最悪な出会いはハッピーエンドへ PART:1
ご無沙汰しております!
ようやくUPできました!
四月、架音学園中等部入学式。
まだ幼さの残る新一年生。
その中にはあの四人がいた。
一年A組にれおが、一年B組にりおと梨月が、一年F組に陸斗がそれぞれ着席していた。
この時点で、この四人全員を繋ぐものはない。
長い式を終えて、生徒たちは各教室へと移動する。
梨月は初等部からの友人と共に、人の波にそって歩いていた。
と、その波が急に流れを止める。
さしかかったのは、中等部校舎へ続く渡り廊下だ。
何事かと、見てみれば、そこには一つのグループが進路を塞ぎおしゃべりしている。
その中心にいるのは、れおだった。
にぎやかで、明るい。
そういえば、聞こえはいいが、その派手なグループは迷惑以外の何ものでもない。
梨月の友人は比較的大人しいタイプで、互いに関わり合いたくない正反対のグループ。
「梨月ちゃん…どうしよう。通してくれないよ」
あからさまに怯えたような顔で、一人の女の子がいう。
梨月は、れおの横顔を見つめ、少し考えるとその集団に歩み寄った。
「梨月ちゃん?」
「大丈夫、行きましょう」
にっこり笑顔を浮かべて、梨月は友人たちに促す。
ここで足止めされても仕方がない。
中等部校舎に戻るにはここを通る他ないのだ。
「通していただけませんか?」
梨月は一番端にいた一人に話しかける。
一瞬だけ視線を梨月に向けたが、再び何事もなかったかのように話しだす。
梨月はそんな相手の態度に、溜息をつくと、迷うことなく中心にいたれおのもとに入って行った。
「通していただけませんか?せめて一人通れるスペースをあけていただきたいのですが」
フワリと微笑みながら、れおを見つめる。
対してれおは意地の悪い笑みを返した。
「何で?何でわざわざ俺らがどかなきゃいけないわけ?」
れおの言葉に周囲を取り囲む面々が笑いだす。けれど、梨月はそんな周囲には目もくれず、れおを見つめたまま続ける。
「中等部に戻るにはここを通るしかないこと、わかっててあなたはこんなことをしているのでしょう?周りが困るのを見て楽しんでいるようだけれど、正直あなたらしくないですよ。本当のあなたは、もっと頭のいいかたです」
梨月はそういって、再度笑って見せる。
れおの取り巻きは、二人のやり取りに唖然となり、その隙に、梨月は通れずにいた生徒を促す。
梨月とれおが対峙している間に、逃げるようにその場から立ち去る生徒たちを見送って、梨月はれおに頭を下げた。
「皆さんを通していただいて、ありがとうございます。では、私も失礼します」
そういって、れおの横を通り過ぎる。
それを見たれおは、かっとなり振り返りざまに叫ぶ。
「お前に、俺の何が分かる?!何も知らねーくせに…!お前のような奴は、大嫌いだ!」
その声は、怒っているはずであるのに、どこか悲痛に聞こえる。
梨月は静かに振り返ると、そっと優しげな声音でいった。
「無理だけは、しないでくださいね」
どこか寂しげな梨月の表情に、怒っていたはずのれおが押し黙ってしまった。
そしてその場はしばらく沈黙に包まれ、去って行った梨月に、れおは小さく舌打ちするのだった。
二人の出会い。
梨月の名前すら知らなかったれお。
まさか大切な存在になろうとは、この時思いもしていなかった。
各教室に入っていく生徒たち。
B組の教室、梨月たちが着席して少しした頃、担任と一緒にりおが教室に入ってきた。
教室を見まわして、一つ空いた席を見つけたりおは、そこへ向かう。
その空席は梨月の隣。
「はじめまして、よろしくね」
席に着いたりおが隣にいた梨月にいう。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
