011
「縁間のほうだが……千代エーの例の転落死事件は私も気になっていたところだ。ヤツの依頼は行方不明の双子を探してくれということだったな?」
「ええ、双子を見つけることが出来れば事件も解決するだろう、との見通しでした」
「楽観的に過ぎる気もするが……率直に訊こう、解決出来そうか?」
「はい」
軽く応じた雪枝を、葉子は思わずガン見してしまった。
「縁間の将来性は?」
「それは……正直わからない部分はあります。今のところ見込まれているようですが、ああいうご気性ですから」
「なんかでブチキレたら、またすぐクビんなるよ。あれ」
伊都は続きを促すでもなく、目前の二人を見据えている。
「ただ、矛盾するようですが、お人柄はとてもいいんです。短気な部分やこう……少し粗暴なところはあるんですけど、面倒見がよくてさっぱりしてて」
「好かれるちゃあ好かれるタイプかもね。アタシも嫌いじゃないよ。つか好きなほう。芸能界じゃ、ああいう裏表がない人珍しいし」
「人脈が勝手に広がってくタイプの奴か。お前たちの真逆だな」
「アンタもそんなタイプじゃないだろ!」
いきりたつ葉子に、伊都はうるさそうに手を振る。
「そうだな……無条件でそれを利用出来ると考えれば悪くない費用対効果かもしれんな」
「ええ、私としてはそちらで返済してもらえればと考えてるんです」
「タダより高いものはないっていうけど……」
当然のように人間関係を担保として考えている二人を、葉子は半ば呆れつつ眺めていた。
『あの人自分のあずかり知らない所で、どんどん負債溜まってっちゃってるよ。かわいそうに』
「もう一度聞くが、解決する自信はあるんだな?」
「あります」
拍子抜けするほどの自然さで応じた雪枝を見て伊都は軽く頷いた。
「本来アルバイトは推奨してないのだが……よし、許可しよう。まあ、なんだ、私もあの事件は気になっていてな。真相がわかるのならそれにこしたことはない」
伊都は自分を納得させるようにブツブツ言いながら去っていった
「即答してたけど自信あんの?」
「自信ない様子だったら許可してくれませんよ」
微妙に首を傾げ、
「ちょっとこう……知りたくないですか?」
雪枝は猫のように瞳をきらめかせながら言った。
珍しいものを見て葉子はドキッとする。
「な、なにを?」
「私たちがどこまでやれるのか」
歌うように口ずさみ、雪枝は軽やかなステップで再び地下へ帰って行った。
自分たちの居場所へ。
「雪枝さんたち、伊都っちにお小言言われてるみたいでしたね」
「ですね」
自販機のある休憩室で、夢叶となりは一息ついていた。
「……なんかちょっとかわいそうですよね、SNOWのみなさん。アイドル活動もしながら伊都っちの雑用みたいなこともさせられて。あ、もちろん私も手伝ってくれてるなりさんが一番大変だと思いますけど」
「あー……アレ好きでやってるようなとこありますからね。私もそうですけど」
ちょっとどう答えるべきか迷ってしまう。こういう仕事の辛いところだ。
「あのー……ちなみに、ああいう仕事もやってて、何かSNOWのみなさんにとって有利になることってあるんですか? ポジション的にってゆうか……」
なりは一瞬間を置き、気取られないようじっと夢叶を観察してみる。
うん。好奇心以外に意図はなさそうだ。
「ないですよ。伊都ちゃんそんなので下駄履かせてくれるほど気が利いてませんから」
冗談めかして言ったが、なりは心の中で伊都に手を合わせて謝っていた。
「そうですか……」
夢叶が不満そうに口を尖らせた時、ちょうど千里が鼻歌を歌いながら休憩室に入ってくる。
「あ! 千里さん!」
急に名を呼ばれ面食らっている千里に、夢叶は犬のように駆け寄った。
「なるほど」
千里はSNOWの待遇について問われ少し考え込む。
ちらりとなりを見る。なりは視線に気づくが、ちょっと途方に暮れてしまった。まごついてばかりもいられず、お願いします、という風に軽く会釈する。
「うん。まあ、適材適所ということですね」
千里はあまり深みを感じさせない笑顔で、にっこり笑ってみせた。
「はあ……」
他にどうすることもできず、夢叶は怪訝な様子で頷いた。
「あの人、きっついですね」
来た時と同じように機嫌良く鼻歌を響かせながら千里が部屋を出て行った後、夢叶はなりに耳打ちする。
「あははは……」
なりは乾いた笑いで応じるしかなかった。




