また……会えるよね?
「……ごめんね、お父さん、お母さん。ほんとに、迷惑かけちゃって」
「なに言ってるんだ、香織。お前は何も悪くないじゃないか」
「そうよ、香織。貴女は絶対に治るんだから、気を確かに持つのよ」
「……うん、ありがとう2人とも」
ある日曜日の昼下がり。
扉を開こうとするまさに直前、病室の中から微かに届く声。言葉の通り、甚く申し訳なさそうに謝意を告げる姉さんに、父さんと母さんが熱心に励ましているのがひしひしと伝わって。
……まあ、一応は家族なわけだし、入っちゃいけないことはないのだろうけど……うん、やっぱり邪魔しちゃ悪いなって。
さて、両親がこれほど――まあ、いつもそうではあるのだけど――それでも、いつも以上にいっそう心を砕いているのは、命の危機だから。誇張でもなんでもなく、姉さんの命が危機に瀕しているから。生来抱えていた肺病の急激な悪化により、すぐにでも健全な臓器を提供してもらわなければならない状況で。
そういうわけで、姉さんは目下ドナー待ちの状況。そして、あと一週間ほどで提供者が現れなければ、姉さんは――
「…………あ」
ふと、声を洩らす。思考の最中、目の前の扉がガラリと開いたから。
暫し、沈黙が続く。……うん、気まずい。やっぱり、ごめんなさいと言ってさっさと入ってしまった方が――
(――宜しくな、京馬)
(――任せたわよ、京馬)
すると、そう呟き去っていく両親。僕にだけ聴こえるような、ほんの微かな声で。そんな2人の背中を、僕はただじっと見送って。
「……来てくれたんだ、京馬」
「……あ、うん、まあ……」
その後、少し気まずくなりつつも徐に病室内へ歩みを進め姉さんの下へとやって来た僕。……まあ、流石にこの状況で入らないのもおかしいし。
「……それで、具合はど……いや、ごめん」
「ううん、ありがと京馬」
具合はどう――そう告げようとして、止める。……馬鹿か、僕は。こんな状態で、良いわけ……いや、例え彼女自身がそれほど悪いと感じてはいないとしても、こっちが無神経に聞いていいことじゃないのに。
「……それじゃ、僕はもう行くね」
それから暫く――姉弟だというのに何ともぎこちないやり取りを交わした後、ゆっくりと背を向け去っていく僕。……まあ、これ以上僕がいても迷惑になるだけ――
「――待って京馬!」
「……どうしたの、姉さん」
部屋の扉を開こうとした刹那、不意に届いた姉さんの声。その切羽詰まったような声に少し驚きつつ、ゆっくり振り返ると――
「……また、来てくれるよね? 京馬。また……会えるよね?」
そう、僕を真っ直ぐに見つめ尋ねる姉さん。声音に違わぬ、切羽詰まったような表情。そんな彼女に対し、僕は――淡く微笑み、そのまま病室を後にした。