梨月も笑って応えた。
「私、真中りおっていうの。初めて同じクラスになったよね」
「川端梨月といいます。本当のはじめまして…ですね。でも、私真中さんのこと、知っていましたよ」
ふわりとした笑みで梨月はいう。
「え?!何で?!あ、りおでいいよ!」
「では、りおちゃんで。…とても美形の双子さんがいるのは、有名ですし」
「び、美形?!双子は双子だけど、美形っていうのは、どう考えても違うような…」
そんな他愛のない話をしながら、二人はやがて打ち解けていった。
りおにとって、ようやく見つけた信頼できる大事な親友だった。
しばらくたった頃、梨月が真中家を訪れていた。
いつものように、ケーキを焼いて待っていたりおに、梨月は紅茶の差し入れをする。
「りおちゃん、紅茶の淹れ方知ってるっていってたから」
「ありがとう!頑張っておいしく淹れるね!」
はしゃぐ姿はまだまだ幼くも、女の子らしい姿。
梨月はりおが紅茶の準備をしている間、広い部屋を見回してみる。
真中家に着いた時にも驚いたが、かなり大きな家。
庭も広く、洋式のお屋敷のようだ。
ふと棚の上に置いてある写真に目がとまる。
りおとれおの写ったものばかりだ。
「ご両親は海外でお仕事されてるっていってたよね。こんな大きなお家に、二人だけなんて寂しくない?」
りおの運んできたお盆の上には、二人分のケーキと紅茶のカップがのっている。
「うーん、今はそこまで寂しくない…かなぁ?親が家にいないのが当たり前になってるし、お料理や身の回りの色んなことは、全てできるように教えてもらってるし。それに…れおがいてくれるから」
困ったような笑みに、梨月は「そう」と小さく応えた。
『れお』の名を呼ぶ時の柔らかな響きには、深い愛情が込められていた。
「さっ!食べよ、梨月!昨日の内に作ったんだ!」
「りおちゃんは、本当に何でもできるのね。いただきます」
りおの手作りのフルーツタルト。
色んなフルーツが、宝石のように輝く。
梨月はそっとフォークでタルトの端を切る。
そっと口に含むと、ふわりと香るフルーツの爽やかさと、カスタードのほのかな甘さ。
その絶妙なバランスに自然と笑みがこぼれる。
「とってもおいしい。りおちゃんのケーキ、私好きよ」
「本当?!ありがとう、梨月!」
そんな風に和んでいると、しばらくして玄関の戸が開く音がした。
「ただいまー!」
「あ、れおだ!ちょっと待っててね、梨月!」
「うん」
りおはそういって、小走りで玄関へと向かう。「お帰りなさい、れお。今日は大丈夫だったの?」
「ただいま、りお。ったく、今日は説教が長いのなんの…って、あれ?誰かいんの?」
りおの靴の他に、もう一足、綺麗にそろえられた見知らぬ靴。
「うん、友達がね来てくれてるの」
「ふーん。…って、まさか男?!」
「……そんなわけないでしょ。女の子です」
「あー、よかった。にしても、珍しいな、りおが誰かを招き入れるなんて」
ネクタイを引き抜いて、シャツを脱ぎ、Tシャツ姿になってやっとれおは一息ついた。
「うん、梨月はね、本当の私に気づいてくれたの」
他人にばかり気をつかって、本当の自分を出さないりお。
そんなりおの本当の姿に、気付くものはこれまでいなかった。
「へぇ、すごい子だな。りおのこと、ちゃんと見てくれる子がいるんだ。ちょっと安心した」
「でしょー!れおもきっと好きになる!紹介するね!」
楽しそうに話すりおに、れおも微笑む。
「おまたせ、梨月!」
りおはれおをつれて、梨月の待つリビングへ入る。
「紹介するね!」
そういって、れおが中に入った時、れおの表情が固まった。
忘れもしない、入学式の日の出来事。
