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「しかし、これだけのためにここまで連れてきたわけではなかろう? これが間違いなくその時夕山四季が履いていたモノだと確定したわけでもなし。二の矢三の矢はあるんだろうな?」
「三の矢はないので……ご期待に沿えないかもしれませんが」
苦笑しつつ、雪枝は真銀から受け取った包み紙からタブレット端末を取り出した。
「ふん……なるほど。これのおかげでここまで移動させられたわけか」
伊都は渋い顔でタブレットを受け取る。
渋い顔を作っているのには理由があって、電子機器を新たに外部から情報資料室に持ち込むには伊都と雪枝の許可がいることになっているのだ。
今回伊都の許可は取れなかったので、このような仕儀に相成ったのであろう。
「律儀にルールを守るのは結構なことだがな。そもそも私に秘密で事を進めようとするからこうなるんじゃないのか? ん?」
「ちゃんときまりを守ろうとしてるんだから、そこは褒めてくれてもいいじゃんねえ」
「ですよね」
ボソボソ囁きあっている沙希と真銀を伊都の矢のような視線が貫いた。
「私は〝みんなでルールを守りましょう〟みたいな低次元な話しはしてないんだぞ? ……覚えてろよ貴様ら」
再び不機嫌そうに鼻を鳴らし、タブレットの電源を入れる。気の抜けたような起動音のののち、液晶に色が灯り始めた。
「どうすればいいんだ?」
「あ、ここをタップしていただいて……」
雪枝の指示通り進めて、目当てのフォルダ内のデータに行き着いた。余計なものは何も入っていないので比較的わかりやすい。
「音は? ミュートしなくていいのか?」
「入ってないです」
ふむ、と応じて、伊都は複数ある動画データの一つをタップする。間もなく再生プレーヤーが起動して動画が流れ始めた。
解像度はまあまあといったところだった。なにか散漫な印象を与える映像である。どこかの建物の中のようであった。
「しかし妙なアングルだな」
訝し気に目を細める。そのまま十秒ないし十五秒ほど画面を見つめていて、伊都は眉を跳ね上げ、あっと声を上げた。
「お前! これは……監視カメラか?」
自分の手で口を塞ぎ、声が漏れないようにしている。雪枝は黙って、はっきり首肯して見せた。
「千代エービルのだな? ……あの日のものか」
監視カメラの性質上、日付と時刻がスタンプされている。さすがに伊都はすぐにこの映像の意味を把握した。雪枝は再び頷く。
「お前、こんなものをどこから……しかし、こんなものを見せたいなら、それこそ地下の〝情報資料室〟こそ相応しいだろうに」
舌打ちしながら、雪枝、沙希、真銀と順番にねめつけていく。驚きながらでもいやみを忘れない伊都であった。
「ここ、夕山四季さんと数凪さんです」
静かに指摘しながら雪枝は画面の一点を指差した。映像の奥。左の方にこちら側に向かって歩いてくる二人が映っていた。
一階エントランスのようで、ガラス張りの中庭から流れ込む赤朽葉の斜陽が両人の半身を照らしている。
「ふむ。この二人か」
さすがに伊都も何か思うところがあるらしく、引き込まれるように見つめている。
「これでは少しわかりにくいですね、こっちを……」
雪枝は一旦動画をストップし、他の動画ファイルを開いた。今度は白い部屋の白い椅子に数凪と四季が座っている。休憩室のようだ。さっきよりは大きく映っている。
「こいつら、のんきそうに喋っているな」
僅かになにか痛みを感じているかのような口調で伊都が言う。確かに数凪は上機嫌で、四季も穏やかに応じていた。
「ここ、注目してもらえますか? 拡大した動画と画像もありますので合わせて……」
雪枝は慌ただしく指を動かし、端末を操作した。
横向き画面の半分と、上半分と下半分。四季の足元が大映しになっている。
「うん。同じだな」
伊都はもう一度手袋を嵌め、海苔の箱から注意深く編み上げ靴を取り出した。
「……同じだ」
動画部分を一時停止し、ゆっくり目の前の実物と見比べ再び呟く。
そして、やりきれないような感情と共に静かに吐息をついた。




