014
「お前らちょっと先走り過ぎだよ! そう捲くし立てられたらこっちまで引っ張られちまうだろ」
「いや、メッチャ自然な流れっすよ」
「室長、会議中に考えてること口に出しちゃうの癖なんですよ。あんまり気にしないでください」
葉子となりが数凪を宥めるが、
「皆さんと考えを共有しているだけですが……えっ? 私のせいですか?」
雪枝は少々不満そうであった。
「しかし……なんといいますか、調査するにもある程度的を絞ったほうがいいでしょうね。人員も時間も限られてますし」
「時間も?」
「ええ。数凪さんも早い方がいいでしょう?」
〝お、おお〟と数凪は怪訝な様子ながらも頷いた。
「まず方針としては、第一に何よりも夕山四季さんの行方を探しましょう……その生死を問わず」
「その、やっぱ死んでる、と思うか?」
「何とも言えませんね。いずれにしても〝何が彼女に起こったのか?〟を解明するのが今回の調査の主眼であるということです」
何がしかの思いを秘めた、強い瞳で語り続ける。
「同時にプロジェクトを進めていた五人の方々についても情報を集めましょう。こちらはとりあえずオープンソースのもののみでいいでしょう。気になるところがあれば、そこを掘り下げていくということで……。調査の過程で数凪さんにもご協力いただくことがあると思いますので、その節はよろしくお願いします」
雪枝は話の流れで申し訳程度に会釈し、数凪は片手を挙げて応えた。
……のだが、この場に居る二、三人の者の表情に当惑の色が隠せない。
「あー、あのさあ、えっと、ちょっと質問ってか意見なんだけどさ」
ちょっと間を置いて、沙希が発言する。
「やっぱ大物五人を調べるほうが先じゃない? その、元々数凪さんの依頼が四季の行方を探すことだ、ってのはわかってるんだけどさ」
「なぜ?」
雪枝は目をしばたかせているだけなのだが、何か妙な圧があった。
「いや、ほんと、別に室長に異を唱えようってわけじゃないんだけど……やっぱ怪しいっちゃ怪しいし、行方のわからない四季を探すほうが手間な気しない? 楽そうなほうから攻めたほうがいいかなーって」
「なるほど一理あります」
存外素直に頷いた。
「ただ私の意見を言わせてもらえば、おそらく先に夕山四季さんの行方を探すほうが手間は省けるでしょう。工程が少なくなるという意味です。比較の問題ですが。……皆さんお忘れかもしれませんが、ヨネプロ調査機関としてのスノウの存在は出来るだけ衆目に晒されないほうがいいんですよ」
二、三の者があっ、と何かに気付いたような顔をした。
「そこはしっかりしてくださいね……数凪さんも」
「わかったって! それはもう、事情は聞いたからさ」
「知名度はいまいちとはいえ、私たちも一応は芸能界に籍を置くアイドルです。万が一にも私たちが事件のことを調べていると、調査対象の方々に知られてはなりません」
「相手は業界人だし、周辺のことを直接調べなきゃいけない場合は私たちを知ってる人間と接触する機会も多いか……確かにリスクは少し高くなる」
「出来ないわけじゃないけど……」
「一工夫がいるね」
それを雪枝は工程と表現したわけだった。
「捜査権があって尋問出来るわけではありませんしね。自ずから限界はあります。もちろん私たちがアイドルをやっていることにはメリットも大きいんですよ」
概ねの人間は軽く首肯し同意を示した。
「……まあ、こんなのはいいわけみたいなものです」
「ええっ!?」
「納得してたのに!」
「お茶目すぎんよ~」
口々に不満を吐き出すスノウの面々を一渡り眺め、雪枝は〝どうしようかな〟とため息と共に呟く。
「WHY、ですよ。5W1Hで言うと」
「なんて?」
「〝なぜ?〟です」
にっこり笑って語り始めた。
「いつどこで、ではなく、どうやって? でもなく。そして誰? でもなく……。『なぜ? なぜ? なぜ?』徹頭徹尾これです。〝真希さんはなぜ上の階に行ったのか?〟〝真希さんはなぜ死ななくてはならなかったのか?〟〝四季さんはなぜいなくなってしまったのか?〟〝四季さんはなぜ未だに見つからないのか? どこにいるのか?〟WHEREも混じりましたかね」
「生死を問わず?」
と、なりに訊かれ、雪枝は軽く頷く。
「全ての『なぜ?』は繋がっています。おそらくその中心にコアとなる何かがあるでしょう。それを解きほぐせば自然に解決しますよ。あとはまあ……状況から観て計画的な犯行ではないだろう、ということもありますかね」
「衝動的にやっちゃったことだと感情の流れを追いにくいからね」
沙希も納得したようである。
誰かの何かの行動の理由を追いたい場合、雪枝たちは周辺の状況と人間関係を調べ、感情の流れ(仮想のものではあるが)を追う、という作業を時々やる。
おそらくこういう仕事で一般的なやり方ではないだろうが、芸能界の事件では意外に役に立つ方法なのであった。
「計画的にするとしたら室長ならどうしますか?」
「そうですね、やっぱり毒物などを使うほうが……」
「いや、まだ殺人って決まったわけじゃないだろ!?」
真銀と雪枝が物騒な話を始めたまさにその時、数凪が思い出したように訴えたが周囲から〝まあまあ〟と宥められてウヤムヤになってしまった。
「ったくよお……お前らいっつもこんな殺伐とした話してんの?」
「あなたが持ってきた話でこうなってるんですけども」
葉子の余計な一言でまた一悶着起こりそうになったが、ここではそれに言及しないことにする。




