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「……と、いうことでですね、今回は私たちが数凪さんの依頼を完遂出来た打ち上げ的な集まりなのですが」
姉妹は神妙な顔をして頷いている。なりは二人のお客さんが来たことを後悔していなければいいが、と考えながら場を静観していた。
「お二人にも良ければ参加してもらおうと、まあ思いまして。色々聞きたいこともおありでしょうし、えー、私たちからお伝えしたいこともあるんですよ」
「いや、うん、まあ」
「参加はいいんだけどさ」
紅葉と四季は視線で会話している。
「あの、これ、食べていい?」
主に誰に聞いたらいいのかわからず、姉妹は全員の顔を見渡している。
余程空腹なのだろう。ちょうどいいタイミングで腹が鳴る音がした。そのあまりに無垢な様子にみな思わずグッときてしまう。
「いや、そうだよな。悪かった。食べていいんだよ。支払いは全部こいつら持ちだから。……ほら! お前ら、また鳴らせ鳴らせ! 盛り上げるんだよ!」
数凪はパンパンと大きく手を鳴らした。
ちょっと遅れてあらためてクラッカーの音とタンバリン・マラカスの音が室内に満ちる。いったい、いくつクラッカーを用意しているのか。
「ほらほら、これこれ」
二人は頭に円錐型のパーティ帽を乗せられ〝本日の主役〟のタスキを肩からかけられた。
「存分に食べていいんだよ。これ全部経費で落ちるから。伊都ちゃんも了承済みなの」
沙希が声を掛けると、
「いただきます!」
姉妹は同時にテーブルの上の食べ物を口に詰め込み始めた。
猛烈な勢いである。しばらく全員黙々と食べた後、少し落ち着いて
「……誰かの誕生日なの?」
と、四季が真ん中に置かれていたケーキを食べながら訊ねた。
どう見てもバースデーケーキなのだ。
「誕生日コースがお得だって意見が通っただけだよ。私は止めたんだけどね」
葉子が答えると、姉妹はクスッと笑った。
「そういやお前ら三つ子だったんだな。全然気付かなかったわ」
子供が水面に石を投げ込むような唐突さで数凪が口を開いた。
「あ、いや、えーっと」
「今?」
笑顔で〝今?〟と言った方が四季である。
「まあ、はい。そう……です」
微妙な距離感を保ちつつ数凪を言葉を認めたのが紅葉。
「かしこまらなくていいじゃん。入れ替わってたんだろ?」
数凪は当たり前のように話しているが、この事実を受け入れるまでかなり抵抗があったのである。
SNOW総出で説明をしても心底までは納得いってなかったようだが、このカラオケBOXで二人並んでいるのを目の当たりにした瞬間に腑に落ちたようなので、そこはさすがであった。
「はい」
初対面ではないものの接触していたのは身分を偽っていた時である、という事情の故のこの態度である。
「見事なお点前でしたよ」
雪枝もなんとか紅葉の心をほぐそうと、多少ぎこちなくだが微笑んでいる。
最早説明するまでもないかもしれないが、四季と入れ替わっていた紅葉が千代エービルから逃げた理由の一つは、姉妹が双子ではなく四季・真希・紅葉の三つ子だったということがどうしても世間にバレたくなかったからである。
そのまま居てもバレないかもしれないが、事件の告発をしようと思えばそうはいかない。経緯の説明は必須である。三つ子がバレたくない理由はスパイめいた活動をしていたことが世に知れるのが嫌だったからだ。
「まー、あんまり人に言えないこともやってるから……。三つ子がバレちゃったらスパイもバレちゃうと思って。〝鉄壁のアリバイ〟として利用したこともあるからね。スパイみたいなことやってた、って世間に知れたら大和さんと一緒に芋づるで吊し上げ喰らうだろうし、迷惑かかっちゃうから」
〝人に言えないこと〟の部分は、SNOWとしてもよくわかる話だった。
もちろん、直接の敵討ちも狙っていたので雪枝の推測は概ね当たっていたといっても良いだろう。数凪に残したメモも雪枝の推理通り、警察に紙魚達夫を捕まえてほしくないための自分を囮にした時間稼ぎである。
その場でやろうという方向に思考が向かなかったのは、すぐに用意出来る適当な武器がなかったからだと思う、と紅葉は語った。
ちなみに四季真希の名字は〝夕山〟であるが、紅葉は〝森〟である。
「森紅葉ってなんか冗談みたいな名前でしょ?」
とは本人の談だ。
四季真希と紅葉は姉妹なのだが、出会ったのはある程度成長してから、とのことであった。少なくとも〝四月二日の奇跡〟よりは前のことなのであろう。
物心つく前に両親が離婚し、紅葉は母親のほうに引き取られたという事であった。もっともその母とも幼い頃に死別してしまい、祖母に養育されたと紅葉は語ってくれた。
「……まあ、どっからどうみても私が〝ハズレ〟引いたほうだよね」
やっと口が軽くなってきた紅葉が自嘲気味に言うと、
「そういう言い方するのやめてくれる?」
と、四季が返す。
二人ともリラックスしているところをみると、わだかまりは少なくとも今はもう無いようであった。
お互いに存在すら知らなかったところ、たまたま四季真希がアイドルとして活動している場面を目撃した紅葉から接触して知り合ったらしい。まだユメノラビュリントス在籍時のことである。
しばらくは普通にお互いの近況を知らせあったり情報交換しているだけだったのだが、そこで〝四月二日〟であった。
「いや、なんか困ってたから……力になれないかなー、と思ってなんとなく映像見ながら特訓してみたら出来ちゃってさ」
紅葉はあっけらかんと話す。
「ほんとに驚いたよ……出来てたから。紅葉から言ってきたんだよ、やりたいって」
四季は半ば呆れていたが、SNOWのみなさんとしては呆れるどころではなかった。
「あり得る? そんなの」
「才能エグ」
「あの時の映像結構見ましたけど、素人っぽいとか全然思いませんでしたね……」
「まあでも、シミタツさんは動画見返してて気付いたんだろうね。さすが熱狂的なファン……元」
二人が〝さん〟付けを気にしないと言ってくれたので、もう葉子も流暢に喋った。
そしてその〝四月二日〟が、今回の事件が始まった日だったのである。




