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浅春斑雪(はるあさくゆきははだれ)  作者: 八花月
16.灯(ともしび)
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「……真希もあの日EIFの会場来てたらしくてさ、顔隠して。最初ユメラビのステージ見てたんだけど、途中から見てらんなくなったって言ってた。辛くて」


 自分がそこにいなかったからであろう。その気持ちはこの場の全員が理解出来た。


「それで会場ウロウロしてて、メインステージのほう行ったらしいんだけど……なんで楽屋なんかに入っちゃったんだろうね」

「私たち、全然知らなかったんだよ」


 そこで真希が〝脱法薬物汚染の実態〟を垣間見た、ということのようであった。見ただけならまだしも、その場で録音・撮影までしてしまったのである。


「なんか〝ムシャクシャしてやった。何も考えてなかった〟って言ってたけど」


 その時はそのデータを何に使うとかいう気はなかったらしい。ただ、何かに使えるかもくらいは考えていたのかもしれない。


「後になって、どこからかマトリの人がその辺のこと調べてるらしい、って聞いてきて、ちょっとした人助けのつもりで教えてあげようと思ったんだってさ。ただマトリとか警察とかに直接行くのはなんか怖くて……そんで大和さんのとこ行ったんだけど」


 この辺りになると、もう四季も紅葉も真希に相談を受けていた。大和兎とはユメラビ時代に取材を受けて知り合いになっていたということである。


「いらないって言ったんだけど、結構こう、謝礼っていうのかな。お金貰っちゃって」

「正直助かったんだよ。私たちその頃お金全然なかったから。千代エーに所属出来てからだよ。余裕出来たの。寮にも入れたから」

「だからまあ、その時はちょっとしたボーナスが入った、くらいの感じで。ホクホクしてたんだけど……」

 

 二人の顔に、怒りとも悲しみともつかぬ陰が差した。


「まさかカレンがアレに関係してるとはねえ」 


 ユメラビの絶対エース、蕭何カレンもその事件に関係しており連座してしまったのである。


 しかも報道こそされなかったものの本当はユーザーとして〝関係している〟どころではなく、ブツの製造・流通にガッツリ絡んでいたらしい。


「まあ金にはみんな困ってたみたいだからね」


 紅葉が遠い目をして言った。


「〝自分ではやってないよ? だってラリってたらステージでちゃんとパフォーマンス出来ないし、普段の生活からアシもつきやすいじゃん〟って言ってたのが救いかもしれないね」

「それ救いかなあ……」


 まあ何はともあれ、カレンその他が抜けたことによりユメノラビュリントスは解散の憂き目に合うのである。


 そしてそれが紙魚達夫の夕山真希殺害の動機となったようだ。


「いや、なんとなく私見てておかしいな、とは思ってたみたいなんだけどね」


 バビレコと千代エーのプロジェクトが進んでいる時に四季が足を怪我してしまったことにより、再び紅葉と交代。千代エーで紙魚達夫と接触することになってしまう。


「練習してたクロッキー帳も見られちゃってさ。いよいよ本格的にバレちゃったの」


 クロッキー帳のサインや文字列は紅葉が四季の筆跡を学んでいた跡であった。四季が最初に『お手本』を書き、紅葉は空いた時間にそれを真似ていたのである。葉子は再確認している間にそれに気付いたのだ。


「そこからシミタツが自分で調べて連鎖的に真希が〝奇跡〟の日にやったことや、大和さんとこに情報持ち込んだことまでバレたみたいで。……私はそこまでゲロってないからね? で、真希に問い詰めて、ああいう感じになったってことみたいね」


 四季は紅葉に〝わかってるよ〟と言って肩を叩いた。


「ユメラビが解散しちゃった原因を作ったってことより、なんか〝仲間たちを裏切った〟みたいなニュアンスで捉えちゃったのかもね。あの人半分スタッフみたいになってたし」


「それなら蕭何カレンにいくべきじゃん……なんで真希なんだよ! ってまあ、今更言ってもしょうがないけどさ」


 紅葉は舌打ちして、顔を下に向けてしまう。人に見せられない表情だと思ったのかもしれない。


 紅葉はあの日、真希だけが紙魚達夫に呼ばれたのを不審に思ったものの、プロジェクトに関係することかと思い、そのまま行かせてしまった。


 その時以来後悔に苛まされているようだった。


 七階の大物五人の会議は、いつものようにグダグダになり一旦全員バラバラになってクールダウンしている最中のことだったらしい。……計画的な殺害なら、達夫もわざわざそんな隙間時間に殺そうとは思わないだろう。


「……えっと、千代エージェンシー所属になってからも大和兎さんの『NEO NECO!』に協力はしてらっしゃったんですか?」

「してたよ」


 姉妹はあっさり認めた。


「ていうか、千代エーに私たち推薦してくれたのも大和さんなんだよ。いっぱい恩があるの。ユメラビ解散後も真希の縁で仕事くれてたし、私がケガして紅葉と入れ替わるって決めた時点であの療養所に匿ってくれた。……後から紅葉も来るとは思わなかったけど」


 四季は、というか紅葉も感謝してもしきれない様子である。仕事とは、通俗的な言い方をすれば〝裏の仕事〟といわれるようなものであろう。


「今はどうしてんの? その、ヤマトさんのほうはさ」


 姉妹は察しがよく、伊代の質問の意味もすぐに了解した。


「今? 私たちが抜けた後どうしてるかってこと? そんなに困ってはないと思うよ。あの人もう情報網作っちゃってて……」

「四季、やめよう」


 紅葉が短く言うと、四季はハッと口を噤んだ。


「あなたたちがアイドルしながら何してるかとかは知らないし、この状況の目的もわからないしね。まあ、知ろうとも思わないけど……。でも、悪いけど大和さんのことはこれ以上話せないよ。まあ、感謝はしてるし、私たちに好意持ってくれてるんだろうとは思ってるけど」


「はい。それでかまいませんよ」


とは言うものの、雪枝は大きくため息をついている。 


「……どの辺で気付いたの? 私たちが三人だって」


 葉子がスッと挙手した。


「誰かとは聞いてないんだけど」 

「フフフフ……いやね、夕山って名字に四季・真希でなんか足りない感じというかね、そういうのがね……」


三夕(さんせき)ですよね?」


 雪枝が代わりに答えた。葉子が横目で咎めたが素知らぬ顔である。


「そうそう」

「やっぱそこか。父さんが好きだったんだってさ」


「〝寂しさは その色としも なかりけり 槙立つ山の 秋の夕暮れ〟〝心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮れ〟〝見渡せば 花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ〟まき、しぎ・しき、で定家のだけ無いなーってね。最初名前見た時思ったんだけど、すっかり忘れちまってたい」 


 『三夕』は葉子の上げた通り『秋の夕暮れ』で終わる新古今和歌集に収められた三つの名歌である。家庭の事情のゴタゴタのせいで四季も詳しくは聞いていないのだが、父親が好きだったせいで三つ子にその名前を付けたのだ、ということであった。


「名字もなんかちょうど良いカンジだしね……その頃は仲良かったのかもね」


 突き抜けたような調子で、四季は吐き出した。


「それで、私たちに言いたいことってなんなの?」

「お伝えしたいことがある、って言ってたよね。ええーっと、六ツ院雪枝さん?」


 話も一段落した。ようやくこれを伝えることが出来る。雪枝は深呼吸し、気を落ち着けた。


 否定されるかもしれないのだ。最終的には四季・紅葉が決めることだが、どちらかといえば受け入れて欲しい。


 雪枝はぎこちなく笑顔を浮かべ、語り始める。


「はい。それはですね……」


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