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浅春斑雪(はるあさくゆきははだれ)  作者: 八花月
3. 統合情報会議
10/25

010

『EARTH NAVI』という旅行雑誌からの連絡と、その雑誌について簡単に概要を整理したものに目を通しつつ、


「ふうん……。囲み記事みたいなのじゃなくて、特集ページで見開きなのか。なかなか良い扱いだな」


「SET☆LEMON及び間加田さんの知名度を考えれば破格といってよいかと」


 ふうううん、と伊都は返事と呻きを兼ねたような音を発しながら見本の雑誌をパラパラめくっている。


「〝Meets! 新しい自分へ〟……。なんというか、こう、想像していたよりキラキラ感がスゴいな」


「だからマッカちゃんにオファーがきたんですよ! なんせアイドルですからキラキラ需要にも対応できます!」

「なるほど」


 惰性を感じさせる相槌を打ちつつ、伊都は再び間加田がフル装備で滝行に励む画像に目をやる。


「しかしなんというか、客層がなあ……。こういう雑誌の読者に女性アイドルがそんなに訴求するかどうか……」


「新規開拓だと考えればよろしいのでは。今まで関心がなかった層の皆さんが何かしら興味を持ってもらえれば御の字ではないでしょうか?」


「そうだよ。このままだとどうせ頭打ちだもん。少子化だしさ」


 お前らが言うか、とおそらくは八割方葉子に向けて言ったのだが堪えた様子はなかった。


 しばらく僅かに険しい目付きを向けた後、

「かなり熱心にやっているのか? 間加田は」

 伊都は再び質問する。


「ええ、もちろん! マッカちゃんパッションの人なので!」

「パッションか……」


 浮かない顔で大きいため息をこぼした。


「ビジネスライクにやってもらえればいいんだがな……コントロールは可能だと思うか?」

「もっちろんです!」


 元気良く言い切った夢叶の後、雪枝、なり、と順番に伊都は視線をかち合わせていく。


「サポートはできます」

「間加田さん、話は聞いてくれる人なので」


 雪枝となりの返事を聞き、伊都は難しい顔のまま舌打ちした。


「よし、いいだろう。やってみろ」


 部屋中に安堵の空気が流れる。いつのまにか移動していたなりが、無表情で夢叶とハイタッチしていた。


 いくつかの議題を片付け、いくらかの問題が発生し、それらは次回へと持ち越される。会議はおひらきとなった。


「間加田のことだが」


 帰り際、伊都が唐突に口を開いた。


「その、いつでも引き返す道はつけておいてやってくれよ」

「えっ……」 


 雪枝が目をパチクリさせていると、


「大丈夫です! マッカちゃんは必ずやりとげますよ!」


 横から夢叶がガッツポーズで割り込んでくる。


「それじゃダメだと言ってるんだぞ! わかってるか?!」

「わかってますわかってます!」


 笑いながら手を振って去っていく夢叶を、伊都は苦虫を噛み潰したような表情で見送った。


「……お前らの負担も増えるのだが、えらくゴキゲンだな」


 やおら矛先が雪枝たちに向かう。


「随分と肩入れしていたようだが」


 なりは素知らぬフリをして、そそくさと夢叶についてその場から消えた。


ほーらおいでなすった、とさすがに身構える葉子だったが雪枝は

「それがお仕事なので」

 とニッコリ笑ってみせる。


「あー……月は何故光ってるか知っているか?」


「? 太陽光を反射しているからでは」


「そうだな。おまえたちのことだ」

「搦め手からきたね」


 余計な茶々を入れた葉子にきつい一瞥を投げながら、


「アイドルというものは太陽。どんなに小さくとも恒星だ。衛星ではない。自らで輝かなくてはその名に相応しくはなかろう。時に」


 伊都は雪枝に向き直った。


「最近SNOWのほうの成績はあまり芳しくないようだが」


「調査部じゃなくてアイドルとしてのってこと? そこそこがんばってると思うけど」


「そこそこでは話にならんな。現状維持は後退と同義だ」 


「じゃ、調査部の方オンリーでもいいから人数増やすとかしてよ。両立は厳しいって」 

「お前の意見は?」 


 会話していた葉子はスルーし、あくまで雪枝を見据える。


「えー……それは少し置いておいて……お聞きしたいことがあるんですけど」

「なんだ?」


 言外に苛々が滲み出ているが、一応聞いてはくれる伊都である。


「実はですね……」


 雪枝は丁寧に先日数凪の依頼を受けたことを話し始めたのだが、はたで見ていてもみるみる内に伊都の機嫌が悪くなっていくのがわかった。


「お前は人の話を聞いているのか?!」


 案の定雷が落ちる。


「わからなければわかりやすく言ってやろう。耳の詰め物を取って良く聞いておけ。調査部の仕事も結構だがそろそろアイドルとしての飛躍も考えてみたらどうだ、と言ってるんだ……いや、考えてみたらどうだ、ではないな。考えろと言ってるんだ」


「まあまあ、アイドルの方は急にどうこうなる話でもありませんから……数凪さんとの関係を構築しておけば、いずれ戦略マネジメント部の利益につながりますよ」

「そうそう。引いてはヨネプロのため」


 苦々しそうに雪枝と葉子を見ていたが、やがて根負けして問うた。


「……回路として使えそうなのか?」

「ほい」 


 葉子は手際良く資料を渡す。


「縁間数凪……元アイドルで今、千代エージェンシーでAP……旧Salt、AcCordの残党……お前らの仲間で……ああ! あの暴力大将か!」


 記憶の糸が繋がったようだった。



「ウチは暴力大将二人いるんで……」

 尾鷹さん、とやんわり雪枝がたしなめる。


「もう一人はたしか四国かどこかに行ってるんだったか」


「〝地方振興おたすけし隊〟で活躍なさってるそうで……」


「活躍?」


「幽霊かおばけかなんかが出てくる、なんか特撮? みたいな動画がバズってたよ」

「わけがわからんな。どいつもこいつも」


 伊都はバッサリ斬って捨てた。




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