033
「精神病んだ人多くね?」
さらっと一読したのち尾鷹葉子が口走ると、佐神沙希と海原伊代も複雑な顔で頷いた。
今、地下の情報資料室に居るのはこの三人である。みな、空いた時間に集積されていく資料に触れるようにしているのだが、今日のこの時間はたまたまこの三人だったのだ。
「男性陣は全滅ですな……」
「いやー、まあ、そうなっちゃう人が多い業界だってのは聞くけどねえ」
伊予は何故か他人事のように言った。
「じゃあ、一応書き足しとこっかな」
沙希は一言漏らし、マスターデータファイルのそれぞれのプロフィール欄末尾に、新たな情報を継ぎ足していく。
〇葉埼朱英
~~~~……
※数凪さんの一言コメント
基本的には良い人。怒ってる時は面倒なので近づきたくない。
〇ナミサヤカ
~~~~……
※数凪さんの一言コメント
良い人。話しやすい。面白い。
〇Chaos
~~~~……
※数凪さんの一言コメント
一言で言うとクズ。
〇紙魚達夫
~~~~……
※数凪さんの一言コメント
良いやつ。苦労してそうだけどあんまりそういうの表に出さない。
〇大和兎
~~~~……
※数凪さんの一言コメント
良い人だけどちょっと苦手。なんか鋭い。
「書く意味ある? これ」
「室長、一応なんでも全部書いてって言ってたからね……」
数凪経由の情報で有益なものは、もちろん他にたくさんあるのだが本人の印象のようなものをこのような形でまとめたのである。
「やっぱ〝カオスのおっさん〟が際立ってるな~」
葉子の言う通り、一人だけ〝良い〟の文字がコメントにないChaosに目が行きがちではあった。〝カオスのおっさん〟は数凪の言い方だが、今ではSNOWの皆にまあまあ浸透してしまっている。
「あの人確かに良い噂全然聞かないし、数凪さんもずっとボロクソに言ってるけどさ、私そこまで嫌な印象ないんだよね」
伊予が言うと葉子が〝わかる~〟と応じた。
「つかさ、あんまり喋んなくない?」
確かにSNOWでいうと雪枝が二言三言リーダーとして言葉を交わしたことがあるくらいで、覚えている限り他の者は話したことがない。
「あー、それなんか〝基本アイドルを見下してるから〟って数凪さんが言ってた」
「えっ? でもあの人、昔自分がプロデュースしたアイドルに手つけてなかった?」
沙希や伊予たち世代でも生々しく知っている。そのスピード破局も含め当時はかなり大きなスキャンダルであった。
「見下しつつ依存してるんだって」
「それは……ちょっと腹立つな」
伊予の顔がほんの少し険しくなる。
「あと葉埼さんとかウサギさんとかに、あんまアイドルと喋んなって言われてるみたいよ」
葉子が言うと他二人が顔を向けた。
「どこ情報?」
「他のグループの娘。〝カエデ・リラ〟だったかな」
「それは商品に手ぇつけるな、的な?」
「そのコはそう言ってたけどね~」
沙希は葉子の喋った情報も書き足していく。
「あとあれだね。Chaosさんっていえば、数凪さんあれも言ってたな。〝あいつ、昔バンドで自分が作詞作曲した歌、今回のプロジェクトでアイドルにカバーさせる気なんだぜ? ありえねー〟って」
「え? 本当なの? それはなんで?」
「〝印税でちょっとでも稼ぎたいんだろ。昔の自分のバンドも再注目されるかもとか考えてんじゃねえの?〟って……これも書いといたほうがいいかな?」
沙希は手を止め二人に確認する。
「う~ん。あんま関係ないかもしれないし、本当かどうかはいずれ分かるから確認出来てからでも……」
「金に困ってるってことの傍証になるかもしれないし、まあお人柄を表す材料として一応但し書きつきで書いとけば?」
は~い、とリラックスしきった緩い返事をして、沙希は手を動かす。




