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「先程も言いかけたのですが今回の事件、この〝わからない〟が特徴の一つだと思えるんです。皆さんに色々調べてもらって、いよいよ謎が深まりましたが、その事自体私は悪いことだと考えていません。簡単に言うと〝わからないことがわかった〟からです」

  

「む、無知の知みてえなヤツか?」


「ああいえ、そういうことではなく具体的というか……もう少し俗な話です」


 雪枝は苦笑し数凪に応えた。暫時思いに沈み、やがて顔を上げすぅっと息を吸い込む。


「今回の事件、四季さんに関して考え方としては三つあると思うんです。一つ、〝四季さんは死んでおり死体は隠蔽されている〟。これはわかりやすいですね。二つ目、〝四季さんは何らかの形で共犯者である〟。犯人としないのは、数凪さんの証言があるからですね。ビル内にいるにしても逃げるにしても協力者がいれば格段にやりやすいですし――この場合の主体は四季さんであり〝協力者〟は犯人としておきましょう――生きているとすれば未だに表に出てこないことにも説明がつきます」


 二番目は伊代としても(問題はあるが)まだ納得のいく考え方だった。数凪を一瞥すると、複雑な顔をしている。


「三つ目、〝四季さんは生きており、自ら千代エービルを脱出した。共犯者でもなく理由はわからないが未だ何処かに潜伏している〟。私はこの第三の道を取りたいと思います」


「な、なんでよ? カン?」

「まあ、カンと言えばカンですかね」


 雪枝はおすまし顔で呟いた。伊代をはじめ、当然大多数の者は納得いっていない。


「まずやっぱりメモの存在が大きいですね。〝自分と居たことは誰にも言わないでくれ〟これは、どう考えてもその後消える前提の言い分でしょう?」


「それはそうだけど……その時は自分で逃げる気だったけど、その後逃げる途中で殺されたってことだってありうるじゃん」


「ビル内でですか?」 

「ま、まあそうなるかな」


 そもそもが精神的ショックを受けた状態で、四季が冷静に行動して誰にも見られずにビルを脱出出来るだろうか? という話から始まっている。


「なんといいますかこう、無理がある気がしませんか?」



「室長が言ってることだってそうでしょ! 仮定ばっかでさ……」

 まあまあ、と伊予に向かって柔らかく押し止めるジェスチャーを示した。


「仮定ついでに考えてほしいんですが……もしご自分ならどうです? 四季さんと同じような状況で千代エービルから脱出できますか?」


「いやだから、そりゃ出来るってば!」


「ピタリ、同じシチュエーションですよ? 非常に親しい仲間―ご兄弟でも親族でもかまいませんが―が、よくわからない亡くなり方をした直後。もちろんこの事件のために何かを事前に用意することは出来ません。そんなことがその場で起きるなんて予想もしてなかった状態で」


 伊予は雪枝に言われて少し考えてみた。各自も頭の中でシミュレーションしている。


「まぁ……出来るかな」 


 みな慎重にお互いの様子をうかがいつつ微かに頷いた。真銀だけは肯定を表すように片手を小さく挙げている。


「私は出来ねー、って言わなくて良かったか?」


 答える代わりに、雪枝は数凪に向かって穏やかに微笑んでみせた。


「もし良ければ、どのようにするか言ってもらえますか?」


「ど、どのようにって……」

「具体的に?」


 大部分の者は明らかに当惑している。


 数凪がいる状態で普段自分たちのしていることを話してしまうのはマズいのではないか? という当然の危惧であった。


「この際かまいませんよ」


 彼女らの心中を知ってか知らずか、相変わらず雪枝はニコニコ笑っている。


「ぴったり同じシチュエーションってことは、私たちは千代エー所属のアイドルってことでいいのね?」

「ええ。なんなら今のみなさんの立場のまま、このヨネプロのビルから脱出ということでもOKです」


 ちょっとしたどよめきが起こった。


「場所は大事じゃない、ってことは……方法論よりも技術的な話ってこと?」


「ええ、そうですそうです。SNOWとしての立場で」


 伊予のおかげでスムーズに言いたいことが伝わり、雪枝は上機嫌である。


『本当に言っちゃっていいわけ?』


 半ば自問のように目で訴えたが、やっぱり雪枝の考えはよくわからない。


 もういいか。知ったこっちゃない。


「そうね……現在の状況から逆算して考えるとして〝誰にも見られず脱出〟して〝未だに発見されてない〟んだから、まぁ変装はするわよね」


「変装?! ってお前、変装くらいすぐわかるって! 始終顔突き合わせてる奴いっぱいいるんだぞ?」


 数凪が大きな声で反応した。


 伊予は〝それみたことか〟といった視線を雪枝に向けると、微かに頷き返してきた。


〝大丈夫〟。


「わかりますよ、数凪さん。アイドルは普通によく変装しますからね」


 アイドルに限らず名の売れた芸能人はファン避け・報道避けのために変装すること自体は珍しくない。


「ただ、今伊代さんの仰っているのはそれとは少し違う話で、普段見慣れている人でもわからなくする変装のことなんです」


 納得はしてないようだが、数凪は〝ふうん〟と唸り再び話を聞く態勢に戻った。


 伊予を始めSNOWの面々は雪枝たちも含め、普段から変装用に数種類の眼鏡や小物を持ち歩いており、いわゆる『お忍び』用のものとは分けている。


 もっともSNOWは本業のアイドルは、それほど売れていないので『お忍び』のために構える必要もあまりないのだが。


「……加えて千代エービルのあるところはオフィス街。私の年齢も加味して、ビルの中でも外でも違和感のない服装、まあ千代エーのアルバイトスタッフみたいな恰好するでしょうね」


「その辺りはヨネプロも場所は違えど立地は似たようなものですね」


「ちょ、ちょっと待て! 事前に準備出来ないんだろ?」


「〝この事件のためには〟なんでしょ?」


 伊予は笑顔で雪枝が頷くのを確認し、

「私たち、普段からそういう備えはしてるんですよ。ヨネプロでもSNOWが何やってるか知らない人も多いので」

 ぼやかした説明をしながら、伊代は何か理由もなく背筋がゾクッと震えるのを感じた。

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