陸斗の願いが叶うこと。陸斗が幸せであること…」

真っ直ぐなその瞳に、陸斗が困ったように笑みを見せ、りおの手をとる。

「伝説に頼まなくても、俺達で叶えられる願いだな。…さてと、雨もあがったし、そろそろ行くか。れおのやつ、待ちくたびれてるぞ」

「うん!」

二人並んで歩く間も、空に架かった虹は輝き続けている。

ふと陸斗を見ると、どこか切なそうにその虹を見上げていた。

その表情は、この日の朝、クラス委員の時間に見せた表情と、どこかにていて、りおは不安にかられる。

「陸斗…」

りおは気付いた時には、陸斗を呼んでいた。

「ん?どした?」

呼び掛けに応えた陸斗は、いつもと同じ優しい顔。

逆に、次を用意していなかったりおは焦ってしまった。

「あっ、ううん、何でもない…!」

ブンブンと首を横に振ってそういうりおに、陸斗は首を傾げつつ、りおの頭を撫でる。

「もうすぐ着くぞ。れおが途中まで迎えにくるって、メール来たけど」

いいながら、辺りを見回す陸斗の目に、その人物が入った。

「遅い!待ちくたびれた!」

駆けてきたれおが、りおの手をとって引っ張った。

右に陸斗が、左にれおがいる。

大好きな二人が傍にいてくれること。

それかどれだけ嬉しいか。

りおの頭上で、互いに手を離せと言い争う二人に、自然に笑みが溢れた。

「ほら、二人とも、みんな待ってるんだから、喧嘩も程々にね」

そうして三人はクラスメートのもとへ向かった。

りおと陸斗の二人を待っていたみんながマイクを二人に回し、有無をいわさずに、りおの好きなツインボーカルの二人組男性ユニットの曲が流れる。

りおと陸斗は、れおを睨む。

これが、誰の仕業かくらい、考えなくてもわかった。

二人はため息混じりに視線を交わすと、諦めたように、マイクを口元に持っていく。

やがて、れおがりおに引っ付いて一緒に歌い出し、それを見た陸斗がマイクでれおを殴る。

笑いに包まれたその場に、りおと梨月は困ったように苦笑した。

卒業式まで、あと少し。

こうしてみんなで作る思い出が、いずれ輝く宝物になる。

それを知っているりおは、そっとケータイでみんなの姿を写真に残した。

『私の失った思い出…。いつか、戻ってきたら、今よりもっと、陸斗のこと理解できるかも知れないのに…。戻ってくるといいなぁ…』

たとえそれが、楽しい思い出と限らなくとも、受け止める勇気と覚悟がある。

『陸斗がいてくれるから…だから、私は大丈夫なんだよ』

りおはそっと笑いかけるのだった。

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