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浅春斑雪(はるあさくゆきははだれ)  作者: 八花月
9. Melancholy
36/59

036

「もしもあんな事件がなければ、おそらく成功していたでしょう。もちろん軽々と、とはいかないかもしれませんが、おそらく一時代を築いていたんじゃないでしょうか」


「つまりそれが〝在り得たかもしれない未来〟?」


「ええ。今のプロジェクトでヨネプロ組以外のアイドルグループは皆、発足以来の生え抜きです。どうですか? L⇆Right! 以上の資質を持った方々っていると思いますか?」


「まあ……四季真希が新レーベルの〝顔〟だったんだなーってのは日々実感してるよ」


 元々二人が属していたインディーズのグループ〝ユメノラビュリントス〟も、どちらかといえばアーティスト寄りの評価が高いところではあったが、その中にあっても二人の実力は突出していた。


ように、調査の過程で動画をチェックしたSNOWの面々は感じていた。


「っていうか、すかいふぃっしゅだって凄いんだけど、L⇆Right! と比べたらちょっとわかんないよね。総合力っていうか、輝きみたいなとこだと負けてるかも」


 雪枝は静かに頷いた。


「ええ……でも、やっぱりすかいふぃっしゅは大したものですよ。見ているとL⇆Right! のことも相当研究しているのがわかります。彼女らもまっすぐな努力家ですよね」


 ……話している時は、二人はなんとなくお互いの顔を見ている。音だけが耳に届いている状態だ。


 ムービーは、そのまま流れるままになっていた。


 ディスプレイの色素が閃き、ちらちらと光を放つ。なりと雪枝の瞳や頬の面に淡い色彩を残し虚しく消えていく。


 なりは、ちらと画面に目を遣った。相変わらず四季真希姉妹の姿が映っている。軽やかで幻想的なステップ。カメラが切り替わる。



 跳ねる。回る。捻る。歌う。叫ぶ。一つ、解き放つ。恐れ、希望、後退、振り返って。


 前進。眩しく。



「まぁ、ハッパもかけられているでしょう。プロジェクトに入る時点でL⇆Right! と比べられるのは、もうわかっていることですから。すかいふぃっしゅは、ヨネプロを背負っているような部分もあると思います。あわよくば乗っ取ってしまえばいい、くらいの期待もかけられて」


 雪枝の語りの後で、なりはクスッと笑みを漏らした。


「私たちと違って?」

「私たちと違って」


 ようやく雪枝は顔を綻ばせた。


「……もしもあんなことがなければ、彼女たちの前にはどんな風景が広がっていたんでしょうね」


 しかしまだ、どうにも何かの痛みに耐えかねているような声音である。


「非常に、その、おこがましいのですが、私はまだ救えると思っているんです」


 雪枝はぽつりと呟いた。


「逃げてる四季を?」


「ええ。アイドルとして復帰……までは、私たちの判断出来ることではありませんが、えっと、少なくとも、まだ人の世で生きていくという意味では」


 なんとも回りくどい、わかりにくい言い方である。


 ただ、なりには雪枝が言いたいことを察することが出来た。


「……ねえ、なんで急がなきゃいけないと思ったの? 調査を」


 雪枝は逡巡している。


「自分の手で真希の敵討ちしようとしてるんじゃないか、と思ってるんでしょ?」


 四季が逃げている理由。意味不明な時間稼ぎをした理由。


「ええ」


 雪枝は短く肯定した。


「なんで?」

「私ならそうするからですよ」


 今度は、迷わなかった。


「何でそれ言わなかったんだよ、あの時」

「……フェアじゃない気がして」


 なりはふう、と大きくため息をついた。


 私ならそうする。別に確かめようとは思わないが、あの時あのカラオケBOXの一室にいた人間ならおそらく皆思うのではないだろうか?


 そういう集団なのだ、SNOWは。いや、自分たちは。


『そこが一線なのか』


 フェアネスの一線。手練手管と卑怯の間。奇妙だが、雪枝のそれはこの辺りにあるようだった。


「少しずつわかってきた気がするよ、あんたのこと」

「え? 今ですか?」


 雪枝は心外そうに言った。


「そろそろ付き合いも長くなってきたし、結構話してると思うけど、まだまだわからないことはあるよ」


 なりは、あははと笑って軽く流した。


「そういうものですかね」


 しばらくなりに不思議なものを見るような視線を向けたのち、雪枝は再び画面に向き合った。動画はまだ続いている。


「十子さんがあんたのこと気に入ったのって、こういうとこなのかもねえ」


 なりは、感興に耐えられずついつい口走ってしまう。〝土佐十子〟は彼女らが前にいたグループで、雪枝を諜報部のリーダーに抜擢した人物なのである。


「〝こういうとこ〟って、どういうところですか?」

「え~~?」 


 あどけない表情。まったく、この娘は。可笑しい。笑ってしまうと、もう負けだ。


「考えてることあんま喋んなくて、暗くて、自分勝手で、熱いとこだよ」


 数凪が雪枝を〝面白い〟と評した地点へ数凪とはまた違った側面から、なんとなく自分もたどり着けたような気がした。いや、同じ面かもしれないが。


「そ、その、それは〝陰キャ〟みたいな意味でしょうか?」

「まあそんな感じかな」


 なるほど、と応じ雪枝は黙ってしまう。そろそろ話題を変えたほうが良さそうだな、となりが思っているところに、ちょうどおあつらえ向きの動画が流れてきた。


「あー、これ〝四月二日の奇跡〟じゃん。私、動いてるの見るの初めてだわ」


 元々四季真希が属していたグループ、ユメノラビュリントスのライブ映像である。雑音や手振れがひどいが、動画の一般撮影は許可されていないので公式スタッフの手になるものであろう。


「それはいけませんね。勉強不足です」

「え? もしかして怒ってる?」

 

 雪枝は答えない。


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