自分のことを理解したつもりでいる口調、カンに障る笑顔。
それが今、目の前にいる。
『何でこいつが…!何のためにりおに近づいたんだ……!』
「れお?どうかした?顔色、あんまりよくないね。具合悪かったら…」
「い…いや、なんでもない、大丈夫」
「そう?本当に大丈夫?無理しないでね?…この子は川端梨月さん。こっちは、私の双子のお兄ちゃんのれお。梨月にはいつもお世話になってるの」
りおに改めて紹介されると、れおは無言で梨月をみた。
それに対して、梨月は軽く頭を下げる。
「はじめまして、川端梨月と申します。これからは、どうぞよろしくお願いしますね」
ふわりと笑うその仕草に、れおはどこか挑発されているように感じ、無愛想に「どうも」といってそっぽを向いてしまった。
「れおもケーキ食べるでしょ?部屋で食べる?」
「あぁ、そうする」
「じゃあ、部屋で待ってて」
「いや、今もらっていくよ」
「そう?それなら、ちょっとの間梨月とお話でもしててね」
キッチンへ姿を消すりおを見送ってから、れおは梨月を睨む。
「お前、何しに来た。何をたくらんでやがる」
キッチンのりおには聞こえないように、れおは小さくそういう。
「入学式のあの日、りおちゃんが話しかけてくれて。お友達になりました。りおちゃんには、良くしていただいて、今日はお邪魔させていただいたんです。ダメだったでしょうか」
そうたずねてくる梨月の声、仕草でさえ、いちいちれおはむかっ腹をたてた。
「いっておくけど、俺は仲良くする気なんざ、これっぽっちもないからな。りおに何を話したか知らないが、調子に乗るなよ。りおのこと一番にわかってやれるのは、俺だけなんだからな」
「…ずいぶんと、嫌われてしまいましたね」
「別に。だいたい最初から好いてないし」
れおの言葉を聞いた梨月の表情は、一瞬悲しみに沈む。
それに気付いたれおだが、今の状態で梨月のことを気にかける余裕はなかった。
「りおちゃんには、あなたとのことは何も話していません。私はあなたの不利になるようなことは、何もしません。約束します」
「…はぁ?なんだそれ。意味わかんねーんだけど。ってか、結局あんた、いったいなんなんだよ」
「私は…」
その時、りおがキッチンから戻ってくる。
「れおー、お待たせー」
おぼんを返さないよう注意して運ぶりおに、れおは駆け寄り受け取る。
「危ないなぁ。食べ終わったら、運んでくるから」
「ありがとう、れお。お願いね」
「それくらい、当たり前だろ。…それじゃ、ごゆっくり」
りおにそっと笑いかけ、れおは部屋を出る。
その後ろ姿を、梨月は寂しそうに眺める。
りおは、そんな梨月の横顔を見ると、静かに話しだす。
「本当はね、れおって、すっごく優しいの。私、ちっちゃい頃の記憶が、変な風に抜け落ちてて。何が原因なのか、わからなくて、なぜか急に涙が出ることがあるけど、その理由もわからない。けどね、そんな時は、いつだってれおがそばにいてくれるの。れおには、わかっちゃうみたい。私がどこにいても、泣いていればかけつけてくれるの」
離れていても、その心はいつも一つ。
永久の絆。
「周りから、色々いわれたこともあって、そのたびにれおが黙らせてた。そうしているうちに、れおは学園にいる時は、周りを牽制するために色んな意味で強くなったの。れおは絶対、このことを話そうとはしないけど…」
言葉は必要ない。
そんな二人の関係に、梨月は小さく笑った。
『やっぱり、今の彼は、彼らしくないわね』
紅茶のカップをとって、ふわりと優しい香りが届く。
「本当はね、りおちゃんとお兄さんのこと、良く見ていたの。りおちゃんの本来の姿を知った時から、ずっと…。…二年くらい前…だったと思うの」