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「で、あんたらはなんなわけ? 警察かなんか?」

「あの、私たちはあなたたちの味方なんです。信じてください。難しいかもしれないんですけど」


 岡真銀がおずおずと言った。


「うーん……まあいいよ、信じても。じゃ」


 四季は靴の入った海苔の箱を玄関内に置かせ、さっさとドアを閉めようとする。


「ちょ、待って!」

「いや、靴渡しに来たんでしょ! もう終わり」


「私たちは縁間数凪さんの依頼で、あなた方を探していました」


 雪枝の言葉を聞き、四季はドアに掛けていた手を緩めた。


「なるほど、そっちか……。千代エーが探してるってことね」

「千代エージェンシーは関係ないんですよ」


 雪枝の声も態度も、どこまでも優しかった。


「紅葉さんに会わせてもらえますか?」

「紅葉? ああ、あいつちょっとね」


 妙な間があった。


「……ねえ、もしかして東京行ったりしてる?」


 沙希が問う。静寂。


「マズいですよ!」

「今日、イベントかなんかあったっけ?」


「……の、トークイベントがありますね! 迂闊でした! とりあえず連絡しましょう」


 雪枝たち三人がにわかに盛り上がってしまい、取り残された四季は困惑している。


「いや、マジでなんなんだよあんたたち!」

「味方だ、っつってんでしょ!」


 沙希がキツめに大声を出す。


「紅葉さんは、東京で間違いないですか?」


 あらためて雪枝に問われ、

「……そうだよ」

 なにか正体のつかめない、三人の雰囲気に押されつい認めてしまう。強いていえば〝善意〟か。


「どうする?」

「とりあえず手分けして。なりさん・伊代さん・葉子さんに連絡しましょうよ」

「ああそうだ、数凪さんにも」

「あの人結構、未読無視の人だからなあ……」


 途端に慌ただしくなった訪問者たちを前に、四季は相変わらず所在無げだった。


 しばらくして雪枝はふう、と一息ついた。


「やることはやりましたね。後はまあ、私たちに出来ることはないでしょう」

「あの、紅葉さんに連絡取れませんか? なんとかやめてくれるように……」


「んなことするわけないだろ!」 


 この場で、四季が初めて見せた怒気である。声をかけた真銀はビクッと身を震わせ〝ですよね〟と項垂れた。


「……いや、連絡したくても出来ないんだよ。あいつなーんも持ってってないから。連絡取れるような機器」


「片道キップってわけね」


 沙希が言うと、茶々を入れられたと思ったのか四季の目付きが一瞬険しくなる。が、すぐに嘆息して〝まあね〟と応じた。


「ねぇ、とりあえず説明責任は果たしてくんないかな? プライベートを侵略されてんだからさ」

「もちろんですよ」


 ようやく気を許してくれた。雪枝は自然と頬が緩んだ。


「あの、さっきから気になってんだけどさ……。いや、うん。そう。あんた」


 周囲を見回していたが、四季に指差され雪枝はようやっと自分のことだと気付く。


「え? 私だけ……ですか? なにか?」

「いや、あんたらみんな変なんだけど、あんたが特に」


 雪枝は瞼をパチパチさせている。


「なんていうかさ……なんなの? さっきから。その菩薩みたいな表情。っていうか雰囲気」


 脇の二人がこらえきれず、プッと吹き出した。


「言いたいことあるなら吞み込まずに言ってくれない? 気になるし、その、長い付き合いになるような気がするから」

「言いたいこと……」


 雪枝は、暫し沈黙の海に潜って言葉を探した。


「やっと会えましたね」


 時を遡るようにして、拾ってきた言葉であった。


 この場に相応しいかどうかはわからないのだが。とりあえず。


 亡くしてしまった思い出に触れるような、ふと遠い望郷の念に囚われた人のような静けさをその瞳に湛えている。


「いや、この人怖いんだけど……」


 残念ながら思いは伝わらなかったようであった。四季は沙希と真銀、どっちに頼ったらいいのかまごついている。


「あの、根は良い人なので」

「大丈夫、大丈夫だから」


 二人して、ひたむきに四季をなだめている。どこか自然保護に従事している人間を思わせた。


「いえ、本当にずっと会いたかったんですよ。それだけです」

「あの、ほんと、そういう……距離感というか……」


 四季は冷たい対応を崩さなかったが、雪枝に傷ついた様子はなかった。


 もし傷があるのなら、それはもっと奥深い場所なのだろう。 

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