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浅春斑雪(はるあさくゆきははだれ)  作者: 八花月
10.光降る場所
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「そういや数凪さんがユッキー褒めてましたよ」

「へえ、なんて言ってた?」

「自分勝手で凄い、って」


「ほほー、なるほど。意外な視点だな。スゥはそんな風に観たんだ」

 

 てっきり笑うかと思っていたのだが。葉子にとっても意外な反応だった。

 ……〝スゥ〟は、ごくごく親しい者の間での縁間数凪のあだ名である。


「意外すか?」

「うん。僕の中では雪枝は自己犠牲の人だから」


『ああー、そうか……』


 確かにそうとも取れる。今回は周囲も巻き込まれているので、なかなかそう見え辛いのだ。


 ちなみに葉子はこうなったことに関して特になんとも思っていなかった。


 どちらかといえば最終的に面白ければ良しとする側の人間だし、あんなシチュエーションで自分たちのアイドル活動を優先するなんてありえない、くらいは思っている。


「まー、しかしグループのこと考えない、って言うんなら(ひのと)も相当だと思うけどね。あんまり自分勝手だと思われないのは人徳かしら?」


 白楽丁は前グループのリーダー兼センター。トップオブトップだった存在である。葉子にとっては十子以上に遠い存在だった。


「数凪さん、だいぶユッキーのこと気に入ったみたいで」


 はたから見ていても気安くなったというか、明らかに距離が縮まっているように感じる。


「ふうん、あの娘もなかなか抜け目ないね」


 よく意味がとれず葉子は〝えっ?〟と聞き返してしまった。


「あれ? わかんない? スゥは雪枝の好みドンピシャだよ?」


「えっ……ええっ? そうなんですか?」


 十子は流し目で悪戯っぽく微笑む。言われてみれば。確かにそういう感じの時はあった気がした。


「ああいうの好きなの、雪枝は昔から。〝気は優しくて力持ち〟タイプ。乙女とかさ」


「ええ~……でも私、全然タイプ違いますけどユッキーには結構好かれてると思いますよ」

「そうなの? でも僕のほうが好かれてるって思うな」


 二人は顔を見合わせ、思わず吹き出してしまった。


『……あれ? もしかして帰れない感じ?』


 気付くと会話に付き合わされている。調子が狂う。


「あの、本当に楽しい時間だったのですが、そろそろ例のモノをですね……」

「えええ~~~?」


 葉子が、なんとか気持ちを入れ替えて話し始めると、途端に駄々っ子のような声を上げて首を後ろに倒した。


「なにか用事あったりするの~?」

「用事っていうか、今私たち死ぬほど忙しいの知ってますよね?」


 少し強めに言ったのだが、十子は全然めげなかった。


「ほんと? それ」


「……折角外出れたんで、久々に本でも見に行こうかなって。いや、忙しいのも本当ですよ?!」


 嘘は全く言っていない。ただ、いつもとは意味合いが違うが、言わないで良い事を言ってしまっていた。


「本かあ……ブックね。どういうの?」


「ええっと、取り合えず新刊書店に行ってクロスワードの雑誌買って、ついでに古本屋行って個人出版の句集でも漁ろうかなーって」

「くしゅう? って?」


 怪訝な顔である。


「ああ、俳句の句集ですよ」

「俳句! 俳句なんてやってるんだ?」


「ええ、まあ個人的な趣味の範囲なんですけど……」


 故郷では句会のようなところに出入りしていた時期もあったが、こっちに来てからは時間も取れず、そういう場はとんとご無沙汰であった。


「いいじゃん俳句。そういうTV番組とか出てみれば?」

「番組? って、あのEテレのやつとかですか?」


 存在は知っているが視聴したことはない。せいぜい古本屋で時々番組の雑誌を買ってみるくらいの距離感だ。


「いや、そういうのじゃなくて民放でさ、あるじゃない? 芸人さんとか色んなタレントが怒られながら俳句作ったり絵描いたりするようなやつ」


「?! ゴールデンのですか? 出られるわけないじゃないですか!」


 とてもではないが今の葉子くらいの、いやSNOW全員だが、アイドルが出演できるような番組ではない。いや、Eテレのだって無理なのだが。


「素人みたいなこと言わないでくださいよ!」

「え~? だって僕、素人だもん」


 鈴のような声、というのか、で、十子はころころと笑っている。その挙措動作のいちいちが軽やかにキマっていた。


 この人が一般人で自分がアイドル、というのもなんだか悪い冗談のようである。


 ……本当に、貰うものを貰ってさっさとこの場を立ち去りたい気分になってきた。


 一つ咳払いをして覚悟を決める。よし! 話を逸らされずに催促するぞ! と思った矢先、


「ねえSNOWの中でさ、葉子くんは『六ツ院雪枝』と『大江なり』どっちが仲良い?」

 機先を制されてしまった。


 しょうがなく、もう少し付き合うことにする。

 

……雪枝はまだわかるが何故に相手がなりなのだろう? と葉子は考えたが、なりはよく社外の色んな人物との繋ぎもやっているので十子との接触率も高いのだ、と思い至った。おそらく結構親しいのであろう。


「まぁユッキーですね」


 なるほどお、と十子は小鳥のように相槌を打った。


「僕って人と会う時、わりと周りの人間のこと聞いちゃうんだけどさ、雪枝となりちゃんどっちがキミについてよく話すと思う?」


 量の問題なのだろうか?


「……まあ、ユッキーじゃないすか?」


 よくはわからないが。雪枝は葉子がSNOWに加入する以前からの付き合いなのである。


「ところがね~、意外や意外! なりちゃんも雪枝と同じくらいキミのこと喋るんだよ?」

「はあ……でも別に計ったりしたわけじゃないんですよね?」


 何をどう計ればいいのか? まあ時間か。


 十子の意図がさっぱり読めない。


 それはそうなんだけどね~、とニコニコ笑いながら十子は葉子を見つめている。葉子はまた呆けたように〝はあ〟と惰性で返した。


 ……ナリナリが? 自分についてそんなに話すことがあるのか? どうもよくわからない。普段、意識している世界の外に思いを馳せる。


 眉間に皺を寄せ空中を睨んでいると、


「キミ、変わってるってよく言われない?」


 十子はちょっと首を傾げ、独特の角度から問いかけてきた。


「冗談ですよね?!」


 思わず言ってしまう。少なくともこの場では、どう考えても変なのは十子のほうだ。


 悲鳴のような葉子の主張を聞いて、十子は見ていて心配になるほどケタケタと大声で笑った。薄っすら纏っていた上品さもその瞬間は消し飛んでしまっている。

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