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雨上がり、虹空を君に 前編 PART:1

『幼かったあの頃、雨上がりの空にかかった淡く光る虹に君が泣き出したのを覚えてる…』

空を見上げて想う。

それはいつも……。




「それでは、卒業式の日に花束の他に先生に何をプレゼントするか、決めたいと思います」

教卓のところで、少しだけ大人っぽくなったりおがいう。

いつものクラス委員の時間。

担任が遅刻したこの日、卒業式にその担任へ渡すプレゼントを決める。

様々な意見が飛び交うなか、相変わらず黒板に寄りかかり黙っているのは、こちらもまた少し大人びた陸斗だ。

「りおー!学校の施設って借りられるんか?」

教室の一番後ろの席かられおが叫ぶ。

「借りられないこともないと思うけど…なんで?」

「プラネタリウムでこの一年間の思い出、上映できないかな?」

れおの前に座る梨月がいう。

一年間、相変わらず様々な行事を共に過ごしてきた日々は、写真という形で残されている。

プラネタリウムでは編集した画像や映像を音声と淡く光る星々をバックに流すことができる。

この提案にクラス一同賛成だった。

少々大がかりではあるが、高校最後の思い出にはちょうどいい。

「えっと、では、プラネタリウムの使用許可は私達クラス委員でとっておきますので、みんなでこの一年の思い出の写真を集めておいてください」

りおの言葉に全員が了解した。

話し合いが終わり、バラバラと教室内を生徒が立ち歩くなか、陸斗はただ窓の外を眺めていた。

りおはふと気になり、陸斗に近づく。

「陸斗」

「……ん?どした?」

りおの声にハッとしたように、陸斗は顔を上げた。

「どうしたのはこっちのセリフ。何かあったの?具合悪い?」

不安そうに見上げるりおの瞳に陸斗は小さく笑った。

「ごめん、何でもない。少し考え事していただけだよ」

ポンッと陸斗はりおの頭を叩く。

窓から見える空に昔を思い出していた。

ただそれだけ。

「本当に平気なの?先に帰っててもいいよ?使用許可くらい、私一人でも大丈夫だし」

まだどこか、陸斗の言葉や表情に引っ掛かりを覚えたりおは、今度は心配顔になっていう。

「大丈夫、本当に何でもねーから。ほら、れおのやつが呼んでる」

困った風に笑って、陸斗はれおの隣、一番後ろの一番窓際の席へ向かう。

先を歩く陸斗の背中をりおは見つめた。

『付き合って2年。まだ陸斗のこと、わからなくなる時がある。今もそう、“大丈夫”っていうこど、どこか滅入ってるみたいで。でも、踏み込んでいいのかが、私にはわからない』

