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012

 上からのGOサインが出たことにより、SNOWは本格的に調査に着手することになる。それを踏まえあらためて数凪に面会し、話を聞くことになった。


 場所は前回と同じカラオケBOXである。SNOW全員と縁間数凪が一堂に会していた。


 みんな揃っているのは、今回基本的な事項はなるべく直接頭に入れておいたほうが良いと判断した雪枝の方針の故である。


「なんだよ雁首揃えて。全員居んのかよ。お前らヒマなんだなー。私の方が忙しいんじゃないか?」


 顔を合わせるなり、数凪は相変わらずズケズケと言った。ニコニコ笑いながら、いやみのない調子なので始末に悪い。


 雪枝は何か意味のない言葉を発しながら苦笑いで誤魔化した。SNOWが忙しくないということも、また一面の事実には即しているからである。


 数凪は特に断ることもなく、ソファにどっかりと腰を下ろした。


 〝社長みたいだな〟と、なんとなく海原伊代は思った。具体的な社名が浮かぶわけではない。ただのイメージの問題だ。とにかく何か〝長〟のつく役職。


 何はともあれ、正式に調査部として依頼を受けられることになった、と数凪に伝えた。雪枝たちからすると朗報なのだが、数凪にはいまいちピンときていないようであった。


 今日はより詳しく数凪に話をしてもらう予定である。聞きたいことの中には千代エージェンシーの内部事情なども含まれるので、その旨は伝えておいた。


 数凪は快くOKしてくれたのだが、この点についてもその意味がわかっているのかわかっていないのか、いまいちうかがうことが出来ない。


「まず……この間数凪さんから聞いた話は全て本当のことである、と仮定してお話を進めていきます」


 数凪は神妙な顔で頷く。


「その上で何か思い出して訂正したいことがあったり、付け足したりすることを思い出したら遠慮なくすぐに仰ってくださいね。話の腰が折れてもかまいませんので」


「お、おう」

「数凪さんを信頼してるってことですよ」


 横から言葉をかけた真銀に、不思議そうな顔をして再び頷いた。


「まず数凪さんは、夕山真希さんは何故亡くなったとお考えですか?」

「なんでっておまえ……窓から落ちたからじゃん。落下死?」


「ええと、事故死、自殺、殺人のどれかでいうとどれだと思います?」


 数凪の身体に一瞬緊張が走ったようだった。何も想定していなかったはずはないのだが。


「だよな……うん、事故、はないと思うんだよ。多分。直接見ればわかると思うんだけど、間違って落ちちゃうようなとこじゃないから、あれ」


 誰とも視線を合わせず、想像力を働かせているようである。


「最近、落下防止で高いとこの窓開きにくくなってますもんね」

「それそれ」


 数凪は我が意を得たり、と沙希を指差した。


「じゃあ、自殺のセンも無さそうすか?」


 葉子の言葉を聞き険しい顔つきになる。


「自殺……自殺なあ……そりゃ、そこそこの付き合いはあったんだけど、内面のこう、詳しいとこまではわかんないんだけど……私はないと思う。あいつらわりと希望に燃えてたしな」


「とは?」


「なんか上の方であいつら売り出していく、って決まってさ。ちょうどプロジェクトみたいのが動き出したとこだったんだよ」


「それを当然ご本人たちは……?」

「知ってたよ。ちょっと浮足だってたな。しょうがないけど」


 暫時遠い目になる。


「そりゃ順風満帆に見えても、悩み事とかあるかもしんないしさ……。なんとも言えないとこも多いんだけどプロジェクトに大きな不満もなさそうだったし、あのタイミングで死にたいって気にはならないんじゃないかなあ……」

「い、意外と繊細すね」


 そう? と数凪は若干嬉しそうに返した。


「数凪さん、優しいですよ」


 雪枝も何故か嬉しそうである。


「と、いうことは、ええー、誰かに殺害された、という可能性が高いとお思いですか?」


「それなー……っつか、う~ん……。だよなー……」


 数凪は目に見えてしょんぼりしている。


「そういうことになっちゃうんだけどなあ」


「もしかして犯人とか思い当たってたりします?」

「うーん……」


 なんとも煮え切らない態度である。


「なんかさあ、嫌じゃない? 別にこう、ケンカとかはするけどさあ。いや、口ゲンカね? 千代エーの人たちも、みんな悪い奴らじゃないし。名指しするのはなんかなあ……。チクるってんじゃないけど」


 確かに今のSNOWの面々から見れば、数凪の物言いは繊細そのものと言ってよかった。


 この純情というのか素直な感覚というのか、は逆に新鮮である。


「いや、私たち警察でもなんでもないんで……」


「数凪さん、それでは誰が犯人か? ということではなく、可能性の問題として考えてみてはどうでしょう?」


 怪訝な様子の数凪を前に、雪枝はニコニコしながら続けた。


「たとえば数凪さんの立場で言えば、ご自身は犯人ではないし、真希さんの死亡時にご一緒していた四季さんにも犯行は不可能ですよね? じゃあ関係者で真希さんに害を為すことが可能なのは誰だとお思いになりますか?」


「ああ、そっか……。私はすぐ中庭に出たから……あの時あそこにいた奴らは多分無理だよな」


 虚空を睨み記憶を探り始める。


「そういや、どの窓から落ちたかとかってわかってるんですか?」


「ああ、うん。いや、はっきりとはわかんないみたいだけど、だいたい状況から観て六階以上の高さから落ちたってことらしいぞ」


「では、その時に千代エービルの六階以上に居た人物、に真希さんを落下させることが可能だったということになりますね?」


 少なくとも、と雪枝は付け足した。


「うーん……」


 数凪は、ちょっと俯き加減で微妙な顔付きを見せた。


「何か思い当たるところがおありですか?」

「こ、心読むなよ!」


 二つのたなごころを見せ、車のワイパーのようにブンブン高速で動かす。


「いや、その、思い当たるっつうか、私が知ってるうちだと確実にその時七階に居た人たちがいるなー、とか……」


「教えていただけます?」

「別に容疑者とかそういうアレではないので……」


「わかってるって。可能性、だろ? え~、あれなんだよ。さっき四季真希を売り出すプロジェクトが進行中だった、って言ったじゃん? 『L⇆Right!』の。ちょうどあの日七階でそれの会議やっててさ。主だった連中が頭突き合わせてたの。んーと」


 記憶の糸を手繰り手繰りしながら、話し続ける。


「ナミさんにカオスのおっさんと、シミタツ……あとは葉埼さんとヤマトさん」


 数凪はせっかくそらで思い出したのだが、詳しい説明を求められ結局メモを取り出す羽目になった。

 

 数凪によると『ナミさん』は作詞家のナミサヤカ、『カオスのおっさん』は作曲家・Chaos(カオス)、『シミタツ』はアイドル部門のチーフマネージャー兼『L⇆Right!』のマネージャーの紙魚達夫、『葉埼さん』は専任プロデューサーの葉埼朱英、『ヤマトさん』はアイドル雑誌『NEO NECO!』の編集長・大和兎、とのことであった。


「なんか濃いメンツだよな~」


 アハハ、と大口を開けて数凪は屈託なく笑っている。


「いや、濃いってゆうか……」

「みんな結構な大物ですね」


 雪枝は瞳をクリクリさせながらメモ帳の名前に見入っていた。〝興味深い〟以外の感情が無さそうに見える。

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