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「……依頼者の数凪さんは、私たちの好きにしていい、ってお考えなんですよね?」

 

 なりが水を向けると数凪は〝まあな〟と仏頂面で答えた。


「その、お気持ちとしてはどうですか?」

「お気持ちってお前……お気持ちなんて言ったってしょうがねえじゃん」


 雪枝に問われ、数凪はプイッと顔を横に向けてしまう。わかりやすい。 


 伊予は意を決したようにすぅっと息を吸い込み、

「私はやったほうがいいと思う」 

と言い放った。


「え? その、どっちを?」


「調査。夕山四季の居場所を探すこと」


 短く言葉を切る。ぐるりと全員を見渡した。


「犯人は……まあ四季を探してる過程で見つかるかもしれないけど、その時考えればいい。とりあえず数凪さんの頼みは四季を探すことだし……なんていうか上手く言えないんだけど、ほっとけない気がする」


「室長さんも急いだほうがいい、って言ってたけどね」


 なりがちらっと目をやると、雪枝と視線がかちあってしまった。独特のあどけない表情。ちょっとドキッとする。


「なんだろね。急ぐっていうか、どういう事情にせよ四季は逃げてるわけじゃん? 生きてんならさ。私たちもそこに関わるならプロジェクトの中で何が起きてるのかは知っておきたいね」


「こう、くちはばったいんだけど、困ってんなら……あたしらに出来るんなら助けてあげたいって気持ちもあるにはあるというか、なきにしもあらずというか……」


 口を開いた沙希の語尾が、だんだん小さくなって溶けていく。


「いやまあ、照れなくていいんじゃないの? そこは」


 少しおどけた口調で葉子が言ったが、誰も笑わなかった。


「数凪さんはどう思います?」

「私の意見はさっき言っただろ」


「いえ、このまま調査を続けて危険性はどのくらいあると思いますか?」


 顔を背けていた数凪が、なりに向き直った。


「危険性……そうだよな。殺人犯がいるかもしれないとこでお前ら色々調べるんだもんな……そういうことだろ?」

「ええ、まあ。それだけではないですけど総合的に」


 指を頬骨に当て、数凪はしばらく真剣に考えた。


「わっかんねえ。なんとも言えねえ。ただ、私が知ってる中ではそんな、人殺したりしそうな奴いない、と思うけどなー……雪枝、お前はどう思う?」


「そうですね。差し当たり用心するしかないのではないでしょうか? 数凪さん以外のプロジェクト関係者とは二人きりにならない、とか危ないカマのかけ方をしないとか……」


 数凪の口元が奇妙に歪む。


「いやお前それ、やる前提になっちゃってるぞ」


 なりと伊予がほぼ同時に、海より深いため息をついた。


「い、いえ、違いますよ! 違います! あくまでも仮にやるとするなら、という話で……その、やるとするのであれば、ある程度危険は避けられないと思います。えー、しかし私たちが調査部としてやっていることは誰にも知られてはならない、という原則は変わりませんので見方によってはやること自体は変わらないかもしれないのですが、その、やはり気持ちといいますか、精神的には負担が大きくなるかもしれませんね」


 数凪はマジマジと雪枝の顔を見つめている。


「な、なんでしょうか?」


「お前……本当にいいのか? そんなにこの調査やりたいの? 私としてはな、その、こんなんなっちゃって悪いな、って気持ちはあったんだぞ? 罪悪感っつうか。ホント知らなかったんだけどさ、お前らのチャンスと依頼が重なっちゃって」


 視線そのものに問い質すような圧があった。雪枝は何という事もなく受け止めている。


「どういう感情なわけ? リーダーなんだろ? 葛藤とか無かったのか? この事が分かってからどういう風なこと考えたの?」


「えっとですね、えー……伊都ちゃん……弊社の長尾伊都からSNOWのプロジェクト選出の話を聞かされた直後、という意味でしたら、これでやりやすくなるな、と思いました」

「やりやすく?」


「調査が、です。そのですね、プロジェクトに関わる人々、とりわけ大物の五人の方々などの場合、私たち程度の知名度では直接的な接触は難しいですから。内部の人間になってしまえば、まあ下っ端といえども距離は格段に近くなりますので。現に沙希さんもその恩恵を受けたようですし……」


「お前すごいな!」 


 数凪は移動して真正面から雪枝の肩をがっしと掴んだ。


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