「りお!早く来いよ!」

れおの叫び声に、ふっと意識が戻る。

たたっと駆け足で陸斗の前の席、梨月の隣に座った。

「どした、りお。何かあったか?」

「ちょっと考え事してただけ。心配しないで」

そういうりおに、れおの表情はさらに心配そうになる。

が、りおは笑顔でそれに応えた。

「無理すんなよ」

そういったのは陸斗だ。

心配していたのはりおの方であったのに、いつの間にか心配されている。

その事が何だか歯痒く感じた。

『もっと陸斗に心配かけないように、私がしっかりしなきゃ』

「りお?本当に大丈夫か?」

「うん、大丈夫!」

そういって笑うりおをそっと見つめるのは梨月だった。

りおの笑顔を見ながら、小さく頷き、梨月はどこか困った表情をする。

「…りーちゃん」

「ん?何?」

「あのね、明日、友達の誕生日プレゼント選ぶの手伝ってほしいの。いいかなぁ?」

ちょこんと首を傾げて梨月はいう。

「いいよ!でも私でいいの?」

パッと笑顔を咲かせてりおが応えた。

「ありがとう、りーちゃん!陸斗君、明日の放課後、りーちゃんをちょっとおかりしますね」

「あぁ、りおのこと頼むな」

「えぇ」

3人のやり取りを、その外かられおは見ていた。

りおの言動と、梨月の提案。

そこから導く答えは、過去に幾度となく生じていたこと。

りおが何かを隠している。

女の子同士だから気付くほんの些細なこと。

特に梨月はりおのそれに対して、人一倍気にかけている。

そして、一連の流れと梨月の表情をみれば、れおにもだいたいのことはわかる。

『梨月には敵わないな。内容にもよるけど、りおのこと、梨月の方がすぐに気付ける。おかげで、いつも大事にならずに済んでるんだよな』

そんなことを考えていると、自然に笑みがこぼれる。

「何、笑ってんだ、お前」

りおと梨月が明日の買い物の話で盛り上がっているところを、早々に抜け出し、一人笑っていたれおに少々呆れぎみにいう陸斗。

「何とでもいえ!それよりお前、さっきから、何考えてやがる」

ふざけた態度から、真面目な表情にかわり、れおは陸斗を問い詰める。

「あ?何って…まぁ別にいいだろーが」

素っ気なくそう答える陸斗に、れおは見るからにムッとする。

れおとしては、認めなくないが、陸斗とは梨月以上、さらにいえば、記憶のないことを考えればりおよりも長い付き合いになるのだ。

嫌でもわかってしまうことがある。

今もそうだ。

りおが仕切って進めていたクラス委員の時間も、ひたすら窓の外を眺めては、どこか寂しげな表情になる陸斗。

クラスメートの前では相変わらずだが、、いつもならりおのことを優しく見守り、時にはフォローに回るというのに。

「ちょうどいい。明日、りおも梨月もいねーんなら、その時に吐いてもらうからな」

だいぶ偉そうなれおに、陸斗は複雑な表情でうつむく。

「んだよ、そんな深刻なことなのかよ」

「いや、別にただ昔を…。何でもない」

いいかけて止めた陸斗の表情は、どこか儚く切ない。

「あー、なるほどな。しょーがねーから聞いてやるよ。この優しい幼馴染みのれお君が!」

れおのその言葉に、陸斗の口角がわずかに動いた。

「…りお」

陸斗の声にパッとりおが振り向く。

「ん?何?」

「話してるとこ悪い。ただ、一応許可とっておこうと思って」

梨月と話していたりおに、陸斗は笑いかける。

どこか黒いその笑顔に、りおはピンときた。

「いいよ、別に」

りおは楽しそうにそう答えた。

「え、何?何の許可?」

れおが顔を出して聞いたその時。

ガツンッという大きな音がして、クラス内の生徒がいっせいに振り向く。

「…いってー!!何しやがんだ、このタコ!」

「タコはお前だ」

胸ぐらをつかみ合いながら言い争う二人に、りおと梨月は先程までの会話を再開した。

一度は振り向いたクラスメート達も、何事もなかったように、少し前の風景に馴染む。

以前は問題児でしかなかった二人が、クラスの中心的な存在になるには、そう時間はかからなかった。

特に陸斗に対して、周囲の目も随分柔らかなものとなったのだ。

ある程度、付き合っていることを公にするようになったのも一因だろう。

そんなこんなで、幼馴染みとして接するようになったことで、二人の喧嘩は日常茶飯事になり、すでにクラスメートは慣れている。

と、一人のクラスメートが四人に近寄ってきた。

いつかの劇でヒロインをした女の子。

「りおちゃん!梨月ちゃん!今日の放課後、空いてる?みんなでカラオケいかない?」

そういってニッコリ綺麗に笑った。

「うーん…プラネタリウムの使用許可取りにいかなきゃいけないから、少し遅れちゃうけど平気?」

少し考えてからりおがいった。

「了解!梨月ちゃんも行こうよ!」

「うん、じゃあ、参加するね」

梨月も微笑み返す。

と、れおがピョコンと、梨月とりおの間に顔を出した。

「俺もいきたいなー!」

女の子同士で話していたなかに堂々と割ってはいる。

「いいよ!どうせなら山倉君もどう?りおちゃんと一緒に来てよ!」

「…気が向いたらな」

「じゃあ放課後ね!」

そうして、再度綺麗に笑うと自分の席へと戻っていった。

りおやれおが参加するといえば、陸斗も参加するようになった友達の輪。

柔らかくなったその雰囲気や、ふと見せる笑顔は、人を惹き付けるもの。

それはりおに留まるものではない。

「山倉君!一年生が呼んでるよー!」

教室のドアのところで話していたグループの一人が、陸斗を呼んだ。

目を向ければ、少し節目がちに小さくなる女の子がそこには立っていた。

もうすぐ卒業する三年生。

この時期は告白ラッシュになるのもしょうがない。

陸斗は立ち上がり、歩き出す。

りおが小さく“いってらっしゃい”と呟くと、陸斗はりおの頭をポンと叩いて教室から出ていった。

「陸斗君、凄いね、やっぱり。昨日も呼び出されてたもの」

梨月が陸斗の去った方を見ていう。

「それだけ、みんなが陸斗をわかってくれてるってことだよね」

りおもそういって笑った。

「でめ、りお、大丈夫か?やっぱり、少しは不安だろ?」

れおが心配そうにいう。

「…不安じゃないっていったら嘘になるかな。でもこればっかりは、どうしようもないよね。陸斗を好きって気持ち、私もわかるから。それに、陸斗を信じてるから、私も笑って見送るの」

困ったように笑うりおに、れおもそっと笑いかける。

信じてくれる人がいること。

それがどれほど尊いものか。

その大切さを、四人は知っていた。